「感謝日記」をつけると、幸福感が高まり、健康状態までよくなる?! ー引用数5900超えの名論文が示す驚きの効果ー
(本日のお話 3548文字/読了時間7分)
■こんにちは。紀藤です。
昨日は、午前中、意図的変革理論と呼ばれる新しいコーチングのトレーニング(受ける方)、また夕方からは出版ゼミの、最終プレゼンの前夜祭とのことでした。
3ヶ月間かけてつくりあげてきた出版企画を、
様々な出版社の編集者の皆さま前でプレゼンをするという場がこの土日にありますが、
このプレゼンによって、出版への道がつながるかどうかが変わってきます。
どうなるのか、ドキドキです。
また、ご報告いたします。
*
さて、本日のお話です。
本日は、ポジティブ心理学に関連する論文をご紹介をいたします。
今日ご紹介の論文は、とても有名な「感謝日記」についてです。
「感謝をすると、幸福度や健康状態が向上する」ことを示した研究ですが、引用数はなんと5900を超えています。ポジティブ心理学の研究や、幸福度を高める介入研究でも、私もよく見かけてきました。
では実際に、どんな研究が行われてきたのでしょうか?
今日は、その有名論文を、読み解いていきたいと思います。
読んでみて、「感謝日記、めっちゃすごいやん・・・!」と思いました。
それでは、早速まいりましょう!
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<目次>
・今回の論文
・30秒でわかる本論文の概要
・「感謝」の歴史と定義
・感謝は「人間の美徳」である?
・感謝ってそもそもなんだ?
・「感謝の効果」を実証研究プロセス
研究概要と対象
測定尺度
分析方法
参加者への介入方法
・結果わかったこと
わかったこと1:感謝条件のグループは、「感謝の気持ち」を最も感じていた
わかったこと2:感謝条件のグループは、「全体的な幸福感」が高く、身体症状は低く、運動時間は長かった
わかったこと3:「毎日の感謝」をしたほうが、「感謝の感情」高まる
・まとめと個人的感想
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<今回の論文>
Counting Blessings Versus Burdens: An Experimental Investigation of Gratitude and Subjective Well-Being in Daily Life(感謝と主観的幸福感に関する実験的研究:日常生活における恩恵と負担の比較)
Robert A. Emmons, Michael E. McCullough
Journal of Personality and Social Psychology, 2003
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■30秒でわかる本論文の概要
本研究では、感謝の気持ちが、心理的・身体的な健康に及ぼす影響を調査しました。
行った研究は3つです。参加者はランダムに、「感謝」「困難な出来事」「中立的な出来事」に焦点を当てる条件に割り当てられ、週次、または日次で気分、健康、対処行動に関する記録をつけました。
その結果、「感謝」の条件に置かれた参加者は、他の条件に比べて高い幸福感を示しました。特に、ポジティブな感情の向上が見られました。
という内容です。
「感謝」をすることが、様々なメリットがあることを示した、最初の研究と思われます。より詳しく見ていきましょう。
■「感謝」の歴史と定義
◯感謝は「人間の美徳」である?
「感謝をする」ことは、よいことと考えられていることは、多くの人にとって否定することではないと思います。
本論文は2003年でしたが、この当時から、数々の著書が「感謝をすることで、心が平和になる、幸福になる、健康になる、良い人間関係が築ける」などと、述べられてきました。
その歴史を、遡ると、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教、仏教、ヒンズー教において、「感謝は人間の美徳である」と評価されてきています。(VIAの性格の強みの分類の中に「感謝」というカテゴリーが存在していますね)
◯感謝ってそもそもなんだ?
