メールマガジン バックナンバー

3878号 2024年10月7日

理論は「追試」することで、洗練されていく ~読書レビュー『ジョブ・クラフティング』#8~

(本日のお話 2999文字/読了時間4分)

■こんにちは。紀藤です。

昨日日曜日は、読書とランニング15km。
また、家族で葛西臨海公園へいきました。

また、今月末に通っている「出版ゼミ」の発表がありますが、絶賛迷い中。
商業出版の世界の現実と、自分が出版をしようと考えたそもそもの理由の間で、一旦やめようかな・・・という気持ちも湧き上がっているこの頃です。

いずれにせよ、もう少し考えてみようと思います。



さて、本日のお話です。
本日も著書『ジョブ・クラフティング』について、読書レビューをお届けいたします。

本日は「第8章 ジョブ・クラフティングの先行要因とその効果」についてです。
この章では、海外で行われた有名なジョブ・クラフティングの2つの実証結果が、日本でも同じような結果になるのかを「追試研究」して、その理論の有益さを確認しよう、という内容です。

この「追試研究」という考えが、実に面白い内容でした。
ということで早速内容をみてまいりましょう!

■「追試研究」とは何か

「追試研究」とは、”既存研究の結果を裏付けたり、反証したりするために、意図的に先行研究を繰り返し実施すること”(Wright&Sweeney, 2016)のことです。

科学における学術研究の目的の一つが、「有用な理論を構築すること」とされています。

ちなみに、「理論とは何か」について、そして「追試研究がなぜ必要なのか」について、以下のように説明されています。以下引用いたします。

―――――――――――――――――――――――――――――――
理論とは”特定の現象を、記述・説明・予測し、究極的には統制することを可能にするものであり、完成された理論には「What」「how」「why」「who,where,when」の4要素が含まれている”(Gligor, Esmark, アンドGolgeci.2016)。

優れた理論とは、ある現象あるいは概念や変数間の関係が(what)、どうなっているのか(how)、なぜそうなるのか(why)を説明する。さらに、いつ、どこで、誰にとって(who, where, when)その理論が成り立つのかを、理論成立の境界範囲を明確にする。

そのため、優れた理論を完成させるためには、特定の理論がどこまで汎用性があるのか、研究が行われた地域や状況とは異なる文脈においても再現性があるのかないのかについて検証することが求められる。

再現性の検証が繰り返され、理論の適用範囲が明確になるほど、その理論は実務的にも有益なものになっていく。その意味においても、追試研究によって理論の再現性を確認することは、科学において本質的な営みと言える。
P170-171
―――――――――――――――――――――――――――――――

なるほど・・・、めちゃくちゃ納得しました。

確かに、海外である特定の対象者に対して行われた研究が、国や文化、あるいは対象者の年齢などの条件を変えたときに、「その理論が適用されるのかどうか」という汎用性を確かめることで、理論の信頼性、有益性はより高まるというのは、よくわかります。

一方、社会科学の分野では、追試研究は少ないと言われているそう(全論文の1%程度しか再現性の検証がされていない)で、
その理由の一つに、「トップジャーナルに論文が掲載されることが研究者のキャリアにおいて重要(そして、追試研究よりも新規性が高い研究がトップジャーナルは好まれる)」から、とのこと。

そんな理由もあるのか・・・と、研究の世界を垣間見るような研究の背景でした。
とはいえ、ジョブ・クラフティングの研究は、とはいえ比較的新しい研究(2010年から本格化)であり、追認研究を行うことは価値があることなのだと思います。

■研究の再現性の検討

さて、ではどのような追試研究をしたのか。
ここではBakker et al(2012)の研究(Google Scholarで引用1365件)と、Demerouti et al(2015)の研究(Google Scholarで引用489件)の内容に注目し、実施をしています。以下、詳細を見ていきます。



