強みの活用は、情熱を介して、職場での幸福感にどのように影響を与えるのか? の研究
(本日のお話 3453字/読了時間5分)
■こんにちは。紀藤です。
昨日はクリスマスでしたね。
皆様はいかがお過ごしでしたでしょうか。
私は自分へのクリスマスプレゼントとして
「漫画全巻 大人買い」をいたしました。
(今流行の『呪術廻戦』です。実に面白いです)
また、昨日は終日外部人事顧問として関わらせていただいている皆様への
システムコーチング、読書会、個別コンサルティングなどでした。
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さて、本日のお話です。
今日のお話は「強みの活用が、職場での幸福感にどのように影響を与えるのか?」を調査した研究のご紹介です。
強みと幸福感の関係では、セリグマンらによる研究(2005)が先駆的なものとなっていますが、今回は幸福感を感じるプロセスを「情熱」というキーワードを含めて探求した研究となっています。
特に「職場における幸福感」というのは、働く我々にとっても大変興味深いものとも感じます。ということで、早速見てまいりましょう!
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<今回ご紹介の論文>
『特徴的な強みの使用と職場における幸福との関係、説明としての調和のとれた情熱:介入プログラムのテスト』
Forest, Jacques, Geneviève A. Mageau, Laurence Crevier-Braud, Éliane Bergeron, Philippe Dubreuil, and Geneviève L. Lavigne. (2012). “Harmonious Passion as an Explanation of the Relation between Signature Strengths’ Use and Well-Being at Work: Test of an Intervention Program.” Human Relations; Studies towards the Integration of the Social Sciences 65 (9): 1233–52.
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■30秒でわかる本論文のポイント
・これまでの研究で、職場で強みを活用することが、従業員のパフォーマンスや幸福感に影響を与えることが示されている。しかし、そのプロセスは明らかにされていない。
・この研究では、「特徴的な強みの活用」と「幸福感」の関係において、「調和のとれた情熱」を持つことの役割を探ることとした。
・186名に対する介入実験を行い、自分の強みの理解を深め、職場で強みを活用するように伝えるプログラムを行った。結果、参加者は、強みの活用が増加した。また「強みの活用」が増加することは、「調和のとれた情熱」の増加と関連しており、それが幸福度の高さに繋がったことが示された。
という内容です。
つまり、強みを活用する→調和のとれた情熱(後ほど説明します)が高まる→幸福度が高まる、おおざっぱにお伝えすると、そのようなプロセスが成り立つのでは、じゃあ検証してみよう!というお話です。
では、具体的にどのような研究なのか、詳細を見てまいりましょう。
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■2つの情熱
「情熱」というと、ポジティブで前向きな、燃え上がるような感情のエネルギーを感じる言葉です。この「情熱」というキーワードについて、こんな定義があります。
”情熱とは、愛され、非常に重要であると考えられ、自己概念の重要な一部であり、多大な時間とエネルギーを費やす活動への、強い傾倒である” (Vallenrand, 2003)
とのこと。
情熱的な活動=その人のアイデンティティ(自己概念)の一部、となるのです。例えば、野球にドハマりしている(=情熱を燃やす)人は、自らを「野球人」と認識するみたいなイメージ。野球は、もう、その人の一部として切っても切り離せない関係になるのが「情熱」なのだというのです。
そして、この情熱は「情熱の二元論モデル」として、2種類にわけることができる、と研究で示しています。(Vallnerand, 2008, 2010)。
どういうものかを解説いたします。
◯調和のとれた情熱
まず1つ目の情熱が、「調和のとれた情熱(Harmonious passion)」です。この調和のとれた情熱は、フロー体験、ポジティブ感情、ネガティブ感情の低下などと関連しているとされます。
ちなみに混同されやすいのがワークエンゲージメント(仕事への熱意・没頭・活力)ですが、それとは異なる概念とされます。その違いは、以下の2つです。
1)調和のとれた情熱は、「人々が自分自身を定義する特徴」である(=アイデンティティに紐づく)
2)「情熱(passion)」がなくとも、熱意や没頭、活力を感じることも可能である(なのでエンゲージメントとは違う)
加えて、「調和のとれた情熱」の発達にプラスの影響を与える要因として、”コーチや教師など、”本人の自発性を重んじ、選択肢を提供し、他者の視点を認める人に囲まれていること”が挙げられるとしています。
◯強迫的情熱
さて、2つ目の情熱が「強迫的情熱(Obsessive passion)」です。見るからに圧迫感のある言葉のイメージ通り、”その活動に、たとえ本人が不本意でも、関与せずにはいられなくなる状態”とも言えます。
