「ボランティアの強み」と仕事満足度・幸福度の関連の統合モデル ーイスラエル300名への調査ー
(本日のお話 3954文字/読了時間6分)
■こんにちは。紀藤です。
さて強み論文100本ノックも、いよいよあと3本・・・!
今日も早速論文の紹介をさせていただきます。
本日の論文は「ボランティアの強み」なるテーマです。
3つのボランティアグループに対して、「強みの支持」と「強みの展開」が、仕事や人生の満足度、そして幸福感にどのように影響するのかを調べた研究となっています。
特徴は、1つのグループではなく、年齢や性別の異なる3つのボランティアグループ(青少年、中年、成人社会人女性)への調査を行うことで、
より「ボランティアの強みについての統合された結果を見出すこと」を目的としているのが本論文の特徴です。
ということで、早速内容をみてまいりましょう!
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<今回ご紹介の論文>
『ボランティアと従業員の性格的強みと幸福感:統合モデルに向けて』
Littman-Ovadia, Hadassah, and Michael Steger. (2010). “Character Strengths and Well-Being among Volunteers and Employees: Toward an Integrative Model.” The Journal of Positive Psychology 5 (6): 419–30.
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■30秒でわかる本論文の概要
・性格的強みの支持と展開は、人々が幸福を生み出す方法を理解する上で重要な要素とされます。
・この研究では、「性格的強み」「仕事の満足度」「人生の意味」「幸福感」を取り入れた研究モデルを提案し、ボランティアと社会人のグループで検証しました。
・結果、この研究モデルは、すべてのグループにおいてデータに適合しました。
・3グループ全ての共通点としては、仕事での強みを生かすことが、「仕事の満足度」や「人生の意味」と重要な関連性を持つことが示されました。
・また2グループ(成人ボランティアと成人社会人:有給労働者)では、「強みの支持」が「人生の意味」と関連しており、「強みの支持」と「強みの展開」の両方が「幸福感」と関連していました。
という内容です。
■本研究の全体像
では、どのような研究だったのか以下詳しく見ていきたいと思います。まず研究の仮説は、こちらです。
◯本研究の仮説
H1.性格的強みの支持と職業活動における強みの 展開との間に正の相関が認められる。
H2.性格的な強みを支持することと、経験から得 られる意味の感覚との間に正の相関が認められ る。
H3.性格的強みを支持することと幸福度の間には 正の相関が認められる。
H4.性格的強みの展開と職業活動に対する満足感 の間に正の相関が認められる。
H5.性格的強みの展開と幸福度の間に正の相関が 認められる。
H6.性格的強みの展開と人生における意味との間 に正の相関が認められる
H7.人生の意味と職業活動の満足度の間に正の相関が認められる
H8.人生の意味と幸福度の間に正の相関が見られる
H9.職業活動に対する満足度と幸福度の間には正の相 関が認められる
結論からすると、「仮説は概ね支持された」、となりました
そして、これらの仮説を研究モデルとして全体像を示したものが示されています。
◯参加者
●研究1a:青少年100人(平均年齢16.76歳)
イスラエル赤十字社(Magen DavidAdom;MDAイスラエル、未発表)のボラン ティアとして活動する10~12年生の100人(女性52%、平均年齢M¼ 16.76; SD¼0.80)
●研究1b:中年100人(平均年齢38.7歳)
アリエル市とエルサレム市の市民警備隊のボランティア。
当初はイスラエルの住宅街でのテロ攻撃を 防ぐことを目的とした地域密着型のプロジェク トとして設立された(32%が女性、平 均年齢M¼38.7, SD¼13.15)
●研究2:有給労働者(成人社会人女性)102名(平均年齢44.5歳)
働く女性、特にワーキングマザーのために多くのサービス(デイケア、法律相談、労働権など)を提供する全国的な女性団体NA'AMAT の職員( 平均年齢M¼44.5,SD¼8.8)
◯調査尺度
調査尺度は以下のもの用いたしました。
(1)性格的強み(VIA-IS 240項目)
(2)強みの展開尺度(オリジナル尺度)
Inventory of Strengths(Peterson & Seligman, 2004 )から24の性格的強みの名前を提示し、回答者 にボランティア活動を振り返ってもらい、「日 々の仕事の中で、それぞれの強みを展開する機 会がどの程度あるか」 を回答してもらった。項 目は1(ほとんどない)から5(非常にある)であった
(3)幸福度(Menatal Health Inventory, 1983)
(4)人生の意味(MLQ:Meaning of Life Quetionear)(Steger, 2006ら)(5)仕事における意味(WAMI:Work as Meaning Inventory)(Steger&Dik, 2009)
■研究の結果
それぞれ、記述統計、相関分析、研究モデルの検証を行った結果、以下のことがわかりました。
◯わかったこと1:記述統計からわかったこと
・男性は女性よりも幸福度が高い結果となりました。
・「年齢」および「ボランディア活動歴」は、「ボランティア活動への満足度」と正の関係が見られました。
◯わかったこと2:相関分析からわかったこと
変数間の相関を分析した結果、仮説1~9は概ね支持されることがわかりました。
・性格的強みの支持と展開は関連していた(H1)
・性格的強みの支持は、幸福と人生の意味の両方に関連してい た(H2およびH3)
・性格的強みの展開は、職業活動の満足度、幸福、人生の意味に関連していた (H4-H6)
・人生の意味は、幸福と職業活動の満 足度に関連していた(H7およびH8)
・しかし 幸福度とボランティア活動への満足度は、H9と は対照的に有意な関連を示さなかった
◯わかったこと3:研究モデルの考察からわかったこと
●「性格的強みの展開」と「仕事の満足度」「人生の意味」は相関があった
・「性格的強みの展開」と「ボランティア活動への満足度」との間には、性格的強み理論(Peterson & Seligman, 2004)を支持する正の関係がありました。
・「性格的強みの展開」と「人生の意味」との間の正の関係 も、両サンプルで一貫しており、Stegerら(2007 )の知見を再現している結果が見られました。
●年齢による違いは見られなかった
・先行研究では高齢者ほど強みを支持する傾向があることが示唆されていました(Ruchet al.)。しかし、今回の結果では、年齢と性格的な 強みを支持することとの間に有意な関係は見られませんでした。
■まとめと個人的感想
本論文では、3つのグループでの共通点として、「仕事での強みを生かすこと(性格的強みの展開)」が、「仕事の満足度」や「人生の意味」と重要な関連性を持つことが示されました。
また、この研究はイスラエルのサンプルで実施したものであり、北米やヨーロッパなどではない文化圏でも強み理論が当てはまることを示している点も、有意義であると述べられていました。
また、「強みの支持」(認識をするだけ)では、仕事の満足度には繋がらず、やはり「仕事への強みの展開」してこそ、成果につながるものであるという結果も示唆されており、興味深く感じました。
個人的感想として、サンプルサイズ100ほどのものを3つの少しずつ異なる条件下のグループで調査をすることで、研究モデルの説得力が増すことを感じました。
そして必ずしも、先行研究で言われていたことが当てはまるとも限らないことも理解しました(たとえば、「年齢と強みの展開には相関がある」など)。
しかし、こうした研究を行うこと、本当に骨が折れそうだなあ、、、と改めて思います。研究者ってすごいです。
最後までお読み頂き、ありがとうございました!
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