「感謝をする」といっても、その対象は多岐にわたります。
まず感謝の定義をある論文から引用すると、「利得の見積もりと、その利得は他の誰かに責任があるという判断とが結びついたもの(Solomon, 1977)」と述べられることもあります。なんだかむずいですね。
シンプルに言えば、「おかげさま」ということでしょうか。
いいことがあった、でもこれって自分以外の誰かのおかげだよね、と思う気持ちが「感謝」といえるのかもしれません。
そして「感謝」する相手も、自分に直接メリットをもたらしてくれた実存する他者が対象となる場合もあれば、人間以外のもの(自然、宇宙、動物、神)などが対象となる場合もあります。
感謝は非常に広範な概念のようです。
■「感謝の効果」を実証研究プロセス
さて、そのように重要な行動とみなされる「感謝」ですが、実際に、”本当に”、心理的、身体的にメリットをもたらすのか? 今回の論文で、そのことを検証することとしました。
具体的には、以下のような形で、調査を行いました。
◯研究概要と対象
・3つの研究を実施。
・第1研究では大学生が対象。「週次」で感謝リストの作成を行い、9週間での影響を測定した。
・第2研究でも大学生が対象。「日次」で感謝リストの作成を行った。13日間での影響を測定した。
・第3研究では、神経筋疾患を持つ成人が対象。感謝リストと対照条件が比較された。
◯「測定尺度
参加者には、参加者には、気分、身体症状、対処行動等に関するデータを記録し、報告させました。
1)気分(ポジティブ/ネガティブ): Positive and Negative Affect【Watson, Clark, & Tellegen, 1988】
2)身体症状: Self-Reported Physical Symptoms【Elliot & Sheldon, 1998; Pennebaker, 1982】
3)対処行動: Coping Reactions【独自作成項目】
4)社会的支援に対する反応: Reactions to Social Support【独自作成項目】
5)全般の幸福感(人生全体/翌週): Life as a Whole & Expectations for the Upcoming Week【Andrews & Withey, 1976】
◯分析方法
主に「感謝の感情」や、「気分」「身体症状」などの上記測定尺度を従属変数としました。それに対して、「感謝条件」「苦労」「出来事」を独立変数とし、分散分析を行い、グループ間で比較をしました。
◯参加者への介入方法
「感謝条件」「困難条件」「出来事条件」のそれぞれの参加者に、以下の3つの指示を行い、日次・または週次で振り返りを行ってもらいました。
●感謝条件:
「私たちの生活には大小様々なものがあり、それに感謝できるかもしれません。過去1週間を振り返り、感謝している、もしくは感謝すべき5つのことを下の行に書いてください。」
●困難条件:
「困難とはイライラするもの、すなわちあなたを悩ませたり不快にさせたりすることです。困難は人間関係、仕事、学校、住居、財政、健康など、様々な領域で発生します。今日を振り返り、あなたの生活で起こった困難を5つまで下の行にリストアップしてください。」
●出来事条件:
「過去1週間にあなたに影響を与えた出来事や状況にはどのようなものがありましたか?過去1週間を振り返り、あなたに影響を与えた出来事を5つまで下の行に書いてください。」
■結果わかったこと
では、上記の研究を行った結果、それぞれどんなことがわかったことのでしょうか。以下、まとめます。
◯わかったこと1:感謝条件のグループは、「感謝の気持ち」を最も感じていた
まず、研究1からわかったこととして、「感謝条件」のグループが、9週間の平均の「感謝の感情(感謝している、ありがたく感じるなど)」がもっとも高いスコアとなっていました。
◯わかったこと2:感謝条件のグループは、「全体的な幸福感」が高く、身体症状は低く、運動時間は長かった
こちらも研究1の結果ですが、感謝条件のグループは、他のグループと比較して、人生全体の幸福感、翌週の幸福感が高く、身体症状は少なく、通勤時間は高い結果となりました。
◯わかったこと3:「毎日の感謝」をしたほうが、「感謝の感情」が高まる
さて、研究2(Study2)では13日間毎日実施をしました(研究1では9週間で、毎週行う形でした)。
その結果、感謝条件と苦労条件の標準平均値の差は、研究1(d = 0.56)よりも研究2(d = 0.88 )の方がかなり大きいものとなりました。
このことは、 研究2で完了した課題「毎日の感謝」は、週単位の感謝の課題よりも、感謝の促進および抑制においてより強力であったことを示唆しています。
■まとめと個人的感想
「感謝日記」を通じて、感謝の感情が高まるだけではなく、「運動時間」や「身体症状」にも影響があるというのは、驚きであり、説得力を持つものでした。
本記事では詳しく触れませんでしたが、研究3では神経筋疾患を持つ成人(平均年齢49歳)に、21日間の感謝日記を行った結果、ポジティブ感情が高まり、ネガティブ感情が減少し、睡眠の質と量が向上する結果になっています。
他にも、たとえば、シャーデンフロイデ(他者の不幸を喜ぶ感覚)とも呼ばれる「社会比較実験(自分のほうが他者にないものをもっている)」という条件群と比べても、「感謝条件」のほうが、ポジティブ感情が強かったことからも、感謝日記の効果を感じます。
こうしたデータを読み解くと、よりやってみよう!と思う気持ちが高まりますし、実益につながる研究だと感じた次第です。
最後までお読み頂き、ありがとうございました!
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