263kmマラソン体験記(3)~20秒だけ寝かせてください ~
(本日のお話 4511字/読了時間6分)
■こんにちは。紀藤です。
昨日元旦は10kmのランニングでした。
その他、家族との団らんなど。
年明けから大変なニュースが続いていますが、
皆様に大事ながいよう祈るばかりです。
*
さて、本日のお話です。
年末年始は2023年のイベントの一つであった「263kmマラソン」について引き続きお届けできればと思います。
それではまいりましょう!
タイトルは
【263kmマラソン体験記(3) ~20秒だけ寝かせてください~】
それでは、どうぞ。
※前回までのお話はこちら
■2日目_昼(123~160km)
すでにキツい。
足も痛いし、だいぶ眠い。
しかし、完走経験のある先輩(エンディ)はこう言います。
「ようやく、ここからが始まりですねえ」
このとき、122km地点。スタートから21時です。しかし51時間の制限時間の半分も過ぎていない。距離も120kmで半分にも達していない。
事実、まだまだこれからなのです。
普通であれば「21時間”も”走った」なのでしょうが、263kmマラソンで言えば「まだ21時間”しか”走ってない」となります。基準がおかしい。
しかしその前提で参加していると、それが普通に思えてくるのがもっと不思議です。
***
■「魔の中盤戦」のはじまり
不思議なもので、たった1時間弱の休憩でも、足の筋肉は回復をするのです。龍飛崎で仮眠をした1時間のおかげで、
「ああ、体が軽くなった。ほんと、人体ってすごいよね」と仲間の、マッキーが言います。
他の皆も、明るい声で、道中も明るい兆しがあるようでした。(あくまでも休憩直後は)
ここからが中盤戦のスタート。中盤戦の道中は「魔物がいる」と言われています。その所以は、”延々と続く海岸線で 精神と肉体がやられる”そう。これから120km~175kmまで延々と海岸線の道がひたすら続くのです。そして、途中で日が暮れて夜になる。
精神面が重要なランニングで「コースが変わっていく」というのは、意外と大事な要素です。ですが「ひたすら一本道が続く・淡々と走る・終わりがない」✕「眠い」✕「足が痛い」では、まさに魔のアンサンブル。苦行です。
・・・とはいえ、走るしかありません。
常に「ゴールは少し先を見る」として約15km先のチェックポイント、「三厩体育館(134km)」を目指します。
***
■20秒だけ寝かせてください
しかし、2時間も走るとこれまでで一番大きな暴力的な程の「睡魔」が襲ってきました。気づけば24時間、走り続けている。眠くなって、当然と言えば当然。
走っていて、眠気に襲われると、どうなるのか?
スピードが急激にダウンし蛇行運転の車のようにふらつきます。
”眠いのに走り続ける”という行為に陰鬱とした感情が起こります。ちょっとしたことでイライラしてしてきます。
耐えきれなくなり、
「先に行っててください、一瞬寝ます」
と、仲間に告げる私。
路肩で階段を見つけると、そこに体を預けます。時間にして、おおよそ20秒程度。それでも、一瞬目を閉じて脳をシャットダウンすると、少しだけ元気が戻る気がしました。
耐えられなくなったら20秒眠る。
そんな風に眠気を誤魔化しながら歩みを進めていきました。
***
■丸い浮きが人間の顔に見えた
7/16(日)2日目。夜19:30。スタートから26時間30分。日が暮れて、辺りが一面闇になりました。
現在、約155km地点。絶え間なく続く波の音。
浮かんでいる大量の丸い浮き。あるメンバーは、「丸い浮きが人間の顔に見えた」と幻覚体験を語ります。
2日目の夜が、一番ヤバイ。
そう言われた事前の情報が現実のものとなって現れてきました。しかし、このタイミングになって、私の体は、皆と逆行する形で少しだけ調子を取り戻していました。
バイオリズムは人によって違っており、ある時元気な人が、ある時元気でなくなったりする。逆もまた然りです。それを補い合うことができるのがチームで走るメリットです。
「電柱ゲームでもやろうか?」
と誰となく言い出し、仲間の中で、比較的元気だった自分がペースメーカーを担う形で前に出ました。号令をかけて、走り始めます。
「スタート!あと400m・・・あと300m・・・あと200m・・・」
「あと半分!」とヒロポンが合いの手をかけます。
「あと100m!、、、終了」そして、100m歩く。
合計500m。2回やれば1km。10回やれば5km。
「もう5km進んだね、めちゃ早いじゃん!」
ヒロポンの言葉に自分が少しだけ、チームに貢献できた気がしました。
ふと、今年の春まで大学院で学んだ「リーダーシップ」とか「チームワーク」の理論を思い出します。これまでの道中は、私は、”フリーライダー(ただのり)”している人でした。
すでに完走経験がある仲間に、戦略や休憩の取り方など、すべて身を任せてきました。ただ、なんとなく貢献できていない申し訳なさも感じていました。
大学院で学んだことを思い出します。「リーダーシップ」とは他者に与える影響力。チームの目標に向けて、誰かに影響を与えることがリーダーシップである。今回、皆が必要なときに、必要な立場を取れたことに一人の戦いと思えそうなこの旅路に「リーダーシップ」を学んだ気もしました。
走る中で、必要に応じて誰かがタイムキーパーをしたり、誰かがペースメーカーをしたり、あるいは誰かが積極的に励ましたりして、共通の目標である完走に向けて役割に担い合う行為も、まさに「チームワーク」を象徴しているようだ、そんなこともぼんやりと考えていました。
「皆の役に立てているようで嬉しいよ」と言っている自分がいました。
***
■濡れた駐車場に横たわる人々
そうこうしながら、次のチェックポイント「道の駅たいらだて(160km)」に到着。時刻は2日目の20:30。
完全に闇となった道の駅の路上、雨に濡れた駐車場に、数名の人が横たわっています。全員、ランナーです。コンクリートの固く濡れた地面の上に体を横たえて、少しでも回復させようとしています。
「15分寝よう」。
我々も次の大レストポイント178kmまで走るためのエネルギーを蓄えることにしました。
***
■1日走ると6200kcal
ちなみに、大事な戦略であるエネルギー補給ですが、1日で走った距離をカロリーで計算すると「6200kcal」と計測されます。
おにぎり1個が170kcalなので「おにぎり36個分」のようです。
もうちょっと言うと、また基礎代謝1500kcalが含まれるので1日走ると「おにぎり45個」が必要になります。
しかし、実際はそんなに食べません。内臓にダメージが出てしまう(消化不良や腹痛など)のほうが恐ろしいため、こうしたしっかりした休憩所でも、「おにぎりを2個、グレープフルーツ2切れ、味噌汁」みたいな簡素な食事で終えます。
不足したエネルギーを人体は何を持って補うかというと「筋肉を溶かしてエネルギーにしている」らしいです。
ふとトイレで体をめくって見ると、、ラクダのコブが砂漠の旅路の最中にしぼんでいくように私の貧弱でペラペラだった体が、更にペラペラになっていたのでした。
ーーーーーーーーーーーーーー
現在160km(残り103km)
スタートから27時間(残り24時間)
睡眠時間 合計1時間35分
ーーーーーーーーーーーーーー
(つづく)
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
※本日のメルマガは「note」にも、写真付きでより詳しく掲載しています。
よろしければぜひご覧ください。
<noteの記事はこちら>
=========================
<今日の名言>
何も咲かない寒い日は、下へ下へと根を伸ばせ。
やがて大きな花が咲く
高橋尚子
==========================