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3459号 2023年8月13日

今週の一冊『津軽』

(本日のお話 3539字/読了時間5分)

■こんにちは。紀藤です。

昨日は、家族で「トミカ博」へ。
東京ビックサイトで行われている
イベント(コミケ)も重なり、電車が大変な人でした。
暑かったですが、楽しい時間でした。



さて、本日のお話です。

毎週日曜日は、お勧めの一冊をご紹介する
「今週の一冊」のコーナー。

今週の一冊は

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『津軽』

太宰治(著)


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です。

■太宰治といえば、

『走れメロス』
『人間失格』

などで有名な小説家です。

(たしか、小学校か中学校で
教科書で読んだような、読んでないような。。)

さて、

この作品『津軽』は、
昭和19年(1944年)、
第二次世界大戦末期に出版された書籍です。

太宰治の故郷である津軽にて
三週間の旅路を描いた紀行文、

とされています。

内容は、

私(津島修治=太宰治)が
津軽の各地を旅しながら
歴史的な場所やその細かな解説なども紹介しつつ。

それぞれの場所にて
太宰治が親交のあった旧友と出会い、
酒を飲み交わしながらの日常や

その際に太宰が感じたことが
日記のような形で書かれています。

そして、クライマックスでは
2~8歳までの育ての親であった
彼にとっての重要人物「越野タケ」を探し出し、
彼女と20数年ぶりの再開に収束していきます。

■太宰治を形作った
様々な人との邂逅が、

ユーモア溢れる文体で
表現されていきます。

ちなみに、太宰治の人生は

・忙しい父と病弱の母の元、
生まれてすぐ乳母に育てられる

・小さいころから成績は優秀で、
青森で学生時代を過ごし、大学は東京帝国大学に進学

・しかしながら青年期からは精神状態が不安定であり
自殺未遂を繰り返すこと5回

・4名の愛人との心中をそれぞれ図る
(最初は愛人のみが亡くなる)

・39歳没

とのこと。

余談ですが、愛人との心中の話は
それだけでなかなか興味深いです。

彼の名言は

「死んだ気になって、
恋をしてみないか」

とのこと。
(絶対、自分じゃ言えない・・・)

■その人生の軌跡からも伺えるように、

太宰治の作品は
『人間失格』『斜陽』など
苦しみと自己内省の連続であったことが
伺えるような内容が多いです。

その中で、
この作品『津軽』は、
作品自体の評価として、

・太宰の作品としてはユーモアで感動的な作品
・著者最高傑作とも呼ばれる一冊

とも書かれており、珍しい一冊のようです。

確かに読んでみて、
クライマックスの「越野タケ」との出会い、

そこに向かうまでの
太宰の人間臭さを感じ読み進めると、

彼を作った大切な人との出会いと

月日が経ってもお互いにとって
色褪せない人間の愛情の深さを感じ、

1944年の作品ではありますが、
彼の人生を身近に感じ、
また感情を動かされました。

■この作品の詳細は
たくさんの解説がされていますし、

また著作権も終了しているので
無料で読めます。

ゆえに、詳しくは
そちらを参照頂きたいと思います。

■ただ、個人的に
ぜひ強調しておきたいことがあります。

それが、私が1ヶ月前に走破した、

『みちのく津軽ジャーニーラン(263km)』
https://www.asahi.com/articles/ASR7J7DC7R7GULUC00N.html

の旅路が、まさに
小説『津軽』そのものだったのです!

もう、感動です、、、。

この小説を読みながら
興奮しつつ、GoogleMAPに
チェックを入れまくっておりました。

、、、とすみません、
たぶん共感してもらえないのですが
せっかくなので勢いで書いてみます。

■私(紀藤)が1ヶ月前、

その263kmの旅路が地図に示された
白黒のコースマップを手にしたときは
「めちゃなげえ・・・」くらいにしか感じませんでした。

コンセプトとして、

「津軽の各所をめぐりながら
この場所の素晴らしさを堪能する」

とされていましたし、

開会の挨拶の際に、
大会の主催者(津軽出身)である
NPO法人スポーツエイドジャパンの舘野代表が

「我が故郷、津軽を
心ゆくまで味わってほしい!」

と熱く語ってくれていたのは
記憶にありました。

■、、、しかし、

何を持って、そのコースルートを選んだのかは
知りませんでしたし、
その背景も、あまり解説はされていませんでした。

たぶん、参加者も

これから訪れる260kmを走る辛さと、
その痛みを緩和する準備ばかり考えていて
興味もなかった人も、少なくなかったのでは、、、

とも思います。

(仲間5人のうち、太宰治の話は
3日のうち一度もでなかった笑)

