はじめての方の「論文の読み方・探し方」おすそわけ勉強会(1)
(本日のお話 4265字/読了時間5分)
■こんにちは。紀藤です。
引き続き沖縄に来ております。
また昨日は、管理職の皆様への強みを見つける
「ストレングス・ファインダー研修」の実施でした。
研修後は12kmのランニング。
*
さて、本日のお話です。
今日は少し趣向を変えて、
少し前に大学院の仲間と行わせていただいた「論文の読み方・まとめ方勉強会」の内容について
私自身の整理を含めて記載してみました。
もしよろしければ、ご覧いただければと思います!
それでは、どうぞ。
■はじめに
「論文」。論文だけでなく、論理、理論、論述、論破、などの”論”という字には、感情を排除した他者を寄せ付けない力を感じてしまう一方、なんとも説得力のある力強さや憧れも感じてしまう・・・これは私だけでしょうか。
少し私の話をさせていただくのですが、元々飲食店→飛び込み営業というキャリアを持つ自分は、「論理的じゃないけど、人懐っこい」をウリに社会を匍匐前進してきました。「感情」を武器にしてきた一方、「論理」というものに抵抗感を感じた20~30代を過ごしてきました。
しかし、ふとした縁あって一念発起し、ある大学院を受験しました。それが、立教大学大学院 経営学専攻リーダーシップ開発コースです。素晴らしい教師陣と仲間に恵まれ、2年間の学びを経て2023年に卒業いたしました。
そこで手に入れたものは、仲間やつながり、様々ありますが、なんといっても、「自分の専門分野における専門性=理論・概念」を手に入れたことです。
そんな中、先日、現役の在校生の方から「論文の読み方・まとめ方について、勉強会をしてくれませんか?」などという依頼がありました。えっ、頼む相手間違えてるよ・・・?と思いましたが、せっかくお声掛け頂いたので、自分なりに言葉にし、先日勉強会を開催させていただきました。
そして、まとめたのが「論文の読み方・まとめ方勉強会」の資料です。
繰り返しになりますが、元々私は「論理的じゃないけど人当たりがよいヤツ」であったわけであり、”論”と聞くと身構えるタイプの人でした。
今回の記事は、そのような「論文に馴染みがない方」「論とか苦手」という方に対して、私なりに気づいた「論文という旅の楽しみ方」をおすそ分けさせていただければと思います。
全3回で「心構え編」「探し方編」「読み方編」でお伝えしていく予定です。よろしければ、お付き合いくださいませ。
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■巨人の肩に乗れ
さて、まず本題の前に、あるツールと、それにまつわる小話をお伝えしたいと思います。また、詳しく説明いたしますが『Google Scholar』といサービスがあります。Googleの論文検索バージョンのようなもので、世界中の論文を検索することができます。(「論文の旅」の必須ツール!です)
そして、注目頂きたいのが、このサイトのトップページの検索窓の下にある「Stand on the shoulders of giants(巨人の肩に乗れ)」という言葉です。
大学院の先生が、こんな話をされました。
「世界には80億もの人がいる。自分が疑問に思ったことなんて、だいたい誰か調べてるもんだよ」
とのこと。
そして、実際にそうなのでした。
自分が思った素朴な疑問、それをGoogleScholarに聞いてみると、世界のどこかの誰かが、その人生の時間を費やして探求しているという事実を知ったのでした。
たとえば、「ポジティブ思考って、役に立つの?」という疑問。フレドリクソンさんという方が「ポジティブ感情の拡大構築理論」としてその効果を語っています。
あるいは「職場におけるコーチングは役に立つのか?」なども、ヘスリンさん他研究者が「マネジリアルコーチングの理論」としてまとめていたり。
彼ら/彼女らは、研究者としてその分野に人生を賭して、関連する概念、理論を渉猟し、皆が使えるような遺産を残しているのです。
巨人たちが発見した膨大な知見の数々。それが巨大な図書館の書庫の中に眠っています。ただ、その書庫へのアクセス方法を知らなかったのです。
大学院の学びの中で、その事実を知った時に、こんな知見があったのか、と驚きを覚えました。そして、そのアクセスの仕方を知らなかった自分を、悔し雲思ったのでした。
そしてGoogleScholarは、その副題の通り「巨人の方に乗る」ためのハシゴを、誰も使えるようにしてくれています。
◯今回の記事の前提
さて、もう一つ事前にお伝えしておきたいことがあります。また、私は主に「組織行動」(組織の中の人の態度や行動を考える学問)の論文を読んで、まとめる人です。
理系の理学・工学・農学など全然わかりませんし、美術や音楽、医学などもよくわかりません。膨大な学問領域があるので、それらの論文を集めたら、それこそ目がくらむほどの広大さになるのでしょう。
あくまでも、「組織行動」について論文を読み、そしてそれを大学院の在校生に向けて個人的な勉強会をしました、という前提のお話です。なので、他分野については別の考えがあるかもしれません。念のため。
ということで、早速本題をお伝えしてみたいと思います。
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■心構え編
最初に、「論文の旅」を楽しむための心構えについてお伝えしてみたいと思います。何も知らないところから、どうやって「自分の専門領域の知見を手に入れるか」という流れについて、お伝えしたいと思います。
◯「論文の旅」のイメージ
ロールプレイングゲームで「オープンワールド系」と呼ばれるものがあります。曰く、”オープンワールドとは、ゲーム内の仮想世界において、移動的制限の無い、プレイヤーが自由に探索し、目的に到達できるように環境設計されたゲームを指す用語”だそう。
