書籍『組織におけるストレングスベースのリーダーシップ・コーチング』を読み解く(3) ~第2章 強み:定義とモデル(前半)~
(本日のお話 4044字/読了時間5分)
■おはようございます。紀藤です。
昨日はコーチングセッション、その他アポイント。夕方からは人材開発の仲間と15キロのランニングなど。
*
さて、本日のお話です。
「組織におけるストレングスベースの
リーダーシップ・コーチング」
について、非常によくまとめられている、
Doug MacKie (2016)
『Strength-Based Leadership Coaching in Organizations
An Evidence-Based Guide to Positive Leadership Development』
https://www.amazon.co.jp/dp/B01CEFQWMI/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_WFSJHK5H0CHCFSB5WMK9
を、一章ごとに解説してまいりたいと思います。
各章立ては以下の通り。
<第1章:組織におけるストレングスベースのアプローチの紹介>
<第2章:強み:定義とモデル>
<第3章:ポジティブ・リーダーシップ理論>
<第4章:強みの特定と評価>
<第5章:リーダーシップ開発へのポジティブなアプローチの有効性を示す証拠>
<第6章:強みの開発>
<第7章:組織におけるポジティブなリーダーシップ開発のためのコーチング>
<第8章:リーダーやマネジャーとしてストレングスベースのアプローチを用いる>
<第9章:ストレングス・ベース・アプローチによるチーム開発>
<第10章:ストレングスベースのリーダーシップ・コーチングの背景と限界>
今日は「第2章(前半)」となります。
それでは早速まいりましょう!
タイトルは、
【書籍『組織におけるストレングスベースのリーダーシップ・コーチング』を読み解く(3)
~第2章 強み:定義とモデル(前半 ) ~】
それでは、どうぞ。
■「強み」を語る上で、
強みという言葉の”定義”、そして
いくつか強みについての考え方、
”強みのモデル”の全体像を概観することで、
よりストレングスベースのアプローチが
見えやすくなってきます。
「第2章」はまさにそんな内容です。
非常に興味深いところですので、
是非見てまいりましょう!
■第2章の内容は以下の通り。
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<第2章: 強み:定義とモデル>
【はじめに】
【強みのモデル】
【「状態-特性の連続性」に応じた強みの差別化】
【強みとパフォーマンスの関連性】
【やりすぎた強み】
【文脈にあった強み】
【強みと決断の余地】
【まとめと結論】
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本日は前半をご紹介したいと思います。
それでは、一つずつ読み解いてまいりましょう”
(↓↓ここから)
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【はじめに】
◯強みについての疑問
1)「強み」という概念は“構成的な妥当性”を持つのか問題
(=リーダーシップ開発の分野で説明力と予測力を持つ方法で定義できるのか)
2)「強み」という概念は“判別的妥当性”を持つのか問題
(=才能や好みのような他の概念とは異なる何かを測定しているのか)
3)「強み」という概念は“予測的妥当性”を持つのか問題
(=個人やチーム組織の中での可能性やパフォーマンスについて有益なことを教えてくれるのか)
◯「強み」の様々な定義
・「理想的には非常に高いレベルで実践されている典型的な特性。ある集団の中のリーダーの10~20数パーセントに現れる」(Zenger et al, 2012)
・「特定のタスクで完璧に近いパフォーマンスを一貫して行う能力」(Rath and Conchie, 2008)
・「価値ある結果を追求するために最適な機能を発揮できるような方法で、感じ、考え、行動する能力」(Snyder, Lopez and Pedrotti, 2010)
・「元気で情熱的な気分にさせ、素晴らしい仕事をするように導く個人的な特性や性質」(Brewerton and Brook, 2010)
※以上のことから、特徴、能力、資質など、様々な定義があることがわかる。
一方、強みの起源についての明確な推測はほとんどされていない。
◯強みに対するマインドセット
・自分の強みについての信念が、その強みを使って何をするかを決めるのに役立つと言える
強みに対する固定思考は、強みの特定に焦点を当てることになり、成長思考は「強みの開発」に繋がる。(Dweck,2006)
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【強みのモデル】
・強みのモデルには様々なものがあり、それぞれが異なる理論的視点に基づいている。
・既存のモデルは、「領域ベース」、「能力ベース」、「特性(性格)ベース」のモデルに大別される。
◯「領域ベース」の強みのモデル
・個人の強みを関連するドメイン(領域)の見出しの下に分別してグループ化するモデル。
・人事管理の分野で行われているコンピテンシーベースのアプローチにやや似ている。
※例:「ストレングス・ファインダー」(Gallup)
・特徴:「実行力」「影響力」「関係構築力」「戦略思考力」という4つのリーダーシップ領域の下で表現をする。
・領域は、通常5項目程度の扱いやすい構成要素にまとめることができる。
・強みや成長の分野を大まかに示すものとして位置づけられる。(統計的な妥当性は必ずしもない)
◯「能力ベース」の強みのモデル
・特定の分野で優れたパフォーマンスを発揮する個人の潜在能力を強調するモデル。
・ポジティブな感情を育むことで、エンゲージメントを高め、能力を得るとする。
※例:「Realize2(現在はStrength Profile)」
・本人が持っているエネルギー(潜在能力)が、活用の機会に応じて、
“実現された力”にも“未実現の力”にもなると考え方。60項目の領域で判断する。(Linley and Stoker, 2012)
