書籍『組織におけるストレングスベースのリーダーシップ・コーチング』を読み解く(1)~第1章 組織におけるストレングスベースのアプローチの紹介(前半)~
(本日のお話 6005字/読了時間7分)
■こんにちは。紀藤です。
本日より現在、最も個人的に注目しており、
読み進めている本の全章解説をしたいと思います。
その本は、
Doug MacKie (2016)
『Strength-Based Leadership Coaching in Organizations
An Evidence-Based Guide to Positive Leadership Development』
https://www.amazon.co.jp/dp/B01CEFQWMI/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_WFSJHK5H0CHCFSB5WMK9
という本です。
日本語に訳すと、
”組織におけるストレングスベースのリーダーシップ・コーチング:
ポジティブなリーダーシップ開発のためのエビデンスに基づくガイド
です。
*
私自身ストレングス・ファインダーで、
企業向けにも、個人向けにも
「強みにフォーカスをすることの重要性」
をお伝えしています。
その重要性の全体像は概ね理解していますが、
実際のところ専門的な話において、先行研究等でどこまでがわかっていて、
どこからが不明なのかは、まだ理解しきれていませんでした。
ただ、この本は現在における上記のテーマにおいて
全体的な視点と、その可能性について、
論理的かつ科学的に一つの解を与えてくれている、と感じた本です。
よって、特に「強み」に着目したマネジメントや、
人・組織づくりをしていきたいと感じる方にとっては
非常に有益な内容になっているのではないか、と思います。
ということで少しマニアックは話になりますが、
本日よりシリーズの第一回目、早速参りたいと思います。
タイトルは、
【名著『組織におけるストレングスベースのリーダーシップ・コーチング』を読み解く(1)
~第1章 組織におけるストレングスベースのアプローチの紹介(前半)~】
それでは、どうぞ。
■この書籍、まえがきで
こんな風に紹介されています。
”リーダーシップ開発プログラムに参加したり、導入する中で、
“どの部分が本当に効果的なのかわからない”ということ。
一流のリーダーシップのコーチとしてのスキルと、研究に基づいたアプローチを組み合わせて、
本当に重要なことに切り込んでいる”
”ストレングスベースのコーチングの科学と応用の両方を高いレベルで実現している本”
”前半はリーダーシップ開発研究、ストレングスベースの概要と批評が幅広さと深さの両方において書かれている。
後半は、コーチング心理学者、リーダーやマネジャー、チームリーダーなどを対象に、どのように適用するかが明確に述べられている”
などなど。
海外の教授や、コンサルタントから
推薦の言葉が多く掲載されていますが、
実際にそのような内容の書籍だと感じます。
■書籍の流れとしては、
以下のようになっております。
<第1章:組織におけるストレングスベースのアプローチの紹介>
<第2章:強み:定義とモデル>
<第3章:ポジティブ・リーダーシップ理論>
<第4章:強みの特定と評価>
<第5章:リーダーシップ開発へのポジティブなアプローチの有効性を示す証拠>
<第6章:強みの開発>
<第7章:組織におけるポジティブなリーダーシップ開発のためのコーチング>
<第8章:リーダーやマネジャーとしてストレングスベースのアプローチを用いる>
<第9章:ストレングス・ベース・アプローチによるチーム開発>
<第10章:ストレングスベースのリーダーシップ・コーチングの背景と限界>
■前半の第1~5章は、
ストレングスベースのリーダーシップの概念、
その開発の歴史や全体像について網羅的に論じられています。
・ストレングス・ファインダー
・VIA(Values in Action)
・Realise2(現在は、Strength Profileとなっている)
などの世界で活用されている強みを特定する
各種のツールについても批評がされています。
後半の第6~10章では、
ストレングスベースのリーダーシップ開発
チーム開発について具体的に述べられています。
■この本に説得力を感じるのは
様々な研究者が掘り下げてきた各理論について
出典論文なども抑えて論じているところです。
・リーダーシップ理論
・ポジティブ・リーダーシップが生まれた背景
・ストレングスベースの理論的根拠
等について、明確にされているところでしょうか。
この本を読みながら、参考論文について探索の旅をしていくことで、
ストレングスベースのリーダーシップを取り巻く全体地図が
明らかになっていくような感覚を覚えています。
■ということで、1つ1つの章も
深い内容ではありますが、今日はまず第一章について
概要をお伝えできればと思います。
まず概要については以下の通りです
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<第一章:組織におけるストレングスベースのアプローチの紹介>
【現代のリーダーシップ開発の課題】
【ストレングスベースのアプローチの歴史】
【ネガティブ志向の背景には何があるのか?】
【リーダーシップ行動の進化】
【才能のエピジェネティクス】 ← ※今日はここまで解説
【リーダーシップに対するよりポジティブなアプローチの起源】
【ポジティブ・リーダーシップ理論の現代的傾向】
【ポジティブ・リーダーシップ開発の現代的傾向 コーチングとポジティブ心理学】
【ポジティブ・リーダーシップの定義は何ですか?】
【リーダーシップ開発におけるストレングスベースのアプローチの理論的根拠】
【ストレングスベースのアプローチの理解に役立つツール】
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■では、ここから第一章の前半について
