「上司がナイスなコーチングをすれば、部下は真似してコーチングするのか?」の研究
(本日のお話 3156字/読了時間4分)
■こんにちは。紀藤です。
ここ最近、時間が取れるようになってきたので
ひたすらコーチングに関する論文を読んでおります。
その中で、
『コーチングのパフォーマンス効果
:階層的線形モデリングを用いた多階層分析』
(Ritu et al,2009)
という論文に出会いました。
コーチングネタ、興味ない方スミマセン。。。
そして私自身、タイトルから、
「ちょっと何言っているのかわかんない」と
心の中のサンドイッチマンのツッコミが入りそうでしたが、
読み進めてみると、コレが意外と面白い。
要は、
「部長がコーチングをやっていると
課長はコーチングをやるようになるのか?」
という”階層間の影響”を見てみよう、
という研究です。
*
きっと組織内でコーチングをやっていらっしゃる皆さまには、
参考になる論文のはず!
ということで、
今日はこの論文の内容について
皆さまに学びをおすそわけさせていただければと思います。
(ちなみに先にお伝えすると
結果は、意外なものになりました、、、)
それではまいりましょう!
タイトルは
【「上司がナイスなコーチングをすれば、部下は真似してコーチングするのか?」の研究】
それでは、どうぞ。
■コーチングは組織内の
様々な範囲で行われるようになりました。
コーチングは部下のパフォーマンスを高める。
これらのことは先行研究でも
様々な言われており、有用性も認められるようになりました。
コーチングの効果や
その手法についても
様々な研究がされていますが、
その中で、
「上司と部下の関係における複数の階層レベルでの
コーチングがどのような影響を与えるのか?」
という研究は、
あまり多くなされていないようす。
■すなわち、組織全体で
コーチングを導入した場合、
・部長→課長をコーチング
・課長→係長をコーチング
・係長→主任をコーチング
というよう複数のレベルにわたり、
コーチングをしたときには、
ある人がコーチングの受け手になることもあれば
実施する側になることになるわけですが、
その時に、上司の行動は部下の行動に
どういう影響を与えるのだろう?
と疑問が残っています。
■まさに、
”親鳥をひな鳥は真似るのか?”
という問い。
上司がやっていることは模倣もしやすい、、、はず。
でもそれは本当だろうか?
調べられていないから
調べてみようじゃないか、
という研究です。
■ちなみに、このことは、
「社会認知理論」の
『モデリング』と呼ばれる理論と関連します
(Bandura,1986)
曰く
「知識やスキルは個人の直接的な経験だけではなく、
他者への観察や模倣を通じて獲得される可能性がある」
(Wood and Bandura,1989)
とのことで、
特に
”肯定的な結果(コレ使える!)”と思うものは、
より実行(模倣)されやすい、
そうです。
ゆえにますます、
「組織の中で従業員のパフォーマンスを高めると
知られているコーチング行動。
上位層がやっていれば、
中間層もすべからくやるようになるはず!」
と思えてきます。
■では、実際のところ、
どうだったのでしょうか?
『コーチングのパフォーマンス効果
:階層的線形モデリングを用いた多階層分析』
(Ritu et al,2009)
で、その問いが明らかにされています。
以下、ざっくりとおまとめいたします。
(ここから)
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<研究の手法>
・米国の製造会社において、
コーチングに関する研修を上司に行った
・”コーチング行動の利点”を理解した上で、
3ヶ月経ってから、以下を調査し、統計的処理をした。
<質問紙の内容>
Q,コーチング行動が3つの階層で、どれくらい行われているか
(上級管理職、中間管理職、スタッフ)
Q、それぞれの階層における職務満足度とパフォーマンスはどの程度か?
Q,3つの階層をまたいだ影響はどのようなものがあるのか?
