気づかれない嘘は自分を苦しめる ーハーバード・ビジネス・レビュー記事よりー
(本日のお話 2303字/読了時間4分)
■こんにちは。紀藤です。
昨日は、終日、新入社員向けの「プロアクティブ行動研修」の実施でした。
相変わらずの元気さで54名の人に対峙をする難しさも感じつつ、実践させていただきましたが、無事に終えられてホッとした次第。
また大学院の仲間にサポートに入ってもらいましたが、程よい緊張感とともに、とても心強く、また自分のファシリテーションやプログラムも振り返る機会になりました。
他者と一緒にやること、もっと増やしていきたいな、と思います。
また夜は10kmのランニングでした。
*
さて、本日のお話です。
本日は、ハーバード・ビジネス・レビュー2024年2月号の記事『気づかれない嘘は自分を苦しめる』で紹介されていた論文について、ご紹介いたします。
「嘘をつくことは短期的にメリットがあるようでも、総合的には自分にとってもマイナスである」という『正直さ』の重要性を教えてくれる論文でした。ということで、早速参りましょう!
■「犬なんて飼ってないよ」
もう10数年前の話になりますが、私が20代の頃、営業を始めたばかりのときに、印象深い出来事がありました。
当時「先輩と営業同行に行く」という場面がありました。営業のやり方がわからない新人が、先輩が飛び込み営業するところについていき、その方法を見て学ぶというものです。
時代が割と荒々しい時でしたので、「飛び込み営業」(急に訪問して「名刺交換してください!」という)とか、「ビル倒し」(ビルの上から階段で順番に飛び込み営業をして下に降りていく)みたいなのが普通でした。
まあ、ほとんどの場合、どこの誰かもわからない人が仕事中にきたら、うざいわけで、当然断られます。
その際にありとあらゆる方法を駆使して、名刺を獲得するのが、一つのミッションになっていました。
そんなある日のこと、先輩と飲食店に飛び込み訪問をしたときがありました。そこには「犬のポスター」が張ってありました。
一緒にいた先輩が「店長、犬お好きなんですか?」と雑談交じりに一言。
「うん、まあね。犬飼ってるよ」と店長。すると、先輩はすかさず「へー!うちも飼っているですよ!何飼っているんですか?」と話に花を咲かせていました。
さて、そのお店を後にした後、先輩に聞きました。
「先輩って、犬飼っているんですねー。何飼ってるんですか?」
すると、先輩。
「え、あれは嘘だよ。犬なんて飼ってないよ。話し合わせようと思って」
・・・とのこと。
そのとき、胸の奥でモヤモヤしたことを覚えています。
たしかに、話の取っ掛かりはほしいのはわかる。名刺もらいたいし。。。
でも、その店長と二回目に会ったときどうするのだろう、そもそも覚えているのだろうか、その嘘貫き通せるのだろうか・・・。そんなことを新人ながら考えて、悶々としたのでした。
■交渉の場で相手を欺くとどうなるか
さて、そこで本題となりますが、論文において「嘘をつくことは、正直であるよりも有利な取引ができるかもしれないが、総合的には自分にとってマイナスになる」ことを示した実証研究の結果が示されていました。
◎今回の論文
『Does Hoodwinking Others Pay? The Psychological and Relational Consequences of Undetected Negotiator Deception』(他人を欺くことは得策か?未発覚の交渉者の欺瞞が与える心理的および関係的影響)
著者:Alex B. Van Zant、Laura J. Krayら
ジャーナル:Journal of Personality and Social Psychology: Interpersonal Relations and Group Processes, 2022
◎1分でわかる論文の内容
ざっくりお伝えすると、こんな研究内容です。
・研究者らは数千人を被験者とする4つの実験を行った。研究の目的は、さまざまな交渉において、「よい結果を得た喜び」と「そのために不正な手段を使ったことへの罪悪感」のどちらの感情が大きいか調べるものである。
・最初の実験では、被験者982名が、買い手と売り手でペアになり、「欠陥のある中古PCの価格交渉」を行った。買い手の半数は「事前に欠陥があることを知っている群」で、もう半分は「欠陥があることを知らない」群」に分けられた。
・その上で、売り手が最良の取引になるように、好きなことを話すように指示された。高値で取引できた場合は、多額のインセンティブが提供された。
・実験の結果、「買い手がPCに欠陥があると知らない群」に対する売り手は、246人中181人が欠陥を隠していた。その後、「ポジティブな感情」「罪悪感」「交渉の満足感」を被験者たちに回答してもらった。
・分析をしたところ、「真実を伝えた売り手」と「嘘を付くことがなかった売り手(買い手が欠陥があることを知っていた群)」に比べて、「嘘をついた売り手」は、「交渉の満足感」が低かった。またインセンティブが大きいほど、「罪悪感」が大きくなっていた。
という内容です。
■まとめと感想
人間の持つ「性格の強み」の中でも、「誠実さ(正直さ)」という”美徳”が示されています。
嘘をつくことで、罪悪感が高まり、ポジティブな感情も低減する、しかも自分にメリットが大きいほど、その気持ちが大きくなる傾向が強くなるというのは、人が元来保持している美徳に反するからなのかもしれない、などとも思いました。
記事では、以下のようにまとめています。
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嘘をついた被験者は他の被験者よりも、同じ相手ともう一度交渉したいと思う傾向が低く、交渉時の満足度も低かった。
「不誠実の代償を背負って生きるのは、不誠実がもたらすメリットを断念するよりも心理的に困難かもしれない」と研究者らは結論づけている。
引用:『気づかれない嘘は自分を苦しめる』ハーバード・ビジネス・レビュー2024年2月号,P6
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つい、短期的なメリットに目が向くことは誰しもがあると思いますが、ばれる・ばれないではなく、自分の気持ちの上でも、誠実である・正直であるというのは大事なことなんだな、と考えさせられた次第です。
最後までお読み頂き、ありがとうございました!
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