「本当の自分感」を生み出す3つの要素
(本日のお話 2772字/読了時間4分)
■こんにちは、紀藤です。
先日より沖縄に来ております。
さて、久しぶりに論文のご紹介でございます。
論文のキーワードは「Authenticity(オーセンティシティ:本物らしさ)」です。
”真正性”とも、”本来感”とも翻訳されることもあるこのキーワードですが、ポジティブ心理学の分野で重要視されてきました。
強みに関連する論文でも、「強みを使うと”本来の自分らしさ(Sense of authenticity)”が得られる」という話もあるように、よく見かける言葉でございます。
今日は以下の論文より、オーセンティシティを紐解いていきたいと思います。なかなか深い話のようですので、複数回に分けて解説させていただければと思います。
それでは早速まいりましょう!
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<今回ご紹介の論文>
『”本物らしさ”の人格:理論的および実証的概念化とオーセンティシティ尺度の開発』
原題:Wood, Alex M., P. Alex Linley, John Maltby, Michael Baliousis, and Stephen Joseph. (2008). “The Authentic Personality: A Theoretical and Empirical Conceptualization and the Development of the Authenticity Scale.” Journal of Counseling Psychology 55 (3): 385–99.
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■本論文の概要
・本論文は、性格特性としての「オーセンティシティ(本物らしさ)」を測定するための尺度を開発し、それが幸福感に関連するかどうかを調査した。
・著者らは、”オーセンティシティ”の要素を「自己疎外」「本物の生活」「外部からの影響の受容」の3つの要素にわけ、探索的因子分析を通じて、オーセンティシティ尺度を開発した。このオーセンティシティ尺度は異なるサンプル・民族・性別に対しても一貫していることがわかった。
・オーセンティシティ尺度は、ビックファイブ性格特性との違いがあり、社会的望ましさとの相関も認められなかった。また、オーセンティシティの尺度の下位尺度は、自尊心や心理的幸福感の側面との強い関連が示されることがわかった。
という内容です。ということで以下、詳細を見てまいりましょう。
■「本当の自分」はあるのか問題
「オーセンティシティ(本物の自分)」とは、一体何なのでしょうか?
「♪本当の自分を見つけたいっていうけど~」とミスチルがで歌っていますが(by Gift)、ミスチルが歌詞にしちゃうくらい、人が持つ難題の一つのようにも思えます。というか、本当に「本物の自分」なんてものはあるのだろうか・・・?
少し話は逸れますが、先日ある会社でストレングス・ファインダー研修を実施させていただいたとき。
バリバリの理系の参加者の方から「心理アセスメントって、”こうありたいという願い”と”実際の自分”が混ざって答えてしまうと思うのですが、それを峻別する理論や研究はあるのですか?」と、ディープな質問をいただきました。
その時は「あるかもしれませんが、私は見たことがありません」という回答しかできませんでした。ですが、言われてみればその疑問も、おっしゃる通り。
「自分のことを答えるアセスメント」で問われながら、「本当の自分ってなんだっけ?」と哲学的な問いを考えてしまう人も、意外と少なくありません。
本当の自分って、なんなんだ??
謎は深まるばかりです。
■「本物らしさ」を示す3要素の一貫性
さて、そんな中で一つの「オーセンティシティ(本物らしさ)」を紐解く上で、論文にヒントとなりそうな話がありました。
Barrett-Lennard(1998)と本人中心の心理学(Wyatt,2001)で語られている「本物らしさ(オーセンティシティ)は、3要素の一貫性からなっている」という定義です。
3要素とは、以下の内容です。
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<オーセンティシティを表す「3要素の一貫性」>
(a)本人の”実際”の体験(認知・感情が生理的にどうなったか)
(b)本人の”意識”した体験(生理的な変化を、本人がどう認識したか)
(c)本人の”行動と感情表現”(どのように行動、感情の表現をしたか)
※Wood, Alex(2008)P4を参考に、著者にて翻訳
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なんとも説明が難しいのですが、「実際に体験したこと」と、「経験をしたことに対する認識」と「それに対する行動や感情表現」が一致していると感じられたとき、「本物らしさ」を感じるというようです。
乱暴に、ものすごく平易な言い方をすれば、たとえば「本当の自分はもっと積極的で前向きなのに、なんか最近は内側にこもっているなあ」(=自分らしくない)みたいな状態が、これに当たると思われます。
それらを上記の3要素で説明すると、こんな感じでしょうか。
a、実際の体験:会議で、発言をしなかった
b、意識した体験:会議で発言しなかったことで、モヤモヤした
c、行動と感情表現:「黙っているほうがいいと思った」と表面的に発言した
うまい例えになっているかは不明ですが、「本当は発言をズバズバするのが自分なのに、この場ではそういう行動ができていない」という感情や行動の一貫性のなさが、本物の自分ではない感覚を生み出す、と言えるのかもしれません。
ちなみに、論文では3つのポイントを伝えています。
1つ目が、”「実際の体験」と「認識した体験」の完全な一致は不可能”と述べている点。事実と感覚の間には、絶対的に解釈が入る。これは不可避のようです。ただし、その間のギャップが大きいほど『1,自己疎外』という”本物らしくない感覚”を覚えるようです。
2つ目が、「認識した体験」と「行動」が一致すると、自分自身に忠実であり、自分の価値観に従って生きる感覚がするとのこと。よって『2,本物の生活』という”本物らしい感覚”が生まれます。
3つ目が、「他者からの影響をどれほど受け入れるか」です。人は社会的な生き物なので、社会環境の影響を受けます。『3,外部からの影響を受け入れる(他者の期待に応える)』は、それが自分の価値観・信念に沿うものであれば本物らしさは高まりますし、そうでなければ本物らしさは下がる(自己疎外が高まる)となるわけです。
■まとめ
本日は、「オーセンティシティ(本物らしさ)」を、本人中心の心理学(パーソン・センタード心理学)の文脈の3つの要素の一貫性で読み解くという考え方を紹介させていただきました。
こうした概念を言葉にするのは、難しいことではありますが、抽象的な考え方を言葉にしようとする試みの中で、ぼんやりしたものが輪郭を覚えるようにも思います。
ということで、また本論文も明日に続けていきたいと思います。
最後までお読み頂き、ありがとうございました!
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