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3968号 2025年1月5日

おすすめの一冊『科学的根拠(エビデンス)で子育て 教育経済学の最前線』

(本日のお話 3415文字/読了時間5分)

■こんにちは。紀藤です。

昨日は10kmのランニング。
また家族での外出などでした。

さて、毎週日曜日は、おすすめの一冊をご紹介する「今週の一冊」のコーナーです。
今週の一冊はこちらです。

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<おすすめの一冊>

『科学的根拠(エビデンス)で子育て 教育経済学の最前線』

中室牧子 (著)
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子どもを持つ父としても、めちゃくちゃ興味深く、子育ての方向性のヒントになるような示唆深いデータが豊富な一冊でした。

ということで、早速見てまいりましょう!

■本書の特徴

著者は、慶應義塾大学総合政策学部教授であり、『学力の経済学』で知られることとなった教育専門家でもある中室牧子氏。

そんな中室氏が、その世界的な学術論文を渉猟し、何名もの実践者の意見も聞きながらまとめた珠玉の情報が本書です。面白くないわけがありません・・・!

色々な本屋で平積みにされているのを見かけており、気になって読んだところ、期待を超える内容で、めちゃくちゃ勉強になりました。

以下、特に印象的だったことをご紹介したいと思います。

どんな教育が「効く」のか?
まず、本書の前半では「どのような教育を提供すると、子どもの将来に役立つのか」について振られています。

具体的には「子どもの頃に何をすると、将来の年収が高くなるのか?」です。結論を言ってしまうと、以下の3つがポイントだそうです。

――――――――――――――――――――――――――――
<将来の年収を上げるために、子どもの頃にやっておくべきことベスト3>
1.スポーツをする
2.リーダーになる(リーダーシップのスキルを獲得する)
3.非認知能力を高める(忍耐力・自制心・やり抜く力)
――――――――――――――――――――――――――――

◎1.スポーツをする

まず、「1.スポーツをする」についてです。
研究によると、高校生がスポーツの課外活動をしていた場合、11~13年後の収入が、4.2~14.8%も高かったそうです(アメリカの研究)。

この理由としては、第一に「採用に有利になる」からです。
研究によると、「スポーツ経験がある」と書かれた履歴書を見ると、面接に呼ばれる確率が高くなるそうです。印象として、スポーツに取り組んできた人のほうが、体力やチームワークを含めて、鍛えられている印象があるのでしょう。
第二に「忍耐力やリーダーシップが身につく」ことも挙げられます。
後ほど出てきますが、非認知能力が将来の年収に大きな影響を与えることがわかっていますが、スポーツを通じて、忍耐力、リーダーシップ、責任感、社会性が身につくと考えられます。

他にも、スポーツをすると欠席が減る、自尊心が高まる、学力も高めるなど様々な良いことがあるとわかっています。また、スポーツをしたからといって学業が疎かになるという心配も、大学を除いてはあまりないようです。

◎2.リーダーになる

次に、リーダーになることも将来の年収を高めます。
高校時代にリーダーシップを発揮した経験がある人(運動部のキャプテン)は、そうした経験のない人に比べると、高校を卒業して11年後の収入が4~33%も高くなることが示されたそうです。

この理由も、スポーツ同様、「リーダー経験があることが採用で有利になる」事が挙げられます。またリーダーになると、勉強に対する意欲や自主性が高まり、学力や学歴も高くなること、他にリーダーシップ経験は「社会性」とも強い関係があり、ここもプラスに働くようです。

ちなみに、リーダーシップは才能ではなく、その経験をより多く積むことで獲得できる「スキル」であるということも発見されています。

(※余談ですが、まさに現在関わらせていただいている、立教大学 経営学部のビジネスリーダーシップ・プログラムは、そのようなスキルを高める素晴らしいプログラムだと感じます)

◎3.非認知能力を鍛える

能力には、認知能力(学力テストで測る内容)と、非認知能力(協調性、忍耐力・やり抜く力など)があります。

「勉強だけで来ても役に立たない」等と言われますが、実はこのような言葉が正しいことが多くのデータで証明されています。それが、非認知能力であるコミュニケーション力、主体性、協調性などです。

この非認知能力は、特に「所得分布の下位10 %の人々」(収入に2.5~4倍の影響)と、「40~60歳の中年期」に収入に大きな影響があることがわかっています。特に、「勤勉性」と「外向性」の影響が大きいそうです。

