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3995号 2025年2月1日

傷つきたくないから、フィードバックは求めない。

(本日のお話 3537文字/読了時間5分)

■こんにちは。紀藤です。

昨日は、クライアント企業様の組織分析のフィードバックミーティングの実施でした。
分析をしながら、その背景にある様々な人達の想いや願いを感じ、つい感情移入をしてしまいます。

特にリーダーは、従業員からの耳が痛いことを引き受ける宿命のようなものがあると感じますが、
まさに昨日のそのようなことを感じる時間でした。



さて、本日のお話です。

今日はある論文の紹介をいたします。
テーマは「フィードバック探索(=フィードバックを求めること)」です。

フィードバック探索は、これまで数々の研究がなされてきました。そして、この論文は「フィードバック探索について過去20年の論文をまとめたレビュー論文」となっています。

論文では「フィードバック探索の3つの動機」「リーダーがフィードバック探索が難しい理由」など、フィードバックにまつわる知見がまとめられており、とても勉強になりました。

そして結局、人は傷つきたくないし、評価を下げたくないんだよなあ、としみじみ感じる論文でもありました。

ということで、早速中身を見てまいりましょう!

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<今回の論文>
タイトル:Reflections on the Looking Glass: A Review of Research on Feedback-Seeking Behavior in Organizations(鏡の中の自己省察:組織におけるフィードバック探索行動の研究レビュー)
著者:Susan J. Ashford、Don VandeWalle
ジャーナル:Journal of Management, 2003
所属機関:University of Michigan Business School, USA
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論文の要約はこちら(ChatGPTより)

■フィードバック探索の3つの動機

論文では「フィードバックを求める動機は3つある」と述べていました。それが以下の3つです。

―――――――――――――――――――――――――――――――――
<フィードバック探索の3つの動機>
1.目標を達成したい、成績を向上させたい(道具的動機)
2.自分の自我(エゴ)を守りたい・高めたい
3.自分のイメージを守りたい・高めたい
―――――――――――――――――――――――――――――――――

フィードバックは、たいへん有用です。

フィードバックは、どのように得られたとしても、目標達成を促進し(Ammons,1996)、パフォーマンスを高める(Fisher&Taylor, 1979)とわかっています。
「じゃあ、フィードバックをガンガン求めればいいじゃん?」となりそうですが、話はそう単純ではありません。

◎「そもそも成長したいか」問題

たとえば、1つ目の道具的動機の「そもそも目標を達成したいかどうか」という思いの強さも影響します。フィードバックで自分が成長した、能力が高まった、という経験がある人ほど、フィードバックを求めやすくなるでしょう。「成長したい!」と思う人はたくさんフィードバックを求める傾向もあることもわかっています。

しかし、逆を言えば、そうではない人(成長欲求がそんなに強くない人)は、強くフィードバックを求めようとしない、とも言えるかもしれません。

◎「傷つくのイヤなんです」問題

また、2つ目の「自我(エゴ)を守りたい・高めたい」という動機も、フィードバック探索を、より複雑にします。

フィードバックは、いうまでもなく「自分」に関する情報です。

そして、人は「自己イメージを傷つく情報を避けようとする」傾向があります。これは、「自分のエゴを守り、保護したいと思う」という自然な心理です。なので、「耳が痛いこと言われるだろうなあ」と思えば、傷つく可能性を想像し、人はフィードバックを回避する傾向にあります。

加えて興味深いのが、「個人が、自分で積極的に求めたフィードバックは、より無視しにくい」のです。自己認識理論によれば、「自分からもらいに行ったフィードバックの内容を、自ら否定するのは難しい(Bem, 1972)とされています。

そうすると、自尊心が高く、回復力がある人(つまり自信がある人)は、フィードバックを受け止めることができるかもしれませんが、自尊心が低い人にとっては、フィードバックは自己を揺るがす脅威にもなり得るわけです。

すると、「いいじゃんいいじゃん、フィードバック求めにいっちゃいなよ!」というのも、ちょっと乱暴と言えるかもしれません。探索が難しくなるわけです。

◎「自分のイメージ下げたくない」問題

あるいは、3つ目の「自己のイメージを守りたい」というのもあります。
フィードバックを求める行為が「自分の印象を悪くする」場合は、フィードバックを遠ざけることもあるそうです。

