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3813号 2024年8月3日

出版における「面白さと正しさ」の間に揺れる。

(本日のお話 2564字/読了時間4分)

■こんにちは。紀藤です。

いつぞやか「強み開発についての本」を書きたいと思うようになり、先月より仲間の紹介で「出版ゼミ」なるものに参加し始めました。

これまで知らなかったの商業出版の世界を垣間見て、「本を出す」という行為に関わる様々なことを少しずつ学んできています。そして、日々それらの出版ゼミの課題を考える中で、自分の中にふつふつと湧いている葛藤や迷いのようなものを感じ始めている今日この頃。

本日はそんな出版ゼミに参加し始めて思った「面白さと正しさの間」をテーマ書いてみたいと思います。それではまいりましょう!



■商業出版は「売れること」が重要?

商業出版とは、読んで時のごとく「商い」の「出版」です。
様々なニースがある市場において、出版社というプレイヤーが、多くの人の関心があるテーマで「売れる本」を企画し、世に出していく。そうして求められたものがヒットすること。これが商業出版の前提のようです。

多くの読者の「悩みや課題」を解決するもの。だからこそ売れる。

そして編集者の仕事は、売れる本を作ることにあり、極端にいえば「編集者は売れないと思う本には、1ミリも関心がない」という話を出版ゼミで耳にして、そういう側面もあるのかもしれないな・・・と思ったのでした。

もちろん、全編集者がベストセラーを狙うわけではないのかもしれません。課題も、大きな課題もニッチな課題もあります。全員がエースで4番なんてこともないでしょう。しかし、その中身を見て心が揺さぶられ、心の閾値を超えて「誰かに話したくなる」ように、他者に口コミが波紋のように伝わっていかなければ、書籍の売れ行きが伸びることもありません。



■「面白さ」を求める商業出版

商業出版の世界では、極端に言えば「正しい表現」よりも「面白い表現」のほうが求められます。
正しさは、ときに堅苦しさにも繋がります。
人の目を惹きつけて、視線を捉えて読ませて、人の心を揺さぶるような「言葉を編む」のは、正しいとは違う座標軸にもあるようです。

もちろん「正しさ」or「面白さ」という二律背反ではなく、どちらも求めることが望ましいでしょう。でも、立ち位置を決める上では、どちらかに偏らざるをえないのも事実。多くの人が手に取ることを目的とする商業出版の場合は、やっぱり「面白さ」が求められるわけです。

ゆえに私が通う出版ゼミでも、「ベストセラーを狙う」とのことで、「言葉を磨く」練習を繰り返す場が設けられます。マーケティングにおけるキャッチコピーのように、誰かの心を想像して、響くものを届ける練習になり、これはこれで、勉強になります。

ただ、「わかりやすさ」を追求すると、自分の中で実は「嘘くささ」みたいなものを感じるのも本音なのです・・・・。

本当はハッキリしていないものでも、あえてハッキリ言う。
正確ではない表現を、あえて使って人の視線を集める。
「◯◯ができるようになる」とか「たった一つのXXXXX」とか「絶対に~~~するな」等々。

それが悪いわけではなく、多くの人を惹きつけるために必要な技術ともいえるかもしれません。現に、私もnoteでそんなタイトル付けますし、偉そうな事は言えません。

世の中の複雑性を、正しく言葉にしても、それは多くの人には求められない。受け取る言葉に合わせるのは、”迎合する”ようにも感じられて、心がざわつく。そんな感情も、どこかで感じている自分もいるのでした。



■「正しさ」を求める学術出版

さて、こうした表現は、商業出版においては重要です。しかし、「正しさ」を追求する素晴らしい本は、これまたたくさんあるのです。その一つに学術出版があると私は思っています。

たとえば、大学院のときに出会った専門書などそう。多くの研究者達が、その道で何年、何十年と、研究してきた知見を、正しい言葉で、誤解がないようにて丁寧に言葉にしていく。その中身の重たさには、打ち震えるのみです。

気が遠くなるような研究と、それを正しく言葉で表現する。だからこそ難解で骨太で、単純化できない。でもその複雑性を言葉にするその言葉の技術にまた、震えます。そこに込められている重厚なメッセージは、読みやすいビジネス書とは異なる、重なり合う知恵が含まれているようです。

正直私は、こうした本のほうがより価値がある、と思っているフシがあるようです。人類の知恵はそうした書籍があるから、先人から未来の人にバトンが渡され、実践が科学へと昇華され、積み上がってきていると思っているようです。

言葉は正確ではないかもしれませんが、面白さに対して、「正しさ」を求める本の価値。そこには、静かな感動があります。



■価値をどこに置くか

商業出版、学術出版。それぞれ目的が違うため、どちらがいい悪いか、同じ物差しで測ることはできません。多くの人にわかりやすく届けるか、必要な一部の人にきちんと届けるか。
目的が違っており、それぞれの出版を目指す上で、「良書」の価値基準が違っている、というのはありそうです。
そして、私はベストセラーを狙うコンセプトである「出版ゼミ」で学んでいるわけですが、こうした練習をしていると、葛藤を無視できなくなります。

「面白さ」を求めて、スキルや型を身につける。郷に入れば郷に従え、でしょうが、そのお作法を大事にすることの重要さと、自分の中で何をしたいのかの軸が、定まらないようにも思えます。

自分は本当にそうした言葉を使って、売れる本を書きたいのか?
そもそもそこまでして伝えたいことがあるのか?
そもそも面白い表現ができないから、商業出版がどーだこーだとた抵抗感を口にしているだけではないか?
じゃあ、正しい学術的な本を書けるのか?
・・・

そんな疑問も頭に浮かび、改めて「出版を通じて自らを省みる」という道中にいるという自分に気づくのでした。



■まとめ

自分が未知の世界に飛び込むと、また違う当たり前があり、その中で、自分の中に様々な感情が起こります。

どうなるかはまだわかりませんが、これも何かの縁。葛藤がありつつも、まずはやれるだけやってみたいと思います。最近は論文レビューなどお休みしていますが、そんな「面白さ」を考えているこの頃でした、ということでした。いずれにせよ、論文もまた読み進めたいと思います。

最後までお読み頂き、ありがとうございました!

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