「能力診断」のダークサイド ー書籍『能力の生きづらさをほぐす』より
(本日のお話 3045字/読了時間4分)
■おはようございます。紀藤です。
昨日は1件のアポイント。
その他、研修企画の打ち合わせなど。
10月下旬からの研修の連続に向けて
諸々準備を進めております。
年末感、出てまいりました!
*
さて、本日のお話です。
『「能力」の生きづらさをほぐす』
勅使川原 真衣 (著), 磯野 真穂 (解説)
なる本を読み終えたのですが、
大変面白く、また内容も深いものであると感じ、
素晴らしい本に出会えたことを嬉しく思いました。
今日はこの本の中から、
「能力にまつわる歴史のお話」についての学びを、
皆様に共有させていただければと思います。
それではまいりましょう!
タイトルは
【「能力診断」のダークサイド ー書籍『能力の生きづらさをほぐす』より】
それでは、どうぞ。
■巷では、数多くの
「能力診断」
のツールが存在しています。
・リーダーシップ診断
・強み診断
・◯◯コンピテンシー
・メンタルヘルスチェック
固有名詞を挙げれば数知れず。
■ふと思えば、学生時代から
・クレペリンテスト(数字を足していくやつ)
・IQテストみたいなやつ(図形にしたらどうなる?)
というものを受けた記憶がありますし、
就職から新入社員では、
・SPSSの受検
・360°での職場行動評価
などがありました。
そして、今の私は
・クリフトンストレングス(ストレングス・ファインダー)
・リーダーシップ・サークル・プロファイル
(リーダーシップ診断)
などを提供する側にもなっています。
まさに、能力診断が
学生から今に至るまで
あらゆるところに組み込まれておりますね。
(途中からは、組み込みに行きましたが・・・)
■さて、これらの
「能力診断」とされるもの。
特に”組織において”、
どのように広がっていったのでしょうか?
まず、その根本には
自分についても、他者についても
『わからないものを、わかるようにしたい』
という思いからでしょう。
、、、自分のことも、よくわからない。
、、、部下のことも、よくわからない。
何が強みで、何が弱みなのか。
何を軸にして、これからのキャリアを
気づいていけばよいのか。
誰か、教えてほしい。。。!
■そうした切なる思いの中で
「これが科学的に調査された、
研究で明らかにされた結果に基づいた
アセスメントツールです」
といわれ、そして
「これがあなたの強みと課題です」
と言われると、”安心”できるわけです。
なにかにカテゴライズされることで
自分がわかったような気になる、というのがある、とも言えます。
(うーん、実によくわかる)
■しかし、これだけでは特に組織の中に
「リーダーシップ診断」を始めとしたアセスメント(能力診断)が
ここまで普及した理由にはなりません。
*
さて、ではどのような背景があるのか?
ここについて、上述の著書
『「能力」の生きづらさをほぐす』にて
このように説明がされていました。
以下、部分的に引用させていただきます。
(ここから)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
<人材開発業界が生んだ大ヒット商品「適性検査」>
・単に「能力を計測できる」というだけでは、
リーダーシップ診断を始めとする能力評価は、
ここまでのヒット商品にはならなかったと母さんも思う。
能力商品を売って売って売りまくるのが人材開発業界。
個々の「能力」を知らねばならない理由もしっかりとつけて
売り歩いてるよ。
この戦略については、
人材開発業界の華麗なる商品開発の歴史を追うと、見えてくるんだ。
企業は業績を創出する=お金を稼ぐために、
さまざまな手立てや武器になる経営資源を持っているんだけど、
どんなものが企業の業績創出に影響を与えるか知っている?
(中略)
・(たとえば)「経営資源の7S」ね。
戦略、人材、ビジョン、組織体制、制度、スキル、組織風土(組織運営スタイル)。
(中略)
・では、ここで質問です。
このような経営資源のうち、最も業績への影響度が高く
業績創出に向けて最も注力すべきとされるものがあります。
それはなんでしょうか?
(中略)
・今の質問、「最も業績に影響する経営資源」を調べたのは、
人材開発系のコンサルティング会社最大手、ヘイグループ、なんです。
(※現在は、コーンフェリー社と合併している)
・(そして上記の)答えは「組織風土(組織運営スタイル)」なんだ。
ヘイグループは、業績(成果)の約3割は「組織風土」で説明できるとし、
最も影響度が高いと言う。
(中略)
・ところで、組織風土と聞いて、それをどうやって改善していくか、ご存知ですか?
