コーチングを支える理論 ー論文「理論的伝統とコーチングジャンル:領域のマッピング」より(中編)
(本日のお話 3194字/読了時間4分)
■こんにちは。紀藤です。
昨日は2件のアポイント。
またお昼と夜はシステムコーチングを学んだ仲間との会食でした。
お互いのことを深く話をしたことがある仲間で、
それぞれのステージで頑張っているのを見て、
大いに刺激を受けた次第。
自分も頑張ろう、と思った1日でした。
*
さて、本日のお話です。
先日は(も)コーチングに関する論文を
ご紹介させていただきました。
個人的に
”コーチングの世界を網羅的に理解できる論文”と感じており、
丁寧に読み解きたいと思っております。
※昨日のお話はこちら↓
『コーチング・エンゲージメントを高める4つの視点』
https://1lejend.com/b/detail/HSfoIRnMfw/4299330/
それでは早速ですが、
今日も引き続き、以下論文、
Cox, Elaine, Tatiana Bachkirova, and David Clutterbuck. 2014.
“Theoretical Traditions and Coaching Genres: Mapping the Territory.”
Advances in Developing Human Resources 16 (2): 139–60.
(理論的伝統とコーチングジャンル:領域のマッピング)
より学びをご共有させていただければと思います。
それではまいりましょう!
タイトルは、
【コーチングを支える理論
ー論文「理論的伝統とコーチングジャンル:領域のマッピング」より(中編)】
それでは、どうぞ。
■コーチングとは、
「学際的な分野」である
と言われます。
ちなみに「学際的」とは
”学問の一専門領域とそれに隣接する他の領域の間に存在する中間領域を意味する
したがって,その中間領域の研究を試みようとするのが学際的研究となる
とのことで、すなわち
色んな理論が混ざっている中間地点にあるので、
なかなか捉えるのが難しい領域、とも言えるかと。
■先日のメルマガでも、
「コーチング・エンゲージメントの構造分析」ということで、
コーチングのエンゲージメント(動機づけ・関与の深さ)を
決定するものとは、
・コーチの要因
・クライアントの要因
・クライアントとコーチの関係性の要因
・コンテクスト(文脈)の要因
という4つの要因が関わっているなどとお伝えしました。
ただ、上記の”要因”を明確にするための学問、
すなわち理論や先行研究があるわけです。
そしてそれらの要因に関する理論/研究を紐解くことで、
より学際的な領域であるコーチング、
中間領域であるコーチングの姿が見えるようになる、
と言えるのではないかと思います
■さて、ではそんなコーチング。
一体、どのような理論が
関わっているのでしょうか?
以下、論文より紐解いて見たいと思います。
(ここから)
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【コーチングに関連する理論】
・以下3領域が重なり合っている領域がコーチングである
a)「個人としてのクライアントとコーチ」に関連する知識:
・発達心理学や実証心理学など。個人に関わる心理学全般。
b)「コーチングの関係性とプロセス」に関連する知識:
・心理療法、教育学、コミュニケーション学など。幅広い学派の知見。
c) コーチングの「コンテキスト」に関する知識:
・社会学、人材開発、組織開発など。相当に幅広い領域
【コーチングに関連する様々な理論や研究の土台となるもの】
◯「成人学習と発達の分野」がコーチングの土台となる
・成人学習は「自分の経験の意味の拡張と明確化」と定義される。
(knowles,Holton and Swanson 2011)
コーチングプロセスで起こる学習と変化のプロセスでは、成人の学習に関するいくつかの理論が鍵となると考えられる。
・具体的には以下の3点となる。
***
<(1)アンドラゴジー(成人学習者のための学習理論)> (Knowles,1990)
・成人学習者の学習方法や取り組み方に影響を与える6つの特性がある。
コーチングの文脈に合わせると、以下のように考えることができる。
1. 大人は自分が何を学ぶのかを知る必要がある
:自立した学習者としての自己概念に訴えかけるものであり、
コーチングの核心となるものである。
2. 大人は自己決定的である
:人は成熟するにつれて、より自己中心的で自律的になる。
彼らは、対等に扱われ、自分の知っていることに敬意を示されることを好む。
このため、コーチングの重要な特徴は、評価や判断のない、非常に具体的なフィードバックをクライアントに提供することである。
3. 大人は豊富な先行経験を持っている
:大人のクライアントが持っている経験の貯蔵庫は、学習と非学習のための重要な触媒である。
コーチは、新しい学習や新しい経験に関連して、クライアントの既存の前提に挑戦する理想的な立場にあります。
