キャリア支援は諸刃の剣 ー論文『従業員のキャリア適応力を支援することは、コミットメント・離職・あるいはその両方につながるか』より
(本日のお話 2354字/読了時間3分)
■こんにちは。紀藤です。
昨日は、コーチング4件。
外部パートナーとして関わらせていただいている
金融機関の人事の皆様へのコーチング、
並びにコンサルティングでした。
夜は、人事の方との情報交換会、
また論文の記述などでした。
*
さて、本日のお話です。
「キャリア」に関する論文から
興味深いものを見つけました。
今日はその内容と学びについて
皆様にご共有させていただければと思います。
それではまいりましょう!
タイトルは
【キャリア支援は諸刃の剣 ー論文『従業員のキャリア適応力を支援することは、コミットメント・離職・あるいはその両方につながるか』より】
それでは、どうぞ。
■これまでいくつかの
「キャリア研修」等で
受講者の方と関わらせて頂いてきました。
その中でたまに起こる事象があります。
しかも研修で影響を受けた人に起こりがちのことです。
それは
「キャリア研修で影響を受けた人ほど
会社を辞める」
という切ない状況です(汗)
■しかしながら、
でもわかる気もするのです。
・自分のキャリアについて真剣に考えた
・自分のキャリア適応力(キャリアへの関心・好奇心・統制・自信)が高まった
としたら、
「もっと別の会社のほうが
活躍できるんではなかろうか」とか
「今の自分の実力ならば、
高待遇で、やりがいのある仕事が
得られるのではなかろうか」
と思ってしまう心理も
想像できなくもありません。
(多分、この感覚は
皆様もお餅ではないかと思います)
■では実際のところ、どうなのか?
このことについて
「キャリア適応力」と
「組織コミットメント」「離職」の相関関係について
調査をしたのが、本日ご紹介の論文です。
論文タイトルは
邦訳『従業員のキャリア適応力を支援することは、コミットメント、離職、あるいはその両方につながるか?』
原題:Ito, Jack K., and Céleste M. Brotheridge. 2005.
“Does Supporting Employees’ Career Adaptability Lead to Commitment, Turnover, or Both?”
Human Resource Management 44 (1): 5–19.
でございます。
■さて、ではこの論文、
どのようなことが書かれているのでしょうか。
以下、簡単に内容をまとめてみました。
(ここから)
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論文まとめ『従業員のキャリア適応力を支援することは、コミットメント、離職、あるいはその両方につながるか?』
<論文の背景>
・キャリア形成のための活動を行う「キャリア適応力」が求められている。
専門職、技術職、管理職 など、かつては安泰と考えられていたキャリアもそうではなくなった。
労働力としての従業員のリスク管理のためにも、キャリア適応力を高めることが求められている。
・そして上司は、キャリアアドバイスの提供などの行動を通じて
従業員の能力開発を支援するように奨励されている(London&Smither,1999)
<論文の目的>
・従業員のキャリア適応力の支援が
組織コミットメントや離職意思にどのような影響を与えるのかを明らかにすること。
<論文の仮説>
以下の説明変数、従属変数の関係を調べる。
具体的には、
仮説 1:感情的コミットメントと(組織への)依存性 は、離職の意図と負の相関がある
仮説 2:キャリア適応力は、 感情的コミットメントと正の相関があり、依存性と負の相関がある
仮説 3:キャリア適応力は、離職意思と正の相関がある
仮説 4:意思決定への参加、自律性、上司からのサポートは、キャリア適応力と正の相関がある
(説明変数)
・上司によるキャリア支援(情報・助言・励まし)
・意思決定への参加
・自律性
(従属変数1)
・「キャリア適応力」
(従属変数2)
・組織コミットメント(感情的コミットメント)
・離職意思
(※図を表示できないため、詳細モデルについては微妙に違います。
詳細は論文をご参照くださいませ)
<検証方法>
・カナダ連邦公務員600人の正社員
男女比率50対50、平均年齢43歳へのアンケート調査表を行い
上記の仮説を検証した。
<結果 ―わかったことー>
◯結論1:
「上司によるサポート」と「意思決定への参加」と「自律性」は、
「キャリア適応力」を促進する。
◯結論2:
「上司による サポート 」は
「感情的コミットメント」と正の相関があり、
「離職意思」とは負の相関があった。
◯結論3:
「キャリア適応力」は
「感情的コミットメント」と「離職意思」の両方に正の相関があった
(=キャリア適応力が高まると、組織へのコミットも高まるが、離職の意思も高まる)
※参考:
Ito, Jack K., and Céleste M. Brotheridge. 2005.
“Does Supporting Employees’ Career Adaptability Lead to Commitment, Turnover, or Both?”
Human Resource Management 44 (1): 5–19.
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(ここまで)
とのこと。
■なるほど、、、。実に興味深いです。
会社の支援施策として
キャリア適応力を高める介入を行ったはずなのに
意図せず「従業員の離職意思を高める」という
結果になってしまう。。。
この副作用的な効果が、
本論文の研究結果から明らかにされています。
■なーんだ、じゃあ、
キャリア適応力を高める施策をやったら損じゃん、
放置しておこう、となるとこれまた悩ましい。
今後は従業員のキャリアレジリエンス、
すなわち変化していく市場に対する
雇用可能性へのリスクに対処ができなくなります。
また、キャリア適応力を高めると
「感情的コミットメント」が高まることがわかっています。
感情的コミットメントが高まると
役割外行動(業務以外の職場にとって有益な行動)が
増えるという研究もあります。
■またその中でも
「上司の サポート 」があると
・「キャリア適応力」が直接高まる(.31***)
「キャリア適応力」が高まると、「離職意思」が高まる(.35***)
というキャリア適応力向上を媒介した離職意思が高まるネガティブな影響もあれば
一方、
「上司の サポート 」があると
・「感情的コミットメント」が高まる(.10***)
「感情的コミットメント」が高まると、「離職意思」が下がる(-.36***)
という感情的コミットメントを媒介した離職意思の低下というポジティブな影響もあり、
あるいは、
・直接「離職意思」を下げる(-.18***)
というこれまたポジティブな影響もあります。
相殺すると、その効果は五分五分、
みたいな感じにも思えますが、
ポジティブな影響、ネガティブな影響
それぞれあることがわかります。
■つまり総じて言えば、
それぞれ副作用があることもわかり、
『キャリア支援施策は”諸刃の剣”』
と言えるのかもしれません。
■どんな施策も完璧なものはなく
薬のように、
それぞれ効果と副作業があります。
強いインパクトを与えようとするほど
その副作用も強くなる。
このことを理解した上で
施策を実施することは大事なのであろう、
改めてそう感じた次第です。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
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<本日の名言>
上天気の日に嵐のことなど考えてもみないのは、
人間共通の弱点である。
マキャヴェッリ
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