その他にも、非認知能力は結婚、年収、寿命など多くの結果に関連しています。また、非認知能力を幼少期に身につけることで、後の学力を高める(特に10代後半から伸びる)などもわかっており、幼児期からの非認知能力の教育も重要であるとのことでした。

ちなみに、将来の年収に相関がある非認知能力は、以下の3つです。

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<将来の収入を上げる3つの非認知能力>
1.忍耐力(成績、貯蓄、健康が良い傾向がある)
2.自制心(借金、病気、薬物依存と負の関連)
3.やり抜く力(仕事や結婚生活を定着させやすい)
―――――――――――――――――――――――――――――

これらの非認知能力は先述の「スポーツ」や「リーダーシップ経験」でも身につきますが、他にも「音楽や美術」を通じて伸ばすことができるという研究もあるようです。(高校まで音楽活動をしていた生徒は学校の成績が良い、勤勉性が高い、外向的、意欲的であるなど)

■教育の投資収益率は8%、15年後に現れる

それだけでなく後半では、幼児教育の質の測定の仕方や、保険料の引き下げによって得られた影響など、社会的な施策についても語られています。

それによると、質の高い幼児教育を受けた子どもたちの将来の学歴、所得、生活の状況は、そうではない人と比べてより恵まれており、その「投資収益率(利回り)は約8%」と推計されたそうです。

過去50年間の株式市場における平均的な投資収益率が約5%であるため、株式投資よりも幼児教育のほうが割の良い投資といえるそうです。

▽▽▽

また他にも「日本の教育」に対して、私たちがどのように考え、どのようなパラダイム・シフトが求められているのかも触れられています。

というのも、現在18歳以下の子どもがいる子育て世帯は、全体の18%まで減少しています。そして、60%が65歳以上の国民によって支出されている国民医療費の合計は45兆円。子どもの教育のために使われた文教および科学振興費の5兆円に対して、圧倒的な開きがあります。

多くの人が、「教育よりも、医療や介護を優先する」という選好をもっているそうで、それは致し方ないことなのかもしれません。

しかし、教育の効果は15年後の未来に対する投資です。それらが未来の我々に対して多くの利回りを生むということを、82%の子どもがいない世帯にどう納得してもらうか、が重要であると述べています。

重要性に目を開かせるような「教育の重要性に対するエビデンスに基づいた啓蒙活動」のようにも思わされ、うなづくばかりでした。

■まとめと感想

その他にも、教育にまつわる様々なデータが紹介されていました。
たとえば、以下のような話です。

・「どんな先生が非認知能力を高められるのか?」
→非認知能力を重要とする信念を持つ先生が重要

・「第一子と第二子はどちらのほうが有利なのか?」
→第一子のほうが有利。親が教育に時間を割くことができるため、第一子のほうが学歴が高い傾向がある。また、弟や妹の面倒を見るとで、非認知能力が鍛えられる可能性がある。

・「親は子育てに時間を割くべきなのか?」
→勉強&体験への時間投資は子どもが小さいときのほうが認知能力・非認知能力への影響が大きい。特に3歳時点の時間投資の効果はその後も持続する。7歳ではほとんどゼロになる

・「祖父母と過ごすことは子どもにどのような影響があるのか?」
→孫のコミュニケーション能力や言語発達の良い効果がある。また学力が高い傾向にある(一方、肥満になりやすくなる)

・「偏差値の高い学校にいれるべきなのか?」
→偏差値の高い学校に入れても、必ずしも学力が上がるとは限らない。(学力の低い人同士でグループを組ませたほうが、成績が良くなった)、「鶏口となるも牛後となるなかれ」は正しいと言える。

などなど。

どれも興味深い内容で、子育ての一つの指針を示してくれるようにも思いました。
また、エビデンスの取り扱い方の注意点(海外と日本では状況が違うため、必ずしも当てはまるとは限らない)や、そこからあくまでも参考にする事が大事であるというスタンスも伝えられていました。

物事を大げさに伝えたり、言い切ることもしておらず、著者の方の、データに対する誠実さを感じ、より納得度が高まり、また勉強になりました。オススメな一冊でございます。

最後までお読み頂き、ありがとうございました!

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