例えば、『ゼルダの伝説』とか有名です(やったことないですけど)。その世界では、最初にプレイヤーが「始まりの場所」に降り立ちます。そこから、プレイヤーは自由に旅をしながら、世界を広げていきます。
世界のマップは、最初はごく小さい地図です。
行ったことがない場所は黒塗りになっていて、何があるかわからない状態です。しかし、旅を続けるうちに、様々なエリアがあることを知り、自分が立つ世界の広さを知っていきます。
そして全体を眺めた上で、「始まりの場所」を見たとき、それが大きな世界の中で、どのような立ち位置なのかを知ることになります。
そして、「論文の旅」はまさにそのようなイメージです。
最初は、全体像がわからず、自分が興味を持ったキーワードがあるだけです。そこが「始まりの場所」となります。
例えば、私の場合、大学院での研究テーマの「始まりの場所」は『キャリア自律』というキーワードでした。(この概念の詳しい説明は長くなるので省かせていただきます)。
そして、「キャリア自律」を促すための要素は何かを調べた時に、次に見つけたのが、職場の「上司による支援」でした。どうやら、上司の関わりによって、従業員のキャリア自律に影響を与えるというお話もあるらしいぞ、と。
そして、「職場の上司支援」というキーワードで旅を続けると、実は上司の支援にも色々な方法があることを知ります。たとえば、「マネジリアルコーチング(上司によるコーチング)」「OJT」「メンタリング」などです。それぞれ「上司の支援」なのですが、意味する概念が違うのです。
たとえば、「マネジリアルコーチング」は、管理者によるコーチングのことで、関係構築・傾聴・質問の他、フィードバック・ティーチング・目標設定なども概念として含みます。
ゆえにライフコーチングとは少し内容が違っています。(McCarthy, Grace, and Julia Milner. 2013)
また「OJT」も上司支援ですが、こちらは元々は人材育成を効率的に実施する指導方法として「1,見せる(Show)」「2,説明する(Tell)」「3,行う(do)」「4、チェックする(Check)」などの4ステップが軸となっています(Dooley 2001; Rothwell and Kazanas 2004)。
また、「メンタリング」もしばしば耳にするキーワードですが、こちらの意味も上記の2つと違っています。メンタリングとは「メンター(経験を積んだ年長者)によるプロテジェ(メンターを受ける側)に対する支援行動」とされ、キャリア的な支援と、心理社会的支援が含まれる行動とも言われている(麓仁美, 2019)、
というように。デフォルメしていますが、イメージはこんな感じです。
こうして「キャリア自律」→「上司の支援行動」→「マネジリアルコーチング」「OJT」「メンタリング」と言うように旅路を続けていく中で、より大きな地図を獲得していくことになります。
旅はちょっと面倒くさいし、新しい場所はちょっと怖い。でも、まだ見ぬ世界には好奇心を刺激される不思議な魅力があり、また広がった地図を手に入れたことで、より世界を正確に理解できるようになります。
そして、「だいぶ地図は広がった!」と思っても、旅をするとまだまだ広いことを知るのです。私の場合、更に旅を続けていく中で、「マネジリアルコーチング」といても、「心理学のコーチング」と「経営学(マネジメント)のコーチング」があることを知りました。
また、上司支援以外でも、同僚からの支援もあると知り、同僚からのコーチングは「ピア・コーチング」と呼ばれる事も知っていきました。そしてそれらの支援を総称して「職場支援」という概念で包含できることを知りました。
そして、それ意外にも、まだまだ広い世界が、未だ存在していることを知っており、未だに旅は続いています。
◯「論文の旅」の攻略本(組織行動論)
とはいっても、全体マップほしいよ!というのも正直なところ。そんな方には、他の分野はわかりませんが、人文・社会科学をまたいだ「組織行動」の分野においては、全体マップを示されている書籍があります。
それが、服部泰弘先生の『組織行動論の考え方・使い方』です。この書籍は、現代の巨人による本領域の全体像を示されており、個人的には「地球の歩き方(組織行動論編)」のようなものだな、と感じております。
もし同分野にご興味がある方には、強くお薦めさせていただきたい書。こんな本があるのか…と衝撃を受けました。
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■まとめ(心構え編)
心構え編のまとめを整理いたします。
・世界には80億の人がいる。そして自分が疑問に思ったことは、「知の巨人たち」が既にまとめている。
・それらの知見にアクセスする方法、すなわち「巨人の方に乗る」方法が「論文をみる」こととも言える
・論文を探すには「GoogleScholar」という方法がある。
・論文を探す「論文の旅」の心構えはオープンエリアのゲームのように探索を楽しむこと!
というお話でした。
また今後の記事にて
「どうやって論文を探すのか?」(論文の探し方・まとめ方編)
「どのように論文を読むのか?」(論文の読み方編)
について、まとめてみたいと思います。
最後までお読み頂き、ありがとうございました!
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<本日の名言>
我々は巨人の肩の上に立つ小人のようなものであり、
それゆえに我々は昔より多くのものを、より遠くのものを見ることができる
シャルトルのベルナール(12世紀のフランス人哲学者)
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