177キロマラソン体験記 ~ 超ウルトラマラソンを走ると、どんな感情が生まれるのか? 中編〜
(本日のお話 2443字/読了時間3分)
■おはようございます。紀藤です。
今日も昨晩に引き続き、
超ウルトラ177キロマラソンに参加した体験談について、
皆様に感想と気づきをご共有させていただきたいと思います。
昨日は途中で力尽きてしまいましたので、
中盤戦(100キロ地点:7月15日深夜1時頃から)の、
体験共有でございます。
タイトルは、
【超ウルトラマラソンを走ると、どんな感情が生まれるのか? 〜177キロマラソン体験記 中編〜】
それでは、どうぞ。
■7月15日(月)深夜1時。
漆黒の闇の中で走っていると、
突然、ヘッドライドが切れました。
当たり一面真っ暗です。
そして真横には深く生い茂る森があります。
もし元気な時に来たら、すぐにでも立ち去りたいほど、
なにか出そうな雰囲気が漂っています。
しかし、そんなことはどうでもよい。
早く、終わらせたい。
早く、休みたい。
その事ばかりが頭に浮かびます。
手探りで調整すると、
接触不良になっていたようで、なんとか復活をし、
走るのを再開します。
そして、なんとか「総合文化センターパルナス」に到着。
走る中で感覚が麻痺したのか、寒気はなくなっていました。
しかし、咳と痰が喉に絡みます。
ですが、もはやそんなことすらどうでもよい。
この時、7月15日(月)深夜3時。
あと1時間で夜明けです。
■私が想像していなかった、
150キロ以上の、夜を越えて走る超ウルトラマラソンの恐ろしさは、
「走る」以外の、また違う要素が絡んでいました。
疲れている。かと言って、
しっかり睡眠をとったりしたら、タイムアウト。
走るのをやめても、ゴールに辿り着かず、アウト。
食事補給を失敗して、
胃袋がやられて食べられなくなっても、
エネルギー不足でアウト。
なんとか、栄養を補給しておこうと
スタッフさんが出してくれるチキンラーメンを食べて、
床にひかれているビニールシートに目をやります。
軽く、休んでおこう。
そう思って身体を横たわらせると、
吸い込まれるように眠りに入ります。
しかし、熟睡などできるはずもありません。
熟睡しても、どっちみち走らないといけないし、
誰かが助けてくれるわけでもない。
胸に携帯を抱えて、
タイマーを30分にセットして目を閉じます。
あっという間に30分。
もう少し寝たい、、、。
横にいるほかのランナーもきっとそう思っているはず。
ポツポツとしかばねのように起きはじめて、
外が明るみだした頃、それぞれのペースでトボトボと会場を後にします。
笑顔はありません。ただ、疲労だけが見えます。
■起きてすぐ、走ることはできません。
足が固まっているからです。
30分や1時間寝ても、足は回復しないのです。
だから皆、歩いている。
ここからは、263キロの部の人たちと合流です。
この”長い方”に出た方は、もうすでに45時間近く、
ほぼ不眠不休で走っています。
その「先輩」が私を抜き去っていきました。
おそらく多くの人にとっては、
177キロも263キロもよくわからない世界かと思いますが、
この時、私は心から尊敬しました。
ありえない、、、
この状態を追加で14時間経てきて、
なぜ走れるのか、、、不思議でなりませんでした。
現在118キロ。
あと60キロです。
■心とは裏腹に、明け方の太陽が近くの湖を照らし、
美しく荘厳な景色が広がっています。
暗闇が終わったのは喜ばしかったのですが、
本当に辛いのはここからでした。
7/15(月)朝4時。
空が明るくなりはじめても、
変わらないものがあります。
それが、人間の本能の
『睡眠』欲求。
寝ることを奪われた動物は、
何もできなくなります。
走り続けよう、その気力を根こそぎ奪われるのです。
食べないと体がもたない。
しかし、先食べたチキンラーメンを消化しようと、
少しでも血液が胃に集まると、途端に暴力的なほどの眠気が襲います。
道をふらふらと走りながら、
右へ左へとよろめきます。
それが、ずーっとつづくのです。
「太陽が出たら、体内時計がリセットされるよ」
そんな話をどこかで聞いたことがあり、
期待しながら太陽を見つめましたが、
リセットの気配は、まるでありません。
ただただ、眠い。
気づいたら一人走りながら、
「眠い眠い眠い眠い!」
「あーー!」
「うう―!」
「なんでだよ!」(意味がわからない)
などと声を出して呻きながら走っていました。
レースが終了した後、友人と話をしていると、
友人も、他のランナーも全く同じようにうめいたり、
叫んだりしていたそう。
でも、気持ちがわかるから、
他のランナーもそっとしているのです。
■肉体的に迫ってくる「睡魔」は
意志の力ではどうしようもできないほど、強烈なものです。
ブロック塀の影で、体育ずわりをして、
5分だけ、、、と目を閉じます。
そうすると、不思議なことに、
少しだけ回復します。
そしてまた2キロほど走ると、
強烈な睡魔が襲ってくる。
そうして、ひたすら耐えながら走るのでした。
ここからしばらくは、
「眠い」意外の記憶がありません。
次の記憶は、7月15日(月)昼12:00時頃。
146キロ地点。
あと30キロほどまでやってきたとき。
空が明るいと、いくぶんか気持ちも和らぎます。
他のランナーとコンビニで偶然会い、
プリンを食べながら話します。
「あと30キロですね。
ただ、猛烈に眠いですね。
ここまでツライとは思いませんでした」
すると、ランナーの方はこう返します。
「幻覚は、見ましたか?」
、、、一瞬「?」がよぎります。
「いや、このレースに出ていると、
脳が疲れすぎて幻覚を見ることあるんですよ。
私は夜中、花火が上がったのを見ました。
あと、太ももに耳なし芳一みたいに呪文が書かれているのが見えました」
とのこと。
「、、、そうでしたか」
としかいえず走っていると、
確かに私の身にも妙な現象が起こりました。
止まっている白い乗用車が、
急に横に移動したように見えました。
そして、この話は一緒に走った仲間にも聞くと、
同じように「幻覚のようなもの」が見えた、と言っていました。
7月15日(月)昼12:00時。
146キロ地点。
ゴールまで、あと30キロ。
(続く)
長くなりましたので明日に続けます。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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<本日の名言>
健康で、借金がなくて、しっかりした意識があるという幸福以外に
いったい何が必要だというのだ。
アダム・スミス(スコットランドの経済学者/1723~1790)
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