<結果わかったこと>
1,スタッフの職務満足度は、スタッフのパフォーマンスと正の相関がある
2,中間管理職の職務満足度は、中間管理職のパフォーマンスと正の相関がある
3,中間管理職のコーチング強度と、スタッフのパフォーマンスには正の相関がある
4,職務満足度が高い中間管理職/スタッフに対してコーチング強度を高めても、
より良いパフォーマンスに到達するための触媒にはならない
5,上級管理職のコーチング強度は、中間管理職のコーチング強度に”相関がなかった”
6,組織内の階層が厚くなると、部下に与えられる対話内の影響力は低下する。
(つまり上級管理職のコーチング強度と中間管理職のパフォーマンスの関係の強さは
中間管理職のコーチング強度とスタッフのパフォーマンスの関係の強さより弱くなる)
※Ritu Agarwal et al(2009).The performance effects of coaching: a multilevel analysis using hierarchical linear modeling
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(ここまで)
とのこと。
■図がないと、
なんとも説明しづらいのですが、
ここで注目したい結果は、
「5,上級管理職のコーチング強度は、
中間管理職のコーチング強度に”相関がなかった(!)”」
というところ。
え?そうなの。。。
予想とちがうじゃん、、、
ということです。
この研究においては、
”上司の管理職がコーチングをしていても、
部下の管理職がコーチングをするわけではない”
という結論になったのでした。
■このことについて、
さきほど社会認知理論の話などからも、
「意外の結果だった」と研究者も語り、
「なぜ上級管理職がコーチング強度と
中間管理職のコーチング強度は相関がなかったのか」
の理由を以下考察しています。
・上級管理職と中間管理職の場合、責任と仕事の範囲から、
コーチングの頻度は、さほど多くなかった
↓
・つまり上の人は忙しいので、
中間管理職ースタッフのコーチングほど頻度高く行われていない
↓
・模倣される行動とは、”鮮やかに見える行動”であるがゆえ、
中間管理職は上級管理職の行動にさほど影響を受けなかった
とのこと。または
あるいはもしかすると、
・役職が上がると、そもそも
「他者から学ぶ」というモデリングが減るのかもしれない
という視点も語られています。
真相は闇の中、、、ではないですが
いずれにせよ、何が原因はわからず、
より深く研究する余地あり
となっているようです。
■以下、この論文を読んで思った、
私の感想でございます。
個人的には、
今後の自分のプロジェクト研究から、
「とても残念」
でございました(汗)
というのも、
”なぜ上級管理職がコーチング強度と
中間管理職のコーチング強度の相関は「ある」”
と明確に言ってほしかった、
という期待があります。
(そんなの知ったこっちゃない、という話ですが、、、苦笑)
■まさに今進めているプロジェクトで
「上級管理職がコーチングをするから
中間管理職がコーチングをする」
↓
「だから皆さん、コーチングをしましょう!」
このつながりを
理論でも参加者の方に
お伝えそいたかったのでした。
そしてその相関を証明する先行研究を
探していたわけです。
タイトルと考察をみて、
「この論文キタ!」と心待ちにしながら
結論に向かっていきました。
しかしながら、結果は
「相関なし」だったわけです。
悲しきかな、これが現実。
■ただ、ここから学んだことは
2つあります。
まず、
『必ずしも予想通りになるわけではないのが研究』
であること。
だからこそ、面白いし、
深ぼる価値がある、とも思えます。
そう思う、でもそうとは限らないもの。
そして2つ目は、一方
『また別の視点からみると、
「相関がある」とする研究もありうる』
という視点での気づきです。
どの切り口で行うのかによって(研究対象、研究の方法など)
その結果が変わることもある。
これもまた一つの事実です。
ゆえに、視点を広く持ち続けたい、
とも思いました。
■人の心や行動は、なかなか説明がつかず、
掴みどころもないもの。
その中で、先人の知恵を借りて、
巨人の肩に乗りつつ、
少しずつンパクトを残せる確実と思えるピースを揃え、
結果につなげていきたいものだ、
そんなことを思った次第です。
論文の旅はまだまだ続きます。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
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<本日の名言>
大事なのは間違いを認めすぐ修正することだ。
修正すると、2回目は1回目より格段に優れたものになることはよくある。
エリック・シュミット
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