今週の一冊『べてるの家の「当事者研究」』
(本日のお話 2413字/読了時間3分)
■こんにちは。紀藤です。
昨日土曜日は終日研修。
「組織ビジョン」がテーマでした。
ご参加頂きました皆さま、
改めてありがとうございました!
*
さて、本日のお話です。
毎週日曜日は、お勧めの一冊をご紹介する、
今週の一冊のコーナー。
今週の一冊は、
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『べてるの家の「当事者研究」』
浦河べてるの家(著)
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です。
■「べてるの家」。
これは
”北海道浦河町にある
精神障害等をかかえた当事者の地域活動拠点”
です。
そこで暮らす
精神障害等を抱えた当事者にとっては、
・生活共同体
・働く場としての共同体
・ケアの共同体
という性格を有した場でもあります。
(Wikipediaより)
■統合失調症、
境界性人格障害、
PTSD、拒食症。
そんな苦労を抱えた方の
地域活動拠点で行われたことが、
『当事者研究』
というものでした。
■さて、ではこの
「当事者研究」とはなにか?
ざっくり言うと、
統合失調症などの精神障害にまつわる
爆発・幻聴・摂食障害等々を
”本人(当事者)が研究者となり
『自分自身を研究』するプロセス”
なのです。
■その始まりは、
こんなおはなしでした。
以下、本書の序文から
引用させていただきます。
(ここから)
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(当事者研究という活動が始まった)
きっかけは、
統合失調症を抱えながら、
”爆発”を繰り返す
河崎寛くんとの出会いだった。
入院しながら親に寿司の差し入れや
新しいゲームソフトの購入を要求し、
断られたことへの腹いせに
病院の公衆電話を壊して落ち込む彼に、
「一緒に、”河崎寛”とのつきあい方と、
”爆発”の研究をしないか」
と持ちかけた。
「やりたいです!」といった
彼の目の輝きが、今でも忘れられない。
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(ここまで)
この誘いを持ちかけられた当事者いわく
「自分を見つめる、とか
反省するといか言うよりも、
『研究』と言うと
なにかワクワクする感じがする。
冒険心がくすぐられる」
とのこと。
■そうして、この「べてるの家」で、
当事者研究が始まり、
様々な”当事者(研究者)”が、
多くの研究を行っているのです。
例えば、本書から
こんな研究結果(!)が紹介されていました。
<”暴走型”体感幻覚の研究
~もう誰にも止められない~>
<くどさの研究
~幻聴さんにジャックされる人・されない人>
<爆発の研究
~「河崎理論」の爆発的発展!~>
<「自己虐待」の研究
~そのメカニズムと自己介入について~>
などなど。
”治療”とか”反省”という
言葉は一切ありません。
だって、研究ですから。
「そういう自分がある」と
「研究」対象として見ていく。
そして自分自身の爆発その他を
「実験サンプル」として、
研究班と共に見つめていきます。
■特徴的なのは、そこに
ユーモアが多分に入っていること。
「幻聴さん」とか
「くどうくどき」など
それぞれの症状に
個性的なニックネームを付けて
”自分とわけて”考えたりもします。
■例えば、こんな研究が
紹介されていました。
<「摂食障害」の研究>。
渡辺瑞穂さんと、
摂食障害研究班の共同研究です。
*
この研究では、
研究員(摂食障害を皆持っている)が
それぞれ自らの”食べ吐き”の
パターンを紹介しあいます。
そして、
「個別的な部分」と
「共通の部分」を分けて
内容を書き出すのです。
10時間かけアツい議論と
検討を重ねる中で
あえて問いを変えてみます。
「どうしたら摂食障害を作り出せるのか?」
と探求をしました。
■すると見えてきたことがありました。
「摂食障害」という果実を
収穫するためには
以下の条件を整え、
土壌を整える必要がある、と。
・親の顔色を伺い、評価を受けることにこだわる
・人生にできるだけ高い目標を掲げる
・孤独であること、安心の感覚をもたないこと
・気持ちを隠す(偽りの表現を乱発し、相手に安心感を与える)
・社会の風潮や流行に敏感になる
・イメージトレーニング(痩せれば人生が変わるなど)
・弱さを憎む
などなど。
これらの”土壌”を耕すことで
自分が悪い、あきらめ、
無力感、むなしさetc.が育ち
ネガティブ&閉塞的な感情がすくすく育ち
大収穫(摂食障害など)を迎える、
という「研究結果」が得られました。
■その後続く研究で、
”食べ吐きのスキル研究”
(シナリオの作成と実行/演技力)
”この道を極めるために
何が必要であるか”
などを探求し、その過程で
研究員に見えてきたことがありました。
それは、
”「自分の弱さや醜さとのつきあい方」が
不器用である”
ということ。
そうして、
これらのプロセスを歩む中で、
自分を見つめ、
自分を受け入れ、
不思議と元気になっていく、
という作用があった、
とのことでした。
■興味深いのは、
「当事者研究をやればやるほど
なぜだか元気になってくる」
という、
不思議な効果があると
いずれの事例でも紹介していることです。
精神科でも、
その他の療法でも、
改善がなかったこと。
それを「当事者研究」というプロセスで
1)"問い”によって自分自身を見つめ、
2)「どんな時に、どのようなメカニズムで
どのような現象につながるのか?」を研究し
3)そのパターンから「自分の取扱い方を学んでいく」
ことにより、
”自分を乗りこなす方法”
を身につけていくからことで、
結果的に望ましい状態に
近づけられているのだろうな、
と感じたのでした。
■このお話から学ぶこと。
それは、誰もが
何かしら抱えている中で、
”自分自身を研究すること”
の価値です。
人によって、大なり小なり、
色々なクセがあると思います。
例えば、
・ちょっと怒りっぽく
つい感情的になってしまったり、
・強く言われると、つい「YES」と答えて
あとから後悔してしまったり、
・大人数の場で話すと
顔が赤くなって喋れなくなってしまう
、、、等々。
■自分がどんな時に
どういう行動が起こるのか?
自分自身の「当事者研究」を重ねて、
「自分の取り扱い説明書」を作る。
自分をうまく乗りこなすために
とても重要な示唆を与えてくれる
学び深き一冊だと感じました。
お勧めでございます。
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<今週の一冊>
『べてるの家の「当事者研究」』
浦河べてるの家(著)
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