コーチング・エンゲージメントを高める4つの視点 ー論文「理論的伝統とコーチングジャンル:領域のマッピング」(前半)
(本日のお話 2122字/読了時間3分)
■おはようございます。紀藤です。
昨日日曜日は、読書や論文について
自宅にて地味に進めておりました。
ふと気づけば、大学院の論文提出などに向けて
あと3ヶ月程度になってしまいました。
仕事でバタバタとしているうちに、
だいぶ時が過ぎてしまっていたため、
ピッチを上げて作成していかねば、、、
と思うこの頃でございます。
*
さて、そんな中で本日も
「コーチングに関する論文」について
ご紹介させていただければと思います。
個人的に、この論文は
”コーチングの世界を網羅的に理解できる論文”
と感じ、ひとり気分が上がっておりました。
Cox, Elaine, Tatiana Bachkirova, and David Clutterbuck. 2014.
“Theoretical Traditions and Coaching Genres: Mapping the Territory.”
Advances in Developing Human Resources 16 (2): 139–60.
(理論的伝統とコーチングジャンル:領域のマッピング)
という論文でございます。
コーチングに関わる人は
知っておいて損はない内容かと思いました。
それではまいりましょう!
タイトルは
【コーチング・エンゲージメントを高める4つの視点
ー論文「理論的伝統とコーチングジャンル:領域のマッピング」(前半)ー】
それでは、どうぞ。
■コーチングって複雑だな、、、
とよくよく感じます。
調べるほどに
関わる理論や研究が多様であることを知り
手法も様々にあることを知ります。
ご紹介させて頂いた論文からの
言葉を借りると、
”コーチングの理論的基盤が学際的であり、
カウンセリング、心理療法、哲学などの分野から影響を受け、
実践的なアプローチが生み出されている。
このような理論の折衷的な利用は不確実性を海、
時にコーチングは無理論、未発達であるという批判を招く”
(Cox,2016)
と述べています。
すなわち、平たく言い換えると
「コーチングって、
使えそうな理論を混ぜこぜで使ってるから
何が効いているのか証明できないんじゃない?
(=理論的・経験的に未発達)」
というツッコミが入っている、ということかと。
■しかし、確かにそうなのです。
例えば、一般的に知られている
コーチングやそれにまつわる書籍でも
・傾聴(共感、要約、感情の反映、確認、沈黙)
・質問(オープンクエッション、挑戦)
・承認(励ましと賞賛)
・GROWモデル(目標設定と行動計画)
等のスキルが語られます。
しかし、そもそもこれらは
心理療法やカウンセリングと共通するものだったり、
別の領域として研究されていたりもします。
■ゆえに、
コーチングって、どんな理論が基盤になっているの?
コーチングって、他(心理療法やメンタリング)とどう違うの?
コーチングって、どんなアプローチがあるの?
という
『コーチングの理論的伝統&領域のマッピング』
を行おうじゃないか、としたのが
今回ご紹介の論文となります。
また少し長くなりますので、
前半、後半に分けてお届けできればと思います。
まず前半のメインは
「コーチングを構造的に分析する」を中心に
ご紹介してまいります。
以下、まとめでございます。
(ここから)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【論文まとめ「理論的伝統とコーチングジャンル:領域のマッピング」】
<コーチング・エンゲージメントの構造的分析とは>
・コーチングへの動機づけ(エンゲージメント)のために、
どのような事が必要になるのだろうか?