たとえば、「自分は有能かつ自信があると期待されている」というリーダーだったとき、フィードバック探索をする人は少なくなるそう。自分の評価や成績を明らかにしないことで、イメージが傷つくことを避けるそうです。

▽▽▽

・・・なるほど。フィードバックを求めることに関する、促進要因と阻害要因が綱引きをしているようす。やっぱり「プラスになるから、やればいいじゃん!」という単純な話ではないようです。

■フィードバック探索の5つのパターン

次に、フィードバック探索の要素についても、これまでの論文でまとめられていました。それが、「頻度・方法・タイミング・対象者・テーマ」の5つの要素です。

(ここから)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
<フィードバック探索の5つのパターン>
(1)フィードバックをどれくらい求めるか(頻度)
・1年に1回か、1ヶ月に1回か、都度都度なのか

(2)フィードバックをどのように求めるか(方法)
・問い合わせる(例:「私のプレゼンはどうでしたか?」と、明示的に口頭で聞く)
・モニタリングする(例:「自分が他人と比べてどうなのか?」など、他人を観察する)

(3)フィードバックをいつ求めるか(タイミング)
・情報ニーズ(自分がほしい情報を得る)
・戦略的・評判的なニーズで決める(評価が関わるタイミングでもとめるかどうか)

(4)フィードバックを誰に求めるか(対象者)
・本人とフィードバックを求める人との関係(例:いいことを言ってくれそうな人を選ぶ)
・相手の気分(例:機嫌がよい人の方がフィードバックを求めやすいなど)

(5)何についてフィードバックを求めるか(テーマ)
・成功、失敗、能力の評価など
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(ここまで)

これらの組み合わせで、フィードバック探索行動が行われ、それが結果につながっていくようです。「フィードバック探索のプロセス」というモデル図も紹介されていました。

■リーダーのフィードバック探索が難しい理由

そして、本論文の中で、もう一つ興味深い話が「リーダーのフィードバック探索」にまつわる話でした。

論文では、「現在までのところ、管理職のフィードバック探索に特化した研究は比較的少ない」と述べられていますが、その限定された研究の中でも、リーダーのフィードバック探索は難しいことが語られているようです。

――――――――――――――――――――――――――
Conway and Huffcutt (1997)とJaques (1961)は、マネジャーの地位が高いほど、あるいはマネジャーの役割が複雑であるほど、業績に関するフィードバックの頻度と一貫性が低くなることを発見した。
さらに、人は自分より目上の人に正直な評価を下すことを恐れ、世間では「 CEO病」と呼ばれている(Goleman, Boyatsis & McKee, 2002)
――――――――――――――――――――――――――
他にも、リーダーのフィードバックが難しい理由としてこんなことも語られていました。

・リーダーは、いくつかの対立する圧力に直面し、その圧力の相互作用により、正直なフィードバックを求めにくくなる

・英雄的リーダーシップモデルの場合、日々やり遂げることが重要であり、フィードバックを求めることはペースを落とすことになる

・リーダーは変化を生み出そうと務めるが、その作用としてフィードバックを封印する方向性を採用しやすい

・リーダーは、受け取ったフィードバックが政治的な動機に基づくと捉え、斜に構えると感じる可能性がある

・フィードバックを受けたならば、変わることが求められ、そうでなければ、なぜそうしないのか説明しなければならないというプレッシャーを感じる

などなど。

こう並べてみても、リーダーがフィードバックを求めづらくなる要因がたくさんあることにめまいがしそうです・・・。

そして、こうした状況を見て、リーダーがフィードバックを求めるという行為がいかにすごいことなのか(抵抗感がたくさんある上で求めているため)を感じました。

だからこそ、フィードバックを求めるリーダーには支援者が必要であるし、孤独かも知れないけれど、孤独にしないような体制を、横でも外部でも作ることが大事なのかもしれない、、、そんなことを感じた次第です。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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