国によって強みは違うのか? ~論文『75カ国における性格の強さ』からの結論~
(本日のお話 2854字/読了時間4分)
■こんにちは。紀藤です。
昨日は、大学院の先輩の組織開発プロジェクトのDAY1でした。
組織開発は、色々と時間もかかりますが、
その分しっかりやると成果が出るものになるのだろうと感じた時間でした。
これから半年のプロセスがとても楽しみです。
またその他1件のアポイント。
夜は人材開発の仲間との会食でございました。
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さて、本日のお話です。
強みに関するワークショップを行う際に、よくある質問に「強みって、国ごとの文化的な違いがあるんじゃないですか?」というものがあります。
なるほど、素朴な疑問です。そして、実際に気になりますよね。。。
日本は日本の強みの傾向があるのでは?と思うのもわかる気がします。
さて、この疑問について、世界3000万人が受けているVIAのアセスメント結果を参考に、75カ国の比較・分析をした論文がありました。
今日はその内容について、ご紹介したいと思います。
なるほど、、、そうだったのか!と発見になる論文でございました。
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<今回の論文>
『75カ国における性格の強さ:最新情報』
McGrath, Robert E. 2015. “Character Strengths in 75 Nations: An Update.” The Journal of Positive Psychology 10 (1): 41–52.
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■30秒でわかる論文のポイント
・2002年から2012年の間に、VIAを回答した約100万人に対して分析を行った。具体的には、75カ国に対して、少なくとも150人以上の回答者がいる国を対象として、「強み」の出現率などを比較した。
・その結果、強みに対する支持のされ方(上位に出やすいもの、出づらいもの)が、文化間でかなり類似していることが示唆された。
・最も多く出現した強みは「誠実さ」「公平さ」「親切心」「判断力」「好奇心」であり、最も支持されなかったものは「自律心」「慎み深さ(謙虚さ)」「思慮深さ(慎重さ)」「スピリチュアリティ」であった。
■VIAの強みは異文化間で共通するのか?
さて、そもそもの話になりますが、VIAのアセスメントは強みの分類において、”異文化間における一般性を念頭においた美徳と性格的強みのモデルを開発する”ことを目標としていました。
そして、目標を達成するために、研究者たちは、儒教、道教、仏教、ヒンドゥー教、古典ギリシア、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の伝統から得の本質に関する古典的な文献(聖書など)を検討し、「善い行動の本質」について認識されている6つの「美徳」と24の性格の強みを特定したのでした。
ですが、このアセスメントは米国で作られたものです。
そのため、VIAの24の強みが異文化間でも、同じように強みと認められるかどうかを評価することは、開発当時からの課題ではありました。よって、2006年にVIAの開発者であるピーターソン、セリグマン等が、アメリカを含めた54カ国のVIA性格の強みの順位に関して調査をしました。
そして、アメリカと他国の「強みの順位の相関がどれくらいあるのか?」を調査したところ、24の分類の相関は、「平均0.78(かなり強い相関がある)」ことがわかりました。性格の強みは文化間で基本的な一致を示すことがわかったのでした。
■本研究の内容
なるほど、異文化でも相関があったのね、とはいいつつ、もうちょっと突っ込むと気になることもあります。というのも、2006年当時の調査のサンプルデータが限定されていた、ということです。
具体的には、2006年当時調査したデータは、54カ国中34カ国(63%)が100人未満の回答、そして21カ国(39%)は50人未満の回答に限られていました。あれ、アメリカ以外めっちゃ回答者少ないじゃん・・・ということです。
よって、今回の調査(2002~2012)では、VIより多くのサンプルに対して「最新の国ごとのVIAの結果」を調査することで、過去の研究をアップデートしよう、というのが目的になっています。
■研究の結果
さてでは、75カ国の「強みの出現順位」はどのようになったのでしょうか? アメリカとの比較が中心になっていますが、研究において特徴的であった結果をご紹介いたします。
・アメリカと各国の強みの出現率の相関は「平均0.85(かなり強い相関がある)」であった。
・アメリカと最も相関が低かったのは「パラグアイ(0.49)」「パキスタン(0.67)」「インドネシア(0.60)」であった。
・アメリカにおいて、強みの出現の平均順位が高かったものは「誠実さ」「公平さ」「親切心」「判断力」「好奇心」であった。他の74カ国の上位に出やすい強みは、「公平さ」「判断力」「誠実さ」「好奇心」「親切心」だった(比較的共通していることがわかる)
・出現率が低い強みは、「自律心」「慎み深さ(謙虚さ)」「思慮深さ(慎重さ)」「スピリチュアリティ」であった。
・最も頻度が低い「スピリチュアリティ」は、インドネシア、ケニア、パキスタンの3カ国は上位5位に入っている。このことから精神性が中心的な要素となっている国があると示唆される。
・ばらつきが多い強みは「希望」であった。4過酷で上位5位以内、7カ国で下位5位以内だった。(ちなみに、トルコを含めると希望が下位5位に入った国はすべてヨーロッパ諸国だった。インドネシアは最も順位が高かった:スピリチュアルな国として浮かび上がっていることも関連がありそうである)
・「向学心」の強みは産業化のレベルが影響していることが示唆された。向学心が上位5位に入った国の内9カ国(64.3%)は産業化レベルが高い国であった。国際通貨基金が「先進国」とみなす35カ国で下位5位に入った国はなかった。
■日本における強みの順位
ちなみに日本におけるサンプル(2350人)の強みの出現順位は以下のようになりました。
1,好奇心
2,向学心
3,感謝
4,公平さ
5,愛情
6,親切さ
7,判断力(知的柔軟性/批判的思考力)
8,誠実さ
9,審美眼
10,ユーモア
11,希望
12,創造性
13,大局観
14,リーダーシップ
15,チームワーク
16,社会的知性
17,忍耐力
18,慎み深さ(慎重さ)
19,勇敢さ
20,寛容さ
21,自律心
22,熱意
23,慎み深さ(謙虚さ)
24,スピリチュアリティ
「向学心」は特に強めにでているようです。また、個人的に日本人は「チームワーク」が大事のような印象がありましたが、実は他国に比べて必ずしも高くない、というのが興味深いところでした。
■まとめと個人的感想
本論文の結論として、「この研究に参加する資本力と関心を持つ個人の間では、性格の強みにおいて、国を超えて顕著な一貫性がある」と締めくくっています。(ただし、あくまでも「この研究に参加した個人の間では」というのが本研究の限界となります)
今回のサンプルでは100万人中、60万人が米国人であり、女性が66%、年齢は35~36歳の方がサンプルとなっているため、その対象者以外の人(小学生やシニア)まで拡げたとしたらどうなるのか、違う結果も見えてくる可能性もあります。
いずれにせよ、国をまたいで共通性があるというのは大変興味深いことでした。他にもこうした異文化比較の論文もあったので読んでみたいと思います。全体を見ることで、自分たちの文化の特徴も考えられる、良いきっかけになった論文でした。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
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