研究でわかった!「強み」を4~7個使ったとき、人は仕事を天職と感じやすくなる、という話
(本日のお話 4678字/読了時間5分)
■こんにちは。紀藤です。
昨日は、某大学での「話し方講座」の研修実施でした。
学生さんの柔軟性と成長意欲に多くの刺激を頂いた時間でした。
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さて、本日のお話です。
本日ご紹介の論文は「仕事を天職と感じるときは、強みをいくつ使ったときなのか?」を調べた研究です。
「強み」を調べるアセスメントVIAーISでは24種類の性格的強みが定義されています。そして、「天職と感じる(仕事を経済的な報酬ではなく、人生の目的と感じる)」には、何個くらいの強みが活用できていると、天職と感じるのだろうか?が気になるところ。はたして1つなのか、2つなのか、それとも5つなのか、10なのか…。
その結果と考察を読みながら「確かに言われたらそうかも!」と思える、納得感がある論文でした。ということで、中身について早速みてまいりましょう!
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<今日ご紹介の論文>
『仕事が天職であるとき:自分の強みを仕事に活かす役割』
Harzer, Claudia, and Willibald Ruch. (2012)
. “When the Job Is a Calling: The Role of Applying One’s Signature Strengths at Work.” The Journal of Positive Psychology 7 (5): 362–71.
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■30秒でわかる論文のポイント
・本研究では「仕事におけるポジティブな経験(仕事のやりがい、喜び、関与、意義)」と「天職」に対して、個人が「特徴的な強み」を職場で適用することの役割を調査した。
・様々な職種111名の従業員をサンプルとて、対象者には(1)性格的強み、(2)仕事におけるポジティブな体験、(3)天職に関する尺度について回答を依頼した。また、対象者の同僚には(4)性格的強みの職場での適用性について回答を依頼した。
・結果を分析したところ、「特徴的な強み」が4~7個、職場で適用されている場合、0~3個の適用の場合と比べて、「仕事におけるポジティブな経験」や「天職」のレベルが高いことがわかった。
なるほど、強みは0~3個よりも、4~7個の活用していると感じたほうが、天職と感じるようです。では具体的にどういうことなのか? 詳しく読み解いていきたいと思います。
■「天職」とは何か
まず、本論文のタイトルにもなっている「天職(Calling)」について考えてみたいと思います。
「天職」というと、何だか概念的で、手触り感がない言葉かもしれません。場合によっては、ちょっとアヤシイなどと思う人もいるかもしれません。しかし、この概念についても多くの研究がされており、この概念がもたらす様々なメリットも明らかになっています。
◯「天職」の定義
まず「天職」とは、”自分自身が召されていると信じる機能やキャリア”(Novak, 1996) と言われます。ちなみに「召される」というと宗教的な意味合いを感じるかもしれません。ただし、ここではあくまでも比喩的な意味です。「Calling」=神様が「これがアナタがやるべき仕事だよ!」と言っているように感じる仕事のことです。
つまり、平たく言い直せば「天職を見つけた」とは、「自分の仕事に伴う、個人的な運命のような仕事(得意なこと、楽しいこと、喜びや満足)」を発見した」ことを意味するします。
◯「天職」の効果
天職と感じることは、様々な効果があることがわかっています。
・天職は、離職率の低下をもたらす
・天職は、欠勤日数の減少をもたらす
・天職は、高収入につながる
・天職に従事することは、自分のアイデンティティを確立する(Dobrow&Tostikaras, 2011)
などなど。天職と感じることは、雇用者と従業員の双方にとって好ましい結果をもたらすため、望ましいこととして考えられています(Wizensniewskiら, 1997)。
■「特徴的な強み」を適用するとは
本研究の目的は、「強み」と「仕事におけるポジティブな経験」「天職」の関連を検討することです。
しかし、論文の中では、強みは強みでも「特徴的な強み」という表現がでてきます。ゆえに、この言葉や、また「強みが適用される条件」などについても考えてみたいと思います。
◯「特徴的な強み(Singnature Strengths)」とは
強みアセスメントの「VIA」を受けると、24の強みのうち、自分のスコアが高いものから順に並べられるのですが、その中でも、自分にとっての「中核的な強み」があるとします(ピーターソンとセリグマン ,2004)。
この中核的な強みのことを、「特徴的な強み(Singnature Strengths)」と呼び、曰く”特徴的な強みとは、その人が所有し、称賛し、頻繁に行使するもの”と定義されています。そして「ほとんどの人は3~7つの特徴的な強みを持っている」とします。
◯「”性格的強み”が仕事に適用される」とはどういう状態か
また、「性格的強み」が仕事に適用されるには、以下2つの条件があると論文では述べています。
1つ目が「個人が強みに関連した行動(適用した行動)をとること」です。
そのためには、本人が、適用できる強みを一定程度持っている必要があります。もっと平たく言えば、「VIAなどで上位の強みを自覚していること」です。(自分なんて一つも強みがない、と思っていたら、そもそも強みを使うこともできません)
2つ目が「職場における状況が、強みの発現を可能にする必要がある」ことです。
たとえば、自分がいくら「ユーモア」の強みを持っているとしても、職場が裁判所で、ユーモアさなどは一切求められないとしたら(裁判所がユーモアが不要かはわかりませんが)、それは職場における状況が、強みの発現を促さない、ことになります。
自分の強みを、職場で発揮できる状況であることが大事です。
この「職場での強みの適用」を測定する尺度として「性格的強みの評価尺度の適用性(Applicability of Character Strengths Rating Scales (ACS-RS) )」なるものが紹介されています。本研究では、この尺度も活用されています。
■本研究の全体像
では、これらの前提知識のもと、どのような研究がされたのでしょうか?
