「強み研究」の20年の歴史をまとめてみました ー論文レビュー
(本日のお話 4040字/読了時間5分)
■こんにちは。紀藤です。
昨日は終日、新入社員向けの「プロアクティブ行動研修」の実施でした。
素直で前向きに取り組んでいただき、私もとても楽しい時間でした。
みなさんが、組織に馴染み、そして成長されることを心より願っております!
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さて、本日のお話です。
本日は「強み論文」について、最新の研究をご紹介したいと思います。
2000年代初頭にポジティブ心理学が誕生してから、その研究が盛んになってきたのが「性格の強み(Character Strengths)」です。
私も、この領域に惹かれて、「強み論文100本ノック」や「強み論文おかわりノック」と読み進めてきて、何となく「強み研究の全体地図」が見えてきたような感触を得ている今日このごろ。
そんな中、2024年イタリアのパドヴァ大学の2名の研究者による研究で、「性格の強みの20年の歩み」ということで、これまでに出版された914の論文・文献を渉猟し、その傾向をまとめた論文が発表されました。
その内容が、性格の強み研究を概観できるものであり、私自身改めて頭の整理になりました。ということで、本日はその論文のご紹介をさせて頂ければと思います。
(だいぶマニアックな論文ですが、noteの方には図がたくさんありますので、
ご興味があられる方は、ぜひそちらからもお読みくださいませ。URLは文末にあります)
それでは、まいりましょう!
■今回の論文
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タイトル:『20 years of character strengths. A Bibliometric review』
(性格の強み 20年の歩み:書誌計量学的レビュー)
ジャーナル:Preprint, June 2024(査読前論文)
著者:Tommaso Feraco、Nicole Casali
所属:Department of General Psychology, University of Padova, Padua, Italy
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■本論文のポイント
・「性格の強み」の研究の開始から20年が経った。本論文では、その全体像を文献データから定量的に分析した。
・書誌計量学手法(パフォーマンス分析と科学マッピング)により、研究の影響力・主題の変化・研究同士の関連性が可視化された。
・本研究により「性格の強み」の研究が、ポジティブ心理学への大きな貢献を明らかにし、これまで中心だった欧米などのWEIRD諸国(Western, Educated, Industrialized, Rich, Democratic)以外の国々からの研究参加が増加していることも示された。
・2004~2013年の前半、2014~2023年の後半では、傾向がやや異なっていた。その中で、「測定方法」や「ウェルビーイング(幸福)」に関する研究は引き続き中心的なテーマであり、最近では「メンタルヘルス(心の健康)」への関心と研究が急速に高まっている。
という内容です。
■「強み研究」は、20年で約1000本
さて、本論文の最も重要な点が、「書誌計量学手法なるものでこれまでの研究データを収集し、分析した」という点です。では、どのように分析したかというと、以下のような方法でした。
(ここから)
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<研究方法:「性格の強み」の論文・文献収集の手順>
1 データベースの選定:
・使用したデータベースはWeb of Science(WOS)。
2 検索語と検索範囲:
・使用した検索語は*"character strength"**
・検索範囲:タイトル(Title)、要旨(Abstract)、キーワード(Keywords)
・初期検索でヒットした文献数は976件
3 スクリーニングプロセス
・検索結果から以下の基準で文献を絞り込んだ。
-含まれた基準:言語: 英語のみ、査読論文
-文献タイプ: 論文(articles)、書籍章(book chapters)、レビュー(reviews)
-発行年: 2004年以降(Peterson & Seligmanの著作発行年)
・このスクリーニングにより、925件に絞られた。
4 手動による最終除外
・タイトルとアブストラクトを著者が目視でチェック。
・化学・物理学など関連性のない11件の文献を手動で除外。
・最終的な分析対象数は「914件」となった。
5 特定の性格特性に関する文献の扱い
・VIAインベントリで測定された研究だけでなく、特定のストレングス(例:感謝、粘り強さ)を測定していた研究も含まれた。
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(ここまで)
英語論文だけですので、実際は1000本近く、またそれ以上あることが想像されます。
■結果わかったこと
データで集まった文献について、以下2つの方法で分析を行いました。その結果、それぞれ以下のようなことがわかりました。
(1)パフォーマンス分析
こちらは、出版年、引用数、ジャーナル、著者、国の貢献度などを分析した結果です。
1-1_ 文献について:
・文献数推移: 2023年が最多(129件)。年平均成長率は+24.52%。
・文献タイプ: 842件が論文、41件がレビュー、28件が書籍章。
・平均引用数: 1文献あたり22.75件、1年あたり2.64件。
・最も引用された年: 2010年・2014年・2015年(重要文献の発表年)。
1-2_主なジャーナル:
・Journal of Positive Psychology(86件)
・Frontiers in Psychology(80件)
・Journal of Happiness Studies(44件)
・Applied Research in Quality of Life(21件)
1-3_著者・国の貢献:
・著者数: 2088名
・第一著者の国別: 米国(313名, 34%)、中国(103名, 11%)、スイス(73名, 8%)など。非WEIRD諸国の寄与が第2の10年(2014–2023)に顕著に増加していた。
(2)科学マッピング
次に、科学マッピングでは、キーワードの共起ネットワーク分析とテーママッピングによる研究領域の構造と進化の可視化をしました
2-1_キーワード分析:
・最多使用キーワード:well-being(著者キーワード)、validity(Keywords Plus)
・132のAuthor keywordと121のKeyword Plusが5回以上出現。
・2013年以降は“mental health”や“depression”など、メンタル・フィジカルヘルス関連のキーワードが急増。
2-2_共起ネットワーク:
1.ウェルビーイング中心: adolescents, affect, depression, happiness, interventions, life satisfaction, mental health
2.構造的・測定的: personality, validity, VIA分類関連語
3.特定の強み: gratitude, hope, meaning, resilience, spirituality
4.健康職関連: health, nursesなど
5.心理的ウェルビーイング: psychological well-being, subjective well-being
■まとめと感想
本研究の新規性は「性格の強み(Character Strengths)分野で初の書誌計量学的レビューである」とされています。
そして、文献全体の流れ、主要トピックの変遷、中心研究者・国の動向を定量的かつ可視化した点がわかりやすいのも魅力です。そして、性格の強みの主流である「VIA」の理論以外の尺度による測定も含めて分析しています。
(私もこうした論文を始めて目にして、思わず興奮してしまいました)
一方、英語での査読論文だけになるため、ここ近年の研究の広がりを考えると、性格の強みに関して書かれた論文は1000を有に超えると思われます(日本の論文だけでもいくつも見られるため)。
まだ組織や教育への展開は、発展の途についたところだと思います。これからの研究が期待されますし、自分もより深堀ってみたいな、と思った次第です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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