ご紹介してまいりたいと思います。
(↓↓ここから)
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【現代のリーダーシップ開発の課題】
◯「裏付けがない」問題。
・リーダーシップ開発には米国だけでも年間500億ドル費やされていると言われるが(Bolden2007)、
多くのプログラムには、実質的なエビデンスベースや包括的なリーダーシップ理論の裏付けがない(Briner,2012)
◯「どのようなリーダーシップ開発の具体的な要素が効果的なのか明らかになっていない問題」。
・そのため、大変のリーダーシップ開発のコースでは、一般的に効果的な要素と、個人にとって特別に有益な要素があることを期待して、
複数の要素を組み合わせた異種混合のアプローチが取られている。
結果、リーダーシッププログラムのトピックやプロセスが広がってしまい、どの施策が効果的なのか、がわからなくなってしまう。
◯「多くのリーダーシッププログラムの厳格な評価が行われていない問題」。
リーダーシップ開発について、相対的に有効な項目に関するデータが不十分であり、最大の効果をもたらす要素を選択することが不可能に近い。
◯「リーダーシップ理論が実践から切り離されている問題」。
特性理論、状況に着目したコンティンジェンシー理論、変革型リーダーシップモデル、オーセンティックリーダーシップなど、長い道のりを歩んできたが、
学術的な環境で行われており、現場との乖離があることが、実証されていない流行やトレンドの拡散を助長している。
【ストレングスベースのアプローチの歴史】
◯ポジティブ心理学の始まり
・20世紀初頭の一部の期間を除いて、組織における開発の焦点は、圧倒的にネガティブなものに当てられてきた(Wright and Quick,2009)。
・マズローの欲求階層説はよく知られているが、あまり知られていないものとして、
彼がポジティブ心理学という言葉をつくり、ポジティブなこと(ピーク時の経験、人間の潜在能力)の焦点を当てていたこと。
・しかし、マズローを初めとした人間性心理学者たちは、経験的な厳密さを欠いていると批判されていた。
理論を裏付けるエビデンスベースが整備されていなかったことも、このアプローチが組織に浸透しなかった理由の一端だろう。
マーティン・セリグマンが米国心理学会の会長に就任し、幸福、卓越性、最適な人間機能に焦点を当てたことで、
リーダーシップを含む応用心理学におけるポジティブなアプローチが再浮上した。(Seligman and Csikszentmihalyi 2000)
◯ポジティブ心理学のパラダイムにつながる2つの主要な研究分野
~ポジティブ組織行動学(POB)とポジティブ組織研究(POS)~
<ポジティブ組織行動学(Positive organizational Behavior)>・・・
・研究に基づいた、測定可能なアプローチとして明確にされている。そのため組織における開発の対象とすることができた(Luthas and Youssef 2007)
・パフォーマンスを高めるためには、より洗練されたニュアンスのあるアプローチをとる「強みの開発」という概念を支持している。
<ポジティブ組織研究(Positive organizatinal Scholarship)>
・ポジティブな逸脱行動(ぶっ飛んだ行動?)をより特性に近い観点から検証するポジティブ組織学が定義されている。
思いやりや感謝といった美徳の組織内での分類と識別に焦点を充てる(Boyatiz, Smith and Blaize 2006)。よって育成プロセスよりも選抜に適している。
上記のPOB関連性は、ストレングスベースのリーダーシップ開発の重要な側面である。
◯ポジティブ心理学のフレームワークに対する批判と考慮すべき点
・ポジティブなものに完全に集中し、欠点や脱線には注意を払わないことを提唱しているのは、最も宣教的なイデオロギーを持つ支持者だけである。
1)ポジティブな感情とネガティブな感情の理想的な比率・・・
ポジティブな感情とネガティブな感情の理想的な比率について議論されている。(Losada and Heaphy,2004)
2)ネガティブ感情も重要・・・
ネガティブな感情の重要性を主張し、喪失や驚異に対する適応として進化的起源を強調する研究者もいる(Gilbert,2006)
3)強みはやりすぎる・・・
強みはやりすぎることがあり、すべての強みが文脈や影響を無視して活用されると、脱線社になってしまう懸念もある(Kaiser,2009)
4)自己認識が強みによって歪められる・・・
多くの人が様々な仕事で自分の能力を過大評価していることを考えると(Dunning al 2003)、
ポジティブなことに執拗に焦点を与えることで、個人内の認識が更に歪められ、既存のポジティブなバイアスが再確認される危険性がある
(=能力が低い人は「私の強みは◯◯なんだ!」と更に暴走する恐れがある)
自己認識には、自己と他者の認識の間の整合性を高めることが必要であるため、個人的なものやポジティブなものばかりを強調することは、
リーダーシップ開発の複数のモデルの基礎の一つである自己洞察力の開発に反していると思われる(Avolio,2010)
5強みに焦点を与えることが個人の資質との複雑な相互作用を無視してしまう危険性・・・
強みに焦点を当てることが、個人や組織を開発するための単なる特性ベースのアプローチとなり、
個人の資質とチーム、グループ、ダイアディック(2つの要素)状況変数と複雑な相互作用を無視してしまう危険性がある。(Hernandez et al, 2011)
【ネガティブ志向の背景には何があるのか?】
Q,幸福な労働者はより生産的であるという証拠があるにもかかわらず(Wrigth and Quick,2009)で
組織開発やリーダーシップ開発における否定的な考え方が今世紀の初めまで普及していたのはなぜか?