■しかし、

この『みちのく津軽ジャーニーラン』は
実に練られているコースであると知ります。

それがこの

『津軽』(太宰治)

の作品で明らかにされていました。

何気なく読み始めてみると、
そこに描かれていた太宰治の3週間の彼の旅こそが

”みちのく津軽ジャーニーランそのもの”

であったことに気づき、震えたのでした。

太宰が歩んだ道のりである

海岸線の「外ヶ浜」。

日本海が荒々しく佇む「竜飛」。

旧友との蟹をつまみに酒を飲んだ「蟹田」。

義経の歴史が語られた「三厩(みんまや)」。

太宰の生家である「金木町」。

そして、越野タケと再開を果たした「小泊」。

、、、それは、全部
私が走った道のりでもありました。

思えば、

波の音が子守唄に聞こえた「外ヶ浜」(130km)

2日目の朝、なんとかたどり着いた「竜飛」(120km)

股擦れで死にそうになっていた「蟹田」(170km)

おにぎりが美味しかった「三厩(160km)

あと少し!と気持ちを新たにした「金木町」(210km)

太宰治の銅像が印象的だった「小泊」(100km)

です。

急に稚拙になり、かつ
苦痛の記憶に上塗りされてしまっていますが、

80年の隔たりがあっても、
その小説の場所が太宰の大事な場所とリンクして
自分の物語と重なった気がしたのでした。

■越野タケと再開を果たした

「小説『津軽の像』」

という場所。

私が100km地点で出会った
太宰治と正座した女性が
銅像としてあったことを思い出します。

当時は何かよくわからず、
観光地的な空気を感じてとりあえず写真をとったら、
そそくさとその場を後に走り始めました。

しかし、後に、
小説の大切なワンシーンとして
描かれていることに後で気づきます。

太宰が8歳から、当時35歳まで
全く会っていなかったそのとき。

その心の内では、
太宰もタケもそれぞれがお互いのことを
思っていたのでした

その彼らが再開をしたときの場面、

そのとき世界大戦末期で、
日本全体が殺伐としている中でも、

その北端の集落で開催されていた
にぎやかな運動会を見ながら、
タケは太宰とともに運動会を見るのです。

その時の様子を、このように描いています。

以下引用です。

(ここから)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

”(たけは)
「ここさお座りなせえ。」とたけのそばに座らせ、
たけはそれきり何も言わず、

きちんと正座して
そのもんぺの丸い膝にちゃんと両手を置き、
子どもたちの走るのを熱心に見ている。

けれども、私には何の不満もない。
まるで、もう、安心してしまっている。

足を投げ出して、ぼんやり運動会を見て、
胸中に一つも思うことがなかった。

もう、何がどうなってもいいんだ、
というような全く無頼無風の情態である。

平和とは、こんな気持の事を言うのだろうか。

もし、そうなら、私はこのとき、
生まれて始めて心の平和を体験したと言っても良い。

※引用:太宰治(1944),『津軽』174頁
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(ここまで)

■彼自身の、

自分でも理解している
苦しみや自己内省の内側で感じた
唯一の平和が描かれているようで、

グッと来るシーンでした。

■そして本の内容とは
直接関係ないのですが、

私(紀藤)にとって
この小説との出会いは、

「自分の興味の幅が広がった出来事」と
感じさせらたのでした。

もしかすると人は、
自分に関わること”に作品が紐づいたとき
それを温度があるものとして捉えられるのかもしれない
とも思います。

教科書で、以前読んだか、
読んでいなかった太宰治。

またその彼を取り巻く人生や、
そこから生み出された作品を、
改めて読んでみたい、、、

と思わされました。

そして、来年も、改めてこうした
場所にまつわる意味を感じつつ、

”みちのく津軽ジャーニーラン”

を楽しんでみたいな、などと
と思ってしまいました。

(二度と走ることはないだろう、と
思ったはずなのに笑)

■とのことで以下、
書籍の紹介です。

(ここから)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「無頼派」「新戯作派」の破滅型作家を代表する
昭和初期の小説家、太宰治による長編小説。

初出は「津軽」[小山書店、1944(昭和19)年]。

生まれてから20年も津軽で暮らしながら
津軽の中心部しか知らなかった文筆家の津島修治が、
自分の見知らぬ津軽周辺を見ておこうと、故郷である津軽を旅する話。

元々は「風土記」として書かれたものだが、
宇野浩二が「小説」と呼んで褒めたことで現在でも読み継がれている。

※Amazon本の紹介より
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(ここまで)

特に、青森にご縁がある方には
ぜひおすすめしたい小説です。

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<今週の一冊>

『津軽』

太宰治(著)

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