今週の一冊『一瞬の夏』
(本日のお話 2256字/読了時間3分)
■こんにちは。紀藤です。
昨日土曜日は
朝から夕方まで大学院の授業でした。
またその後打ち合わせ、
その後研修の準備などでした。
大学院でまみれておりますが、
学びになる授業も続々始まって
楽しい毎日でございます。
がんばります!
*
さて、本日の話です。
毎週日曜日は、お勧めの一冊をご紹介する
今週の一冊のコーナー。
今週の一冊は
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『一瞬の夏』(上下)(新潮文庫)
沢木耕太郎(著)
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です。
■先日、勉強会仲間の
友人とランチをした際に、
「沢木耕太郎の処女作から
最新刊まで全部読み通している、
今、沢木幸太郎の書籍を読んでいるが、
著作を通じてどのように心が変化していくのか
これがとんでもなく面白い!」
とアツく語っていました。
沢木幸太郎を50冊くらい
読み続けていたとのことですが
これだけ読めば、
”ある1人の作者の人生を追体験した”
といっても
過言ではなさそうです。
いやはや、羨ましい限り。
■そんな中で、オススメされたのが
今回ご紹介の『一瞬の夏』でした。
沢木幸太郎と言えば
『深夜特急』が有名ですね。
私事ですが、大学の時
タイやカンボジアを一人旅したことがありましたが、
その界隈でもバイブル化されており、
私も読んだ記憶があります。
■そんな沢木幸太郎が、
悲運のボクサー・カシアス内藤と
共に歩んだ軌跡を
取材者であり、応援者であり、
スポンサーを絡めた自分自身も絡めて描く、
「私ノンフィクション」
と呼ぶ方法論に挑んだ作品が
『一瞬の夏』であるとのこと。
(Wikipediaより)
■ちなみに、この書籍のエピソードは
以下のように紹介されています。
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強打をうたわれた元東洋ミドル級王者カシアス内藤。
当時駆けだしのルポライターだった“私”は、
彼の選手生命の無残な終りを見た。
その彼が、四年ぶりに再起する。
再び栄光を夢みる元チャンピオン、
手を貸す老トレーナー、見守る若きカメラマン、
そしてプロモーターとして関わる“私”。
一度は挫折した悲運のボクサーのカムバックに、
男たちは夢を託し、人生を賭けた。
※Amazon本の紹介より引用
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
■1人のボクサーのチャレンジを
”私(沢木耕太郎自身)”の目線で
カシアス内藤自身、
そしてトレーナー、
カメラマン、妻、ボクシング業界…
描いていくノンフィクション。
読み始めたらなぜだか
止まらなくなってしまい
体も疲れているのに、
深夜まで読んでしまいました。
■その魅力が一体何だったのか。
と考えてみると、
言葉にすると非常に
安っぽくなってしまうのですが、
「沢木耕太郎自身が、
人生を賭けて共に歩んだ」
ということ、
つまり、ただの取材者ではなく
自分の貯金も、時間も、気持ちも注いだ
”取材者であり当事者である本人”
が描いたからこそ見えてくる世界が、
心を掴んで離さなくしているのでは、
などと思ったのでした。
■作品を通じて、ずっと存在している
儚い感じや、
どこか物悲しい雰囲気も、
期待と不安が入り混じったような
言い回しも、
また登場人物の日常を見る視点と
それを描く表現も、
妙に”リアル”で、
止まらなくなってしまったのでした。
(私の貧困な語彙では
表現ができなくて口惜しいですが…
詳細は読んでみてください)
■正直なところ、
カシアス内藤のエピソードが
サクセスストーリーかというと
そうでは無いのです。
夜に名を轟かせたような
すごいボクサーと言うわけでもない。
諦めたくない思いがありつつも
日々のお金に困る。
ボクシングの興行的な裏事情で翻弄され、
沢木耕太郎自身が私財をはたき、
彼を支援していく。
■映画のサクセスストーリーのようには進まず、
華々しい勝利や
努力をした結果が実感動的な瞬間が
あるわけではない中で、
でも、登場している一人ひとりの
”心の襞”が沢木耕太郎自身のものも含めて
染み入るように伝わってきます。
沢木幸太郎のレンズを通した
人生の物語が、何とも惹きつけられて
たまらないと思ったのでした。
■この小説を読んで、
ドイツの哲学者の
ショーペンハウアーが語った、
こんな言葉を思い出しました。
(ここから)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
”ひとりひとりが生きる世界は、
何よりもまず、その人が世界をどう把握しているかに左右され、
それゆえ、頭脳の相違に応じたものとなる。
頭脳次第で、世界は貧弱で味気なく
つまらぬものにもなれば、
豊かで興味深く意義深いものにもなる。
たとえば多くの人々は
他人の身に起こった面白い出来事ゆえに
他人をうらやむが、
むしろ描き出すことで
その出来事に意義深さを与えた、
その把握の才ゆえにうらやむべきであろう”
※ショーペンハウアー『幸福について』より
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(ここまで)
■小説を読んでいなかったですが
今回『一瞬の夏』を読んで思ったのが
”描き出すことでその出来事に
意義深さを与えた把握の才”
の大切さを思わされたように感じています。
毎日事件が起こるわけでもないし、
毎日何か大きな変化があるわけでもない。
それでも、日々の中にある何気ない風景を
豊かなレンズで見ることができたら、
日々もっと豊かになっていくのだろうな、
と思います。
芸人の「すべらない話」も、
面白い事が起こるのではなく
そういったメガネをもっていることこそが、
素晴らしいことだし、そうありたいな、
などと思った次第。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
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<今週の一冊>
『一瞬の夏』(新潮文庫)
沢木耕太郎(著)
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