1)ネガティブな感情には適応性がある・・・
ネガティブな感情は私たちの行動のレパートリーを狭め、文字通り私たちの命を救うことができる早道の思考を促進する。(ギルバート,2006)
2)私たちのバイアスがネガティブに焦点を当てる・・・
私達自身のバイアスがネガティブなものに焦点を当てることを助長するという証拠があり、それは私たちの進化の歴史に由来するとされる(Nesse,2005)
3)ネガティブな感情を機能的に考えると、一度だけの脅威を正確に予測することもある
4)否定性バイアス(恐怖心や嫌悪感を覚える事)は、肯定的な連想よりはるかに簡単(Rozin and Royzman,2001)
恐怖や嫌悪感は、たった1回のネガティブな出来事で身についてしまうことが多い。
加えて、自分の歪んだ思考(メンタルモデル)によって恐怖心を維持する能力、ネガティブ感情とポジティブ感情を表現する言葉の数等から、
いかにストレングスベースのアプローチが普及しないかがわかる。
補足)欠損フォーカスの強さは、リーダー個人が属する職業によって左右される・・・
法律家はうつ病や不満を持つ人が多いことでよく知られている。しかし、法曹会の悲観主義は適応的な場合もある。
かつて、契約書の単語を1つ間違えただけで100万ドルの損害を被った法務担当者がいた。
警戒心を強めて、細部にまで気を配ることは、組織的には有効であることもある。
【リーダーシップ行動の進化】
Q,「進化論」の理解が、リーダーシップの理解に役立つ点とは?
<1)「人類」としてのリーダーシップの進化とは>
・進化モデルでは、リーダーシップ行動は適応上の問題を解決するために進化したとされている。
・人類学的な証拠は、人類が狩猟採集時代には、激しい平等主義であったと示唆している。
私たち人類の種の歴史の大半は「平等主義的な狩猟生活を送ってきた」と考えると、進化の視点は重要だと言える。
進化モデルから考えると、企業のリーダーシップはごく最近生まれた
<2)「リーダーシップ理論」の進化・発展>
・単純なものから複雑なものへという一般的な傾向がある。
リーダーシップも特性論から、変革型リーダーシップのような複数の能力を表現するモデルへ移行してきた。
・モデルの進化は、“リーダーシップ開発”の焦点を、スキル開発→エンパワーメント→コラボレーションへとフォーカスを変えてきている。
・“特定のリーダー”→“分散して共有されるリーダーシップ”へと変化する傾向がある(Crevani, Lindgren and Packendorff 2010)
<3)リーダーシップは個人が生きている間に進化する>
・リーダーは組織の階層を上がっていくにつれて、特定の能力が開発されていく
【才能のエピジェネティクス】
・才能は生まれた、のか作られたのか。遺伝なのか、環境なのか。
・現在では、この二分法ではなくて、総合的で複雑なアプローチを提案している(Clutterbuck、2012)
・「才能のエピジェネティックス」は従来の遺伝子対環境の二項対立の説明を拡張するもの
(エピジェネティクス=遺伝子の発現を変化させるために、何が遺伝子にスイッチを入れたり切ったりするのかを研究する学問。
遺伝子をオン・オフにする環境要因には、食事、薬物、加齢、ストレスなどがあるそう)
・つまり遺伝子は運命ではない。才能のある人も環境によっては才能が抑制されるし、逆にエピジェネティクスな操作で増幅される可能性もある。
これによって、採用ではなく育成ができるもの、という考えになった。(Meyers ea al, 2013)
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(↑↑ここまで)
■以上、ここまでが第1章の解説となります。
1つ1つ読み解いていったら
大変長くなってしまいました(汗)
、、、が、それぞれが濃厚な話であり
このように全体像を俯瞰してみてみると、
「いや、ポジティブなのはいいけどさ、
それだけでいいの?根拠は?」
と言われてきた議論の経緯や
「リーダー(個人)→リーダーシップ(分散)の中で、
個々の強みにフォーカスをしたリーダーシップ開発が求められてきた」
という学術的かつ社会的な背景を抑えておくと、
よりナットクカンが高まると感じます。
またそれぞれの参考になる各研究者が論じている話も
深堀りをしてみると大変参考になる(知的好奇心が満たされる?)
ように感じております。
ということで、明日ももりもり
第1章の後半をご紹介したいと思います。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
本日も皆さまにとって、素晴らしい1日となりますように。
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<今回 取り上げた書籍はこちら>
『Strength-Based Leadership Coaching in Organizations
An Evidence-Based Guide to Positive Leadership Development』
Doug MacKie (2016)
https://www.amazon.co.jp/dp/B01CEFQWMI/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_WFSJHK5H0CHCFSB5WMK9
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