以下、見ていきたいと思います。
調査方法
●参加者:111名
(ドイツ語を話す人達、修士取得など高学歴者が中心)
●調査尺度
(1)「性格的強み」
・Values in Action Inventory of Strengths (VIA-IS; Peterson et al., 2005a)
・VIA分類の 24の性格的強み(各強みについて10項目)を測定する240項目
・5段階リッカート尺度(1=私らしくない、から5=私らしい、まで)の質問紙
(2)「仕事におけるポジティブな経験」
・Work Context Questionnaire (WCQ; Ruch, Furrer, & Huwyler, 2004)
・3項目 からなる質問紙で、自分の仕事がどの程度喜びを与えてくれるのか、どの程度 自分の潜在能力(エンゲージメント)を育ててくれるのか、どの程度意味を与えてくれるのかを測定するものである。
・回答は5段階のリッカート尺度(1=全くそう思わない~5=全くそう思う)
(3)天職
・Work-Life Questionnaire (WLQ; Wrzesniewski et al., 1997)
・仕事、職業、 天職としての仕事に対する姿勢を測定する3項目の質問紙
・仕事、職業 、天職として仕事に取り組む個人を描写した3つの簡潔なシナリオを、4段階のリッカート尺度で回答(1=全く似ていない~4=非常に似ている)
(4)性格的強みの評価尺度の適用性
・Applicability of Character Strengths Rating Scales (ACS-RS)
・VIA分類の24の性格的強みのそれぞれが、職場でどの程度適用できるかを測定するもの。
・(a)状況の規範的要求(実際の表現:「それは要求される」)、(b)行動の 適切さ(「それは役に立つ」)、 (c)その行動を促進または阻害する可能性のある要因の存在(「 私はそれをする」)、(d)それを示す内発的動機づけ(「私にとって重要である 」)を測定する。
※その他の尺度
*職務満足度調査票(JSQ; Andrews & Withey, 1976)
・職務満足度を測 る7段階リッカート尺度(1=ひどい~7=うれしい)の5項目で構成
■研究の結果
◯わかったこと1:「性格的強み」を4~7個適用しているとき、最も天職と感じやすくなる
まず、グループサイズで「仕事で適用した強みの数」ごとの、「仕事におけるポジティブ経験」との関連を見ていきました。その結果、0~3までは、適用する強みの数が増える度に、少しずつ「仕事におけるポジティブ経験」も高まっていきましたが、適用する強みの数が3→4に上がる瞬間に、「仕事におけるポジティブ経験」の割合が急上昇していることがわかりました。
また、「わかったこと2」でもお伝えしますが、「適用している強みの数」と「天職」も相関がありますが、同時に「仕事におけるポジティブ経験」と「天職」にも関連があるため、これらのことから「性格的強み」を4~7個適用しているとき、直接的、間接的な影響により、天職と感じやすくなるといえそうです、
◯わかったこと2:「仕事におけるポジティブ経験」が高まると、天職と感じやすくなる
次にわかったことが、「適用している強みの数」が「仕事におけるポジティブ経験」を媒介して、「天職」と感じることを高めていた、ということです。
つまり、「適用している強みの数」が増えると「仕事においてポジティブな経験」も増え、そしてその結果として「天職と感じる」ということです。
さらに言えば、もし強みの適用以外にも、「仕事におけるポジティブな経験」を何かしらの形で増やしたら(たとえば承認されたり成功体験を積んだりするなど)、天職と感じる割合も高くなるのかもしれません。
■まとめ(個人的感想と補足)
◯個人的感想
自分の仕事を考えた時に、非常に共感する話でした。
自分の仕事を考えた時に、非常に共感する話でした。
私事で恐縮ですが、私は「人材開発・組織開発の外部支援者」としてお仕事をさせていただいています。研修も行えば、研修のプログラム開発も行えば、個別のフォロー(コーチング)なども行います。
この仕事で、自分のどんな強みを使っているか考えると、例えばストレングス・ファインダーでいえば、『研修の実施』では「個別化(参加者一人一人を見る)」「コミュニケーション(言葉で考えていることや概念を伝える)」ことを活用しています。
また『研修プログラム開発』では「学習欲(それ自体が学びになる)」「着想(アイデアを形にできる)」を使っています。さらに、特に『強みの研修プログラム』では「ポジティブ」「未来志向」なども活用しています。
そして、『仕事の全ての側面』において、自分も他者もよりよくしていこうという「最上志向(向上心)」が常に稼働し続けていますし、それが望ましいこととされていると理解しています。
と並べてみると、私の場合は「7つの強み」を使っているわけですが、まさにこの状態は「天職と感じる」のです。もしこれが、3つだったら「うーん、もうちょっと強みを活かせる仕事が他にあるかも」と思うかもしれません。
ゆえに、4~7個の強みを使うと天職と感じやすい、というのはなるほど納得だな、と思ったのでした。
◯補足
ちなみに、本論文では「天職」に一番影響があるとされる「熱意」を調整して研究をしています。つまり、「熱意」の強みが高ければ、天職と感じる割合も高くなるわけです。
その中で、もし「熱意」の影響をなくしても、4個以上の強みがあったほうが天職と感じやすい、となったとしたら、今回の研究の結果を、更に強固にすることとなります。
そして結果、「熱意」の影響を調整してもやはり4~7個の強みを使っているほうが天職と感じやすい、という結果になったのでした。(ちなみに8個以上使っても、あまりスコアは伸びなかったそうです)
最後までお読み頂き、ありがとうございました。本日も皆さまにとって、素晴らしい1日となりますように!
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ベンジャミン・フランクリン
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