※例:「心理的資本モデル(PsyCap)」 (Avolio and Luthans, 2006)
・希望、楽観主義、自己効力感、レジリエンスという4つの状態に似た構造が存在すると主張する考え方。
・1つの領域と4つの構成要素で成り立っており、信頼性と妥当性が高く、明確に状態を表しており、
特定の介入によって発展させられることが証明されている(Luthans et al, 2006)
※例:「開発準備の概念」(Hannah and Avolio,2010)
・学習や開発活動に先立つ本質的な能力、変化、成長、発展に対する意欲と能力を特定しようとするもの。
強みの正確な自己評価と、変化のプロセスへのコミットメントに基づく。
◯「特性(性格)ベース」の強みのモデル
・「ビッグ5」などの標準的なパーソナリティのモデル。
あるいは、自尊心、自信、統制の所在、情緒的安定性などを含む「中核的な自己評価」(Judge and Bono, 2001 )などの、性格的な強みなどから考えるモデル
・“生まれつき”の才能という概念も含まれている。
※例:「ビッグ5」
・「開放性、誠実性、外向性、協調性、神経症傾向」の5つを軸にした標準的なパーソナリティのモデル。
パーソナリティとは、定義上、時間が経過しても比較的一定で観察者が容易に見分けられる傾向のある特徴のこと。
・特に外向性は、「リーダーシップ行動」と(小さいながらも)有意な相関関係を示す(Judge et al,2002)
・このモデルの活用をする際は、個人の役割とその根本的な好み(性格)の適合性を考慮することである。
(※基本、強みは変わらないもの(=強みは性格)という考え方をする場合、マッチングが問題になるわけであるから、
「強みの開発」の対象とはなりづらい)
◯強みのプロセスモデル
・AI(Appreciative Inquiry)などに代表される例。
・強みの起源について述べるのではなく「強みを適用し、取り入れるための道筋」を示している。
・個人の変化よりも組織の変化に重点を置いたプロセスである。
・そして、“個人の強みを特定すること”が、組織開発の最初の段階と考えており、“強みを他の人と共有し、組み合わせ効果を活用すること”を述べている。
◯まとめ
・上記のそれぞれのモデルは、強みの起源には言及していない。
・ただ、強みに基づいたリーダーシップ開発のその後の展開に影響を与えるため、アプローチを選択する前に、これらの種類を認識しておくことが重要である。
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【「状態-特性の連続性」に応じた強みの差別化】
◯「状態-特性の連続体モデル」とは
・「強みをどの程度変更できるか」という考え方に影響を与えているモデル。
・例えば、幸福感のようなポジティブな“状態”は比較的用意に獲得できるため開発しやすいとみなされる。
・一方、安定して永続的な“特性”とされたもの(生まれ持っての才能・知能など)は、開発しづらいと考えられやすい。
とはいいつつ、知能やその他の才能と呼ばれる“特性”も、エピジェネティックスなどの考え方で、変化可能なものとして認識が変わってきている。
◯「IQ」は変わるのか? の実験からの示唆
・「IQ(知能)」は実態を持つものとして、安定性がある特性と考えられてきた。
しかしながら、ヒトゲノムプロジェクトから、その実体モデルも解明されていないことや、
また知能と関連する3つの遺伝子(学歴とIQスコアに影響を与える)は、平均100スコアのうち0.3ポイントしか影響を与えないとわかった。(Rietveld et al,2013)
・また思春期の小学生を対象にした、知的能力に対する成長思考と固定思考を測定し、2年間の成績の影響を測定した。
固定思考の子どもたちの数学は低下したが、成長思考を教えたところ、8週間で効果が逆転した。
つまり、遺伝子よりもマインドセット(成長思考)のほうが重要である、という考えが示唆される。(Carol Dweck,2006)
・また別の研究では、知能(IQ)も、知能も変動するという証拠を示していた。
刺激の多い環境で育った環境要因によって影響を受ける、と考えられている(=フリン効果)(James Flynn,2007)
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(↑↑ここまで)
■さて、いかがでしょうか。
ストレングス・ファインダーは
最近注目されつつありますが、
これも一つの「モデル」と捉えると、
更に奥行きが広がるようにも感じます。
(ストレングス・ファインダーのアカデミックな分析は
続くメルマガでもお伝えできればと思います)
■前半のまとめとしては、
1)「強みの定義」にも様々ある
2)「強みのモデル」は
領域・能力・特性ベースの3つのモデル
そして、強みのプロセスモデル等がある。
3)「状態-特性の連続体モデル」から、
特性は変わりづらい、状態は変えやすい(強みを開発しやすい)等の認識はある
しかし、今日では特性すらも変わっていくという考えも出てきている
と言えるかと思います。
■それでは明日は
「強みとパフォーマンスの関係」
などについて、紐解いていきたいと思います。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
本日も皆さまにとって、素晴らしい1日となりますように。
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<今回 取り上げた書籍はこちら>
『Strength-Based Leadership Coaching in Organizations
An Evidence-Based Guide to Positive Leadership Development』
Doug MacKie (2016)
https://www.amazon.co.jp/dp/B01CEFQWMI/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_WFSJHK5H0CHCFSB5WMK9
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