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3951号 2024年12月19日

「正しいと感じること vs 本当に正しいこと」どちらの情報を私たちは選ぶのか?

(本日のお話 2665字/読了時間4分)

■こんにちは。紀藤です。

昨日は、終日オンラインでの「チームビルディング研修」の実施でした。
ご参加いただきました皆様、ありがとうございました!



さて、本日のお話です。

本日は、論文の学びの紹介です。

論文のテーマは「自分が正しいと感じること vs 本当に正しいこと:どちらの情報を私たちは選ぶのか?」について8000人に調査をした研究です。

結論からすると、私たちは「本当に正しいことではなく、自分が正しいと思うことの情報の選択する傾向がある」という、興味深い結果のものでした。

さて、性格の強みの研究には『知的柔軟性/批判的思考力』と分類される強みがあります。そんな強みを育てるためのヒントともなる論文だと感じ、実践に役立つ示唆がたくさんある論文でした。

ということで、詳しく見てまいりましょう!

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<今回の論文>
・タイトル:Feeling Validated Versus Being Correct: A Meta-Analysis of Selective Exposure to Information(正当化されることと正確であることの違い: 情報選択性へのメタ分析)
・著者:William Hart, Lisa Merrill
・ジャーナル:Psychological Bulletin, 2009年7月
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■1分でわかる本論文のポイント

・人は、自分の考えや信じていることを守りたいとき、自分の考えを裏付ける情報を選びがちです。このことを「整合性バイアス」といいます。

・一方で、人は正しいことを知りたいという気持ちも持っています。この2つの気持ちが、情報を選ぶ行動にどのように影響するのかが、この研究のテーマです。

・研究方法は、過去の91の研究をレビューし、8000人近くのデータから検証しました。その結果、人間には自分と似た考えを支持する情報を選ぶ「整合性バイアス」という傾向があることを発見しました。その強さは中程度(d=0.36)でした。

・ちなみに「整合性バイアス」が強まるのは、1)確信が低い場合、2)閉鎖的な性格、3)自分の価値観に関係する場合に現れる傾向がありました。

とのこと。

サンタクロースを信じたい子ども、投資で判断を見誤る投資家、陰謀論を信じる人々・・・。正しいことでなく信じたいものを信じる人はたくさんいます。

そして、8000人の大規模データから「人は本当に正しいことよりも、正しいと思いたい情報を選ぶ傾向がある」とわかったというのは、納得できますし、興味深い結果です。

■研究の概要

では本研究はどのように調査されたのか、その方法と結果についてざっくりまとめます。

◎方法(Method)

・どんな研究を使ったか:
過去に行われた91の研究を集めて分析しました。合計で8,000人近くのデータを使っています。

・どんな方法で調べたか:
人が「自分の考えを支持する情報」と「それに反対する情報」のどちらを選ぶかを実験や調査で調べました。そして、その選び方にどんな要因が影響しているかを分析しました。

◎結果(Result)
では、研究の結果、どのようなことがわかったのでしょうか。以下3つのポイントがあります。

(1)「整合性バイアス」の大きさ:
・人は自分の考えを支持する情報を選ぶ傾向があり、その強さは中程度(d = 0.36)でした。

(2)「整合性バイアスが強まる要因」について:
・パターン1_確信が低い場合: 自分の考えに自信がないとき、整合性バイアスが強くなりました。
・パターン2_閉鎖的な性格である: 新しい意見を受け入れにくい人は、整合性バイアスが強い傾向がありました
・パターン3_価値観に関係する場合: 自分の大切な価値観に関わる情報では、整合性バイアスが強まりました。

(3)「整合性バイアスが弱まる要因」について:
・パターン1_目標に役立つ情報がある: 目標を達成するために必要な情報が、自分の考えと反対する場合、そちらを選ぶ傾向がありました。
・パターン2_閉鎖的な態度を緩和する環境:新しい意見を柔軟に受け入れられる環境(例:開放的なディスカッション、安全な対話の場)により、整合性バイアスを和らげる事ができます。

■示唆と応用

以下、論文からの示唆と、それらを応用する方法についてのまとめです。

◎論文からの示唆
(1)人間には「整合性バイアス」が存在している
人々は自分の信念や意見を守るため、自分に都合の良い情報を選ぶ傾向があります。これにより、新しい視点や反対意見に触れる機会が減少し、誤った認識が固定化される可能性があります。

(2)整合性バイアスの3つの調整要因
先述の改めてのまとめですが「整合性バイアス」は、以下3つの要因によって変化します。
1.信念への確信: 自分の信念に自信があると、反対意見を受け入れやすい。(自分の考えに自信がないと、整合性バイアスが強くなる)
2.価値関連性: トピックが個人の価値観に深く結びつくほど、整合性バイアスが強まる。
3.情報の質: 反対意見であっても情報の質が高い場合、選ばれる可能性が高まる。

◎論文の応用
では、本論文を実践にどう活かすことができるのでしょうか。私なりの解釈も含めてまとめます。

(1)「批判的思考」を育成する:
「整合性バイアス」について教える。そのことで、自分の情報選択の癖を意識し、バランスの取れた視点を持つことができるようになる。(例: 学生に複数の異なる視点を持つ記事を読ませ、それぞれの強みや欠点を議論させる)

(2)「異なる意見を持つ人」とディスカッションをする:
異なる意見を持つグループでディスカッションを行うことで、新しい視点に触れる機会を提供し、情報選択行動の改善を促すことができる。

(3)「悪魔の代弁者」を設ける:
大きなプロジェクトや方針決定で、反対意見を考慮することで、より包括的で正確な判断を促す。(例: 会議で「悪魔の代弁者(反対意見担当者)」を配置し、あえて異なる視点を提示する役割を与える)

■まとめと感想
本研究は、過去の91の研究、8000人以上のデータを用いており、信頼性が高い研究と言えそうです。

そんな研究でわかったことは、「そもそも人間には、自分の考えを守りたい傾向(整合性バイアス)が存在している」ということ。

これは読みながら、「うわー、自分まさにそうやん・・・」と反省してしまいました。しばしば、「金槌を持っていると、全部クギにみえる」と言われたりします。人材開発・組織開発をしていると、なんでもソフト面のアプローチにしがち(対話が大事)となることもありますが、それも「整合性バイアス」なんじゃないか、一歩距離を置くことも大事なのだなあ、、、と思いました。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

※本日のメルマガは「note」にも、図表付きでより詳しく掲載しています。よろしければぜひご覧ください。

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