◯Bakker et al(2012)の理論

Bakkerらは、ジョブ・クラフティングの選考要因として、「プロアクティブ・パーソナリティ特性(以下、PP特性、環境の変化をもたらす性格特性)」に着目しました。PP特性の高い従業員は、ジョブ・クラフティングを積極的に行うという仮説を立てました。

そして、PP特性の高い従業員がジョブ・クラフティング(JC)を実践し、構造的資源・社会的資源・挑戦的要求度が増加をすると、従業員のワーク・エンゲイジメント(WE)が高められ、それが役割内職務行動につながると考えました。

そして、Bakkerらの実証結果では、「PP特性」による「間接効果と直接効果」の両方があるモデルの適合性が高いことがわかりました。
(※「間接効果」とはPP特性→JC→WE→役割内職務行動、「直接効果」とはPP特性→役割内職務行動、のモデルを意味します)

◯日本における追試結果

上記の理論について、日本の564名を対象に追試研究をした結果、「Bakkerの理論枠組みと概ね整合性のある結果が得られた」ことがわかりました。

違いとしては、日本での追試研究では、「PP特性が役割内職務行動に与える直接効果は見られなかった」という結果になりましたが、基本は間接効果をメイン仮説としているため、概ね整合性がある結果となりました。



◯Demerouti et al.(2015)の理論

次に注目した研究が、「ジョブ・クラフティングが、ワーク・エンゲイジメントおよび持続的幸福に影響をあたえ、クリエイティビティと文脈パフォーマンスを高める」としたDemeroutiらの理論です。

注目ポイントは、ジョブ・クラフティングが、従業員行動の「クリエイティビティ」と「文脈パフォーマンス」を高めるという点です。

ちなみに、「クリエイティビティ」とは”新しく有用な考えを生み出すことや、問題の解決策を思いつくこと”であり、「文脈パフォーマンス」とはいわゆる”他のメンバーの支援や雰囲気づくりなどの役割外行動”に相当するものです。

Demeroutiらの実証結果では、特にジョブ・クラフティングの「構造的資源向上」が「ワーク・エンゲイジメント」と「持続的幸福感」を高め、ジョブ・クラフティングの「妨害要求度の低減」がワーク・エンゲイジメントを低下させることがわかりました。
そして、「ワーク・エンゲイジメント」は「クリエイティビティ」と「文脈パフォーマンス」を高め、「持続的幸福感」は「クリエイティビティ」を高めるという結果になりました。

◯日本における追試結果

こちらの理論について、日本での214名へのサンプルに対して追試を行いました。その結果「Demeroutiらの理論枠組みを概ね支持する結果となった」となりました。

違っていた点は、成果変数に影響を与える、ジョブ・クラフティングの種類が違っていた、ということです。具体的には、ジョブ・クラフティングの「挑戦的要求度向上」がワーク・エンゲイジメントと生活充実感(持続的幸福感)に影響を与えていました。

■まとめと個人的感想

今回の章を読みながら、「理論における追試研究の重要性」を学びました。
しばしば、「これってアメリカだから言えるんじゃないですかね?」というツッコミを研修などでも質問されることがあります。

このような質問は最も疑問であり、「理論が適用される境界範囲」というのは、あくまでもその論文における文脈となります。

しかし、それを日本でもアメリカでもアフリカでもインドでも同じように追試をして、同じような結果がでるとしたら、その理論はより汎用性が高く、実務にも役立つ理論と言えるのでしょう。

こうした視点の研究があること、そして実は社会科学の分野では、追試研究がされづらいという背景も理解できて、興味深い内容でした。

最後までお読み頂き、ありがとうございました!

※本日のメルマガは「note」にも、図表付きでより詳しく掲載しています。よろしければぜひご覧ください。

<noteの記事はこちら>

365日日刊。学びと挑戦をするみなさまに、背中を押すメルマガお届け中。

  • 人材育成に関する情報
  • 参考になる本のご紹介
  • 人事交流会などのイベント案内

メルマガを登録する

キーワードから探す
カテゴリーから探す
配信月から探す