(中略)組織風土はリーダーシップへのほんの布石でございました。
「こうした組織風土に重要な影響を及ぼすのがリーダーシップである。
我々の調査によれば、組織の風土はリーダーが発揮する
リーダーシップスタイルによってほぼ決まってしまうことがわかっている。
両者の間には5~7割の相関があるのだ」(高野研一氏 元兵グループ社長)
(中略)
・「売上が落ち込んでいるあそこの部長は
リーダーシップに問題があるのかもしれない。調べさせよう」
と発想するのも無理はない。
「引き上げるために、この『リーダーシップ研修』をどうぞ。
業績創出への近道です」とつなげば完璧。
※引用:勅使川原 真衣 (2022)『「能力」の生きづらさをほぐす』第6章 爆賣れ・リーダーシップ ー「能力」が売れるカラクリ P131~144
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(ここまで)
とのこと。
なるほど、
業績への影響→ 組織風土が大事 →リーダーシップが大事
だから、リーダーシップを測定し、
高めるための研修をしましょう、
という背景で人材開発業界は
これらのアセスメントを拡げてきた、ということのようです。
■たしかに頷ける点はあります。
ある人材開発領域にいる有名な方から、
「リーダーシップは儲かる」
という話を聞いたことがあります。
でもたしかにそうで、
「業績につながる」という理由があるからこそ、
経済界と紐づいて、そして
発展していくという側面は否めません。
特に組織において、
能力開発が浸透していったのは、
然るべき文脈があるわけであり、
そうした事を理解しておくことは、
「能力診断」を客観的に見る上で
必要な視点なのだろう、、、と思います。
■なんてことを書くと、
「リーダーシップ診断」は悪者のように
見えてくるかも知れませんが、
そういう事が言いたいのではありません。
あくまで、そういう側面がある、ということ。
こうした人材開発業界の営業の成果も
それが現場で活用できず
誰の価値にも繋がらないのであれば
それはここまで市民権を得なかったはず。
実際に私(紀藤)も、
自分自身のリーダーシップ診断や
強みの診断などを行うことで、
「自分のどんな能力を活かすと
自分がより充実できるのか?」
「自分のどんなリーダーシップスタイルが
課題と考えられるのか?」
などが明らかになったと感じ
仕事へのポジティブな影響もあったことは
この身をもって実感しています。
■しかし、ポイントは
「こうした能力診断への信奉が広がり、深まるにつれて、
”陰”の部分も大きくなる」
ということです。
”陰”の部分とは、
『「関係性」の問題を蔑ろにしてしまう』
ということ。
能力診断をして、
「彼はここが足りない」
「彼はここが優れている」
「だからこういう成果なのだ!」
とすると、
すべての責任を”個人”に
押し付けることになります。
■しかし、同じ”能力”を持つ人が、
この職場(関係性の中)では活躍できなかったけど
別の場所では活躍できるようになった、
ということはままあるもの。
そこには、上司や同僚、環境によって左右される、
「組織としての課題」が影響しているからです。
■能力診断は、わかりやすく、便利です。
しかし、問題の原因は、
1つに特定されるわけではなく、
個人要因
マネジメント要因
環境要因
さまざまな要因が重なりあって
生まれてくることを知る必要があります。
能力診断を重視するほど、
「あなたの”能力”のせいだ」と
見える力が高まるとも言えます。
個人の責任として断ずるのは簡単ですが、
そうすることで、傷つき、
生きづらくなっていることも
陰の側面としておこっていることもあるはず。
人材開発と組織開発は
切っても切り離せない。
わかりやすく、課題を一つにして、
それだけにしたい、そうして安心したいという
思いはわかるものの、
そうした課題のちゃんぽん、
人と組織の問題があやとりがこんがらがった状態にある
「混沌」とした状況から目を背けず、追求する姿勢。
そうしたものが、
人と組織に関わる人々には求められているのではないか、、、
そんな事を考えさせられました。
ということで、能力診断の歴史、
能力診断のダークサイドを知ることで、
俯瞰してみることができるようになるのだろう、
そのように思った次第です。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
本日も皆さまにとって、素晴らしい1日となりますように。
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<本日の名言>
成功する人間に必要な、生まれつきの能力などありはしない。
ただ、あなたが成し遂げたいことに、必要な能力だけを身につければいいのだ。
ピーター・ドラッカー
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