本論文の著者らは、コーチング・エンゲージメントの主要な面を
重要な4つの構成要素に分類しており、次のように主張する。
<a)個人としてのクライアント>
◯コーチの資質
・特定の領域で経験を積んでいること。
・特定の理論やツールについての基礎的な知識を持っていること。
・対人関係スキル、外向性のレベルはどれくらいか。
◯クライアントとのマッチング
・コーチの資質や、コーチングのアプローチやスタイルと、クライアントが求めるものが合致しているか。
・職業倫理のレベルなど非常に重要なものがあるためその根拠を示せるか。
◯コーチの成人発達のレベル
・成人の発達レベルも、コーチがクライアントをどのように理解し、コミュニケーションするのか。
異なる発達段階にあるクライアントに対してどのように効果的であるかに影響を与える可能性がある。
<b)個人としてのコーチ>
◯クライアントの意図と準備
・コーチングの成功には、コーチの資質と同じくらい 、クライアントの意図と準備が重要。
(コーチは信頼関係を生み出し、クライアントのエンゲージメントを促進するためのトレーニングを受けているとはいえ、
自分自身だけでそれを生み出すことはできないため)
<c)コーチングの関係性とプロセス>
◯{関係性}:対等な関係であること
・コーチとクライアントは対等であり、その関係には上下関係があってはならない。
・このため、管理職が初めてコーチングスタイルを採用する場合、組織の関係性が優先されることが多く、
コーチングの実施が難しいと感じることが多い。(=上下関係で対等になりづらい)
◯{プロセス}:コーチの基本ルールを意識すること
1)常に技術とその背景にある理論や知識体系を理解しようとすること。
2)適用する前に、各テクニックを自分自身で振り返り、練習すること。
3)クライアントの理解と同意なしにテクニックを使用しない(少なくとも、それを機能させることに貢献できるように準備する)
4)常にコーチングの広い哲学の中でテクニックを使うこと。
5)ツール(GROWモデル等のフレーム)をたくさん持っていても、それを使っているとは限らない。
実際、道具への依存度とコーチとしての経験・実績には負の相関がある。
(=すなわち慣れてくると、ツールを手放す様になってくる)
<d)コンテクスト(文脈)>
◯コーチングが行われる文脈を理解する
・組織の文化もコーチングに影響を与える可能性がある。
例えば、経営者が「コーチングに対する疑念」を持っていると、
組織の真の意図(コーチングを通じて人材開発を進める意図)を損なう可能性があることがある。
・あるいは、より社会的、政治的、経済的な要因もコーチングに影響を与える。
例えば、米国では”目標設定をより重視する傾向”があり、ヨーロッパでは”目標設定に対して懐疑的な傾向”がある。
(David,2013)
※以下論文を参考にし、著者にて補足しました
Cox, Elaine, Tatiana Bachkirova, and David Clutterbuck. 2014.
“Theoretical Traditions and Coaching Genres: Mapping the Territory.”
Advances in Developing Human Resources 16 (2): 139–60.
(理論的伝統とコーチングジャンル:領域のマッピング)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(ここまで)
■こうしてみてみると、
なるほどな、と思う面がいくつもあります。
まず、コーチングとは、
コーチとクライアントの2者間で行われるもの。
ゆえに、
・コーチ
・クライアント
・コーチとクライアント
・それぞれが根ざしている文脈
が影響していることは自明です。
それらについて、上記のように分けて考えると、
「コーチング・エンゲージメント」つまり、
コーチングに対する動機づけ、双方の結びつきが高まり、
コーチングを機能させるための条件を整えることができるのでしょう。
■また、個人的に面白いな、と思ったことは、
<c)コーチングの関係性とプロセス>のプロセスにおいて、
「3)クライアントの理解と同意なしにテクニックを使用しない」
などは、確かに言われてみたら
その通りだと思います。
「上司が、急に妙な対話の仕方を始めたぞ・・・」
という疑念、違和感を持たれないように、
どのようなツールをどんな意図で使うのかを伝える必要もあるでしょう。
また、
「5)ツール(GROWモデル等のフレーム)をたくさん持っていても、それを使っているとは限らない。
実際、道具への依存度とコーチとしての経験・実績には負の相関がある。」
もそうで、「守破離」ではないですが、
ある程度慣れてきたら、特定のやり方を手放す方向に
進んでいくという感覚を言い表していると感じます。
■ということで、本日はここまで。
また明日は
「コーチングにおける理論」
「コーチングアプローチの多様性」
についてご紹介いたします。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
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<本日の名言>
善と悪とは誰にでもわかる。
混ざった時に区別できるのが賢者である。
サキャ・パンディタ(チベットの宗教家)
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