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3834号 2024年8月24日

「感謝」がもたらす3つの効果 -感謝の研究からわかったこと~読書レビュー『感謝と称賛』#1~

(本日のお話 2892字/読了時間4分)

■こんにちは。紀藤です。

引き続き、沖縄に来ております。
さて、早速ですが本日のお話のご紹介です。



「ありがとう」。日常的によく使われる「感謝」の言葉。
そして、こうした感謝の表現を受け取った、あるいは渡した時に生まれる感情は、私たちの心を温かい気持ちにしてくれます。

人が社会で生きる上で、こうした潤滑油としての行動は、とても大事だと感じます。私事ですが、息子(3歳)に対しても「バナナ取ってもらったら、なんていうんだっけ?」→「あんがと(息子)」と、「ありがとうの練習(強制?)」を求めている我が家であります。

さて、「感謝」が良いものであるという感覚は、否定する方は少ないと思います。一方、「感謝」という行動が「組織や職場において、どのように機能するのか?」についてはどうなのでしょうか?
この疑問について、社会心理学や組織行動学の観点から研究された著書があります。それが正木先生による『感謝と称賛 人と組織をつなぐ関係性の科学』です。

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『感謝と称賛 人と組織をつなぐ関係性の科学』
正木郁太郎 (著)
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今日はこの書籍の「第一章 感謝と称賛をめぐる研究と背景」より、「感謝」の効果を示す先行研究について、内容を参考にしつつ、ご紹介させていただければと思います。それではまいりましょう!

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<目次>
「感謝と称賛」の研究の背景
感謝の研究に繋がる組織課題
「感謝と称賛」の定義
「感謝」の3つの視点
「感謝」がもたらすもの(先行研究より)
まとめ
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■「感謝と称賛」の研究の背景

◯感謝の研究に繋がる組織課題

まず、感謝の研究を行う背景である”現代の組織課題”を2点、著者は述べています。
1つ目が、「ダイバーシティの向上」です。ダイバーシティの推進、つまり多様な人が同じ職場で働くことですが、異なる属性・特徴・価値観をもった人同士が関わり、コミュニケーションをとることは、実はとても難しい課題の一つです。(同じような価値観・属性のほうが、ツーカーで進むので、ある意味ラクです)

2つ目が、「テレワークの拡大」です。これも言われて久しいことですが、テレワークの推進により、コミュニケーションが減少したとされる組織も3~4割ほどあるようで、こうした環境下でコミュニケーションにマイナスの影響を及ぼすことが考えられる、とのこと。

そして、そんな背景を踏まえて、たとえば「ダイバーシティの推進のために、何ができるか?」を現場レベルで考えた時に、その1つが「感謝と称賛」ではないだろうか、と著者は考えました。
そしてそれらのインパクトを、明確に示すことを行ったのが、本書になります。

◯「感謝と称賛」の定義
次に、「感謝と称賛」という言葉ですが、研究ですので、明確に定義をしておきたいということで、本書では以下のように述べています。

***
【「感謝」とは】
自分が誰かから恩恵を受けた際に、相手に対して自分がありがたいという気持ちを表現することを指す。より具体的に言えば、様々な言葉や手段を通じて「ありがとう」と伝えることである。

【「称賛」とは】
このような恩恵の授受の場面に限らず、誰かが卓越した、または期待を超えた成果を発揮した際などにそれを率直に認め、「ほめる」ことである。

正木(2024)『感謝と称賛 人と組織をつなぐ関係性の科学』,東京大学出版会 P,8
***

なるほど、言われてみればそのとおりですが、より概念が明確になる感じがしますね。(研究上のもう少し堅い言い方もありますが、割愛します)

■「感謝」の3つの視点

さて、感謝に関する、心理学の研究は様々な観点があります。
その中で興味深かったのが、「感謝には3つの研究上の視点がある」ことが指摘されています。内容は以下のとおりです。

***
1)感謝の「感情」:今特定の出来事に対して感謝を感じているか
2)感謝の「特性」:感謝を感じやすい性格かどうか
3)感謝の「行動」:感謝を表明すること・感謝を受けること
***

たとえば、「感謝を喚起する経験(例:助け合い)」があった場合でも、それに対して、「感謝を感じるか(感情)」は「感謝を感じやすい性格(特性)」が影響しています。
ちなみに、感謝の感情を感じたほうが「感謝を伝える(行動)」に繋がりやすくなるでしょう。
あるいは、感謝の気持ちを感じていなくても、「とりあえずありがとうと言っておく」というのもあるでしょう。

それらの「感情」「特性」「行動」の関係を模式化したのが、図として紹介されていました。

ちなみに本書においては、「著者の組織における課題意識(コミュニケーションの減少)」、「集団への波及効果がある」、「感謝行動はスキルとして習得可能」の3つの理由から、「感謝行動」に注目した研究を主に紹介されています。

■「感謝」がもたらすもの(先行研究より)

さて「感謝」についての実証研究は、2000年代初頭より盛んに行われるようになりました。そして、先行研究より、感謝の感情や行動には、以下の3点の機能があるとされています。

――――――――――――――――――――――
<「感謝」がもたらす3つの効果>
1,人のウェルビーイング(幸福感)の向上につながる
2,利他性や助け合いを促す
3,人と人の関係性やつながりを円滑にする
(Locklear et al, 2023; McCullough et al., 2008; 山本・樋口, 2020)
――――――――――――――――――――――

もう少し具体的にお伝えすると、感謝の表明・受領・第三者への影響として、以下のような研究があります。

まず、「感謝の表明(伝えること)」に関する研究は、

・「拡張-形成理論」:ポジティブ感情が思考と行動の幅を拡張する
・感謝の感情や特性が「スキーマ(物事を見るメガネ)」として働き、ポジティブに捉えるように人を促す

などがあります。

また、「感謝の受領(受け取ること)」に関する研究では、

・「find, remind, and bind 理論」として、感謝は良い関係を築けるパートナーを見つけ出す(find)、既存の対人関係の中から再認させ(remind)、相手との関係を強固にする(bind)機能がある
・感謝を受けることによって、「自己効力感」や「自身の社会的価値を確認する」ことに繋がる

などがあります。

そして最後に、「感謝の第三者への影響」として、

・「アップストリーム互恵性(≒恩送り)」:感謝行動を目撃していた人に対しても、向社会行動の効果が広がる効果がある
・「情動伝染(emotional contagion)」:職場において、ポジティブな感情が上司や部下の間で伝染する

などがこれまでにわかっています。

■まとめ

2000年代初頭から、ポジティブ心理学によって、こうした前向きな感情が研究され始めた流れがありましたが、「感謝」もその一つのようにも感じます。そして、大きくお伝えすると、感謝がもたらすものは

1,人のウェルビーイング(幸福感)の向上につながる
2,利他性や助け合いを促す
3,人と人の関係性やつながりを円滑にする

ということであり、本書はこの内容をより深く掘り下げたものとなります。

強みのVIAアセスメントでも、人が持つ徳性の一つに「感謝」という強みがありますし、「感謝」の強みは文化を超えて、幸福度に影響を与えるとありましたが、それをより広範囲の研究から解き明かす書籍で、先を読むのが大変楽しみになりました。

こうした一つの研究を掘り下げていただけている著者の方に改めて感謝でございます。また続きも、これから紐解いて参りたいと思います。

最後までお読み頂き、ありがとうございました!

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