たとえば、高い成績を出さねばならない、その活動で成績を出さねば自尊心が既存される、などその情熱が自らのアイデンティティとと強く紐づきすぎるゆえに、家庭や社会とのバランスを欠いて、葛藤を生み出してしまう、と言います。これの強迫情熱は否定的な感情や認知、行動、対人関係の結果とつながるとします。
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■研究の全体像
「情熱」についてアカデミックな観点から説明いたしましたが、今回の研究には、「強みの活用」と「職場における幸福感」の間に、この「調和のとれた情熱」が媒介すると仮説を立てたのでした、
◯本研究の仮説
具体的には、4つの仮説を立てました。以下、引用いたします。
仮説1:介入に参加した参加者は、介入に参加しなかった参加者よりも、研究終了時に自分の強みの使用率が高いと報告する。
仮説2:介入に参加した参加者は、ベースライン時と比較して、研究終了時に自分の強みの使用率が高いと報告する。
仮説3:介入前と介入後の特徴的な強みの使い方の違いは、介入前と介入後の調和のとれた情熱の違いと関連する。具体的には、特徴的な強みの使用が増加すれば、調和のとれた情熱の増加が予測される。
仮説4:特徴的な強みの使用における変動は、仕事に対する調和のとれた情熱の変動と正の相関があり、それは、時間1の幸福レベルをコントロールした後の時間2における幸福と正の相関がある。したがって、調和のとれた情熱の増加は、特徴的な強みの使用の増加と幸福の3つの尺度の変化との関係を媒介すると考えられる。
とのこと。強みの使用率(活用率)が高まると、調和のとれた情熱も高まり、幸福度に影響を与えるだろう、というお話ですね。
◯研究のプロセス
では、今回の研究ではどのようなプロセスで実験をしたのでしょうか?この介入内容は、セリグマンらの介入プロセス(2005)を職場に適用したものとなります。以下の4ステップとなります。
STEP1:事前アンケート:
WEBアンケートに回答し、「自分の強みの活用度」「調和のとれた情熱レベル」「複数の幸福指標」に回答した。
STEP2:特徴的な強みの特定:
VIA-ISを活用し、自分の特徴的な強み(上位の強み)を特定した
STEP3:介入(強みの活用を促す):
幸福感を高めるための2つの活動をすることを求められた。
1つ目が、”仕事における最高の状態”を説明することである。自分が強みを使った後に、どのように働き、どのように感じていたかを詳しく説明した。
2つ目が、”2週間の間、現在の職場において、特徴的な強み上位5つのうち、少なくとも2つを新しい方法で使う”ように求められた。その後、強みを使ったことによってもたらされた肯定的な結果を振り返った。
STEP4:事後アンケート:
2ヶ月後、事前アンケートと同じアンケートに回答した。
◯参加者と調査尺度
次に、今回の参加者についてです。
参加者は186名の大学生(カナダのケベック州)でした。
平均年齢22.19歳、大学終了しておりフルタイム学生であるが、皆パートタイムで仕事をしていました。
また、調査をした尺度は以下の5項目となります。
1)「調和のとれた情熱」(情熱尺度_6項目、Vallerand and colleagues, 2003)
(例:私の仕事は、私の人生における他の活動と調和している)
2)「特徴的な強みの活用」(14項目、Govindi and Lineley, 2007)
(例:私は毎日自分の強みを使っている)
3)「仕事に対する活力尺度」(7項目、Ryan and Frederick, 1997)
(例:ほとんどいつも注意力があり、目覚めていると感じる)
4)「人生満足度」(5項目、Diener, 1985)
(例:私は自分の人生に満足している)
5)「心理的幸福感」(Psyhological Well-Being scaleの10項目)
(下位尺度:自己受容、生きがい、自己成長)
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■結果
さて、調査のデータを分析し、介入前ー介入後での比較、また対照群と実験群の比較などを行い、仮説を検証しました。
結論、上述した仮説1~4まで、概ね支持される結果となりました。
具体的にわかったことは、以下の通りです。
・「強みの活用」において、対照群と実験群の間に、介入後に有意差が認められた(=仮説1を支持)
・「強みの活用」において、実験群では、介入前より介入後のほうが(わずかではあるが)有意に増加した(=仮説2を支持)
・「強みの活用」の変化は、調和のとれた情熱の変化と正の相関があった。またそれが心理的幸福を予測した。(=仮説3,4を支持)
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■まとめ
この研究の特徴は、職場において「強みの活用」が「幸福度」に影響を与えるプロセスの間に「調和のとれた情熱」というものがあるのでは、と考え、検証した点に着眼したところが新しい点と言えるのでしょう。
たしかに、言われてみたら「強みの活用」をしている時は、”自分のアイデンティティに紐づく形で情熱を感じて仕事ができる”という感覚があります。それは環境などの外部要因よりで没頭したり熱意を感じたりするより、より内部からじわりと湧き上がってくるものを使っている、という感覚に近いものもあります。
それらを、「調和のとれた情熱」という概念で表していることも新鮮でしたし、そうした概念があることも、勉強になりました。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
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