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3671号 2024年3月14日

特性活性化理論 ~性格的強みと教育成果の関係を調べてわかったこと~

(本日のお話 3048字/読了時間3分)

■こんにちは。紀藤です。

昨日は2件のアポイント。
また大学院のお仲間の会社のチーフ向け研修の立ち会いでした。
その他10kmのランニング。



さて、本日のお話です。

本日も強みに関する論文をご紹介させていただきます。
今回の論文は「子どもの学業成績に関連する強みは何か?」というテーマです。

この論文の特に面白いところは、「特性活性理論」なる”状況により異なる特性が発現する”という考えを元に、「教師から学ぶ場面」「個別学習の場面」「チームワークを行う場面」でそれぞれ影響する強みが違うのではないか?という仮説を立て、検証したこと。

結論からすれば、「共通して影響がある強み」と「場面ごとに影響がある強み」がそれぞれ明らかになったという話ですが、その内容も納得ができるもので興味深く感じました。

ということで早速みてまいりましょう!

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<今回ご紹介の論文>
『性格的強みは、生徒の達成度・フロー体験・楽しさに関連する:教師主導の学習、個人ワーク、グループワークにおいて』
Wagner, Lisa, Mathias Holenstein, Hannah Wepf, and Willibald Ruch. (2020). “Character Strengths Are Related to Students’ Achievement, Flow Experiences, and Enjoyment in Teacher-Centered Learning, Individual, and Group Work Beyond Cognitive Ability.” Frontiers in Psychology 11 (July): 1324.
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■性格的強みと教育成果の関係はあるのか?

「性格的な強みは学業達成度と関連しているのか?」。この答えについてはYESであることが、先行研究で見出されています(Wagner and Ruch, 2015)。たとえば特に『向学心』『忍耐力』などが、教育成果に資することがわかっています。

一方、学業達成度ではなく「学校での良好な人間関係」なども含めると、『熱意』『社会的知性』などが影響しているなど、学業でなく学校での広範の成果を考えてみると、もっと多くの強みが関連してそうです。

■「特性活性化理論」とはなにか

さて、ここで興味深い理論が紹介されています。それが「特性活性化理論」(Tett and Guterman, 2000)なるもの。

簡単に説明すると、”特定の状況下での人の行動は、その人の特性(性格や能力など)とその状況の特性が相互に作用することによって決定される”という理論です。

たとえば、リーダーシップ能力が高い人でも、その能力が求められない環境や役割では、その特性が活性化されず、リーダーシップを発揮できないことがあります。

個人で黙々とやることを求められる環境では「黙って黙々とやる特性」が活きるでしょうし、皆でワイワイやることを求められる環境では「チームワークの特性」が活きるでしょう。つまり、状況と特性の相互作用で成果は変わってくるということです。

◯学校おける3つの学習状況

この「特性活性化理論」を学校に当てはめると、以下の3つがの学習状況が想定されます。

1,教師主導の学習(主に教師とのやりとりがあり、教室全体で行う)
2,個人学習(他者との交流は最小限で、与えられた課題に集中する)
3,グループ学習(仲間との交流が多く、協力が求められる)

そして上記の学習状況と活かされそうな強みを想定すると

「個人学習の場面では『向学心』の特性が発揮されると成績が良い」「チームワーク学習の場面では、『社会的知性』『チームワーク』があると成績がよい」

ことがありえそう、という仮説が考えられます。ということで、本研究では様々な学習状況で当てはまる強みついて探求をすることにしたのでした。

■研究の全体像

◯本研究の目的
研究の目的は、
「異なる学習状況において、生徒の性格的強みが、認知能力以上に、達成感と肯定的な学習経験(フロー体験や楽しさ)」を予測するかどうかを調査することです。

◯本研究の仮説
研究者らは、3つの異なる学習状況に関連する強みとして、以下のような仮説を立てました。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~
<「学習状況と関連する強み」の仮説>
1,教師主導の学習で活きる強み:『熱意』(授業に積極的に参加する)、『自律心』(注意を集中する能力)『希望』(自信を持つ)など
2,個人学習:『自律心』(自己調整しながら課題に取り組むことが必要である)など
3,グループ学習:『大局観』など(異なる意見や情報を統合する)、『愛情』『優しさ』『社会的知性』『チームワーク』(他の生徒と協力する)など

※全ての学習状況への影響すると考えられる強み =『向学心』『忍耐力』
~~~~~~~~~~~~~~~~~~

■「学習状況と関連する強み」の仮説

◯参加者と調査方法
本研究の参加者と調査方法は以下の通りです。

●参加者:
スイスの中等学校19教室の301名(平均年齢14.49歳)

●調査尺度:
1)「学習状況における達成度」
※教師主導学習・個人学習・グループ学習のそれぞれ
※教師による評価と自己申告の両方を用いた
2)学習状況における「フロー体験」(10項目)
3)学習状況における「楽しさ」(3項目)
4)心理学的知能(推論・言語性知能・集中力)

●データ分析:
年齢、性別、知能などをコントロールしながら、性格的強みと結果(学習状況の達成度・フロー体験・楽しさ)をマルチレベルで分析を行った。

■結果
分析の結果、以下のようなことがわかりました。

◯「学習状況における達成度」と「強み」の関連

(1)「教師主導の学習」と『向学心』『忍耐力』『熱意』『希望』に正の関係があった。
(2)「個別課題」と『向学心』に正の関係があった。(自己評価のみ『自律心』も影響していた)
(3)「グループ学習」と『大局観』『チームワーク』に正の関係があった。

◯「フロー体験」「楽しさ」と強みの関連

「フロー体験」と強みとの関係は、学習状況や知能を越えて、『創造性』『判断力』『向学心』『忍耐力』『熱意』『自律心』『希望』の強みが関連していることがわかりました。

「楽しさ」と強みとの関係は、教師主導の学習では『向学心』『忍耐力』『熱意』『希望』、個別学習では『向学心』『自律心』、グループ学習では『チームワーク』の強みが関連していることがわかりました。

◯様々な学習状況に関連する5つの強み

総合すると、「3つの学習場状況」「教師の評価と生徒の評価」、「達成度とポジティブな学習経験(フロー体験と楽しさ)」を横断してポジティブな影響がある強みは『向学心』『忍耐力』『熱意』『希望』『チームワーク』であることがわかりました。

■まとめと個人的感想

「学校で学ぶ」行為の中に包含されている、3つの学習状況、そしてそれに対応する特性としての強みの繋がりを見ていこう!という本調査。

言われてみればそうだよな、という感覚を持っていましたが、それらを調査で証明した一つの試みであったと感じ、興味深く読ませていただきました。

そしてあらゆる学習状況において、『向学心』『忍耐力』『熱意』『希望』『チームワーク』が影響しているというのも、興味深く、こうした強みを育てることで、間接的に学習の達成度も高まると考えると、新しいアプローチも考えられそうだと思いました。

(自分を振り返ると、私は『向学心』『希望』を頼りに勉強しているような気がしました(忍耐力は自己評価では低い))。最後までお読み頂き、ありがとうございました!

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<本日の名言>

幸福になる秘訣は快楽を得ようとひたすらに努力することではなく、
努力そのもののうちに快楽を見出すことである。

アンドレ・ジッド
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