4. 大人は、学ぶ必要があるときに学ぶ
:コーチングを受けるのは、一般的に生活や仕事の状況によって
知りたいことや理解したいことが生じたとき、あるいは変化が必要とされるときである。
5. 大人は関連性を重視する
:彼らは頻繁に、新しい学習が問題解決に適用できるように、学習したことをすぐに適用することを求める。
コーチングでは、このことは、クライアントが、少なくとも最初は、目先の問題に取り組みたいと思うかもしれないことを示唆している
6. 大人は内発的動機づけを持っている
:彼らは通常、「内的報酬」が得られる問題解決に役立つ学習に対して動機づけられる
内的なニーズや価値観はより強力な動機づけとなりうる。コーチングでは、クライアントのニーズや価値観と、
コーチングの成果との間に関連性があるという感覚を促進することに重点を置いている。
***
<(2)経験学習> (Kolb,1984)
・学習を成果ではなく、
学習サイクルを表す学習の4つのモード(感じる、反映する、考える、行動する)を
含む全体的なプロセスとしてみるべきと示唆している。
a.具体的経験
:感情を呼び起こす具体的な経験。
b.内省的観察
:経験や感情を振り返り、記述する反射的観察。
c.抽象的概念化
:クリティカルシンキングと連携できる抽象的な概念化。
d.能動的実験
:考えた結果を実行に移す、アクティブな実験。
***
<(3)変容的学習> (Mezirow,1990)
・変容的学習 (Mezirow, 1990) は、
信念、原理、感情に対する根本的な変更を伴う学習のこと。
・Mezirowは変容的学習は、どのように自分自身の理解と世界の意味の作り方を変えることができる知覚の重要なシフトを伴うと説明した。
変容的学習は、私たちが自分自身を変容させるプロセスを指す。
・具体的には「問題提起の内容 、問題解決のプロセスや手順、あるいは問題提起の根拠となった前提条件」についての考察を含んでおり、
この前提条件に対する反省が、Mezirowの定義する「クリティカル・リフレクション」であり、これが変容型(トリ プルループ)学習をもたらすとする。
・コーチングの立場からは、”意味づけの視点”は特に変革が難しいが、深い学びを実現するためにはチャレンジすることが必要である。
※Cox, Elaine, Tatiana Bachkirova, and David Clutterbuck. 2014.
“Theoretical Traditions and Coaching Genres: Mapping the Territory.”
(理論的伝統とコーチングジャンル:領域のマッピング)より
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(ここまで)
■さて、いかがでしょうか。
私がこの項目を読みながら思ったこと。
それは、
1、分類し、構造化して考えること
2、周辺領域を丁寧に学ぶこと
の大切さでございました。
私のような直感型かつ、
論理的な思考が基本苦手な人間ですと、
つい面倒くさくなって
「コーチングは色々関わっている領域なんですよ。
ゆえに、色々な手法と理論がありますよねー」
で、しゃんしゃん、と終わらせたくなるのですが、
(本音を言ってしまった)
とはいっても、
それに関わる理論や先行研究は
頑張れば言葉にできるし、
(例えば、発達心理学、実証心理学、
心理療法、コミュニケーション学、社会学など)
過去の先人の皆様は、
それらを丁寧に紐解こうと尽力されてきたわけです。
■そして、先人の知恵を頼りつつ
それらの周辺領域を丁寧に学ぶことは、
・コーチングで何を起こそうとしているのか
・それにはどんな理論が関わっているのか
について自信を持って語ることができるし
ひいては、実践にも繋がるようにもなると感じます。
また、土台となる理論としての
「成人学習の理論」としての
1)アンドラゴジー
2)経験学習
3)変容的学習
等を頭においた上でコーチングに接することで
「コーチングを進める上で大切にすべきポイント」についても
より明確に理解できる、とも感じました。
■コーチング、実に深いですね。
少しずつ解像度を高めることで
得られることがあるな、と感じた次第。
明日は本論文のまとめの最後、
「コーチングアプローチの多様性」
についてお伝えしたいと思います。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
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<本日の名言>
どんな分野の知識でも、それに熟達するには、
隣接するものについて学ばねばならない。
したがって何かを知るには、すべてを知らなければならないのだ。
オリバー・ウェンデル・ホームズ(米国の作家・詩人・医師)
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