今週の一冊『「対話と決断」で成果を生む 話し合いの作法』
(本日のお話 2805字/読了時間4分)
■こんにちは。紀藤です。
昨日土曜日は、朝から大学院のプロジェクト。
クライアント組織への介入(コーチング導入研修)の実施。
また午後からは、大学院のメンバーと論文の情報交換。
その後、月1で通っているピアノのレッスンなど。
*
さて、本日のお話です。
毎週日曜日は、お勧めの一冊をご紹介する
「今週の一冊」のコーナー。
今週の一冊は、
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『「対話と決断」で成果を生む 話し合いの作法』
中原 淳 (著)
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でございます。
■私が小学校6年生のとき、
「クラスの運動会の旗のデザインを皆で決める」
という場面がありました。
それに対して
”1人1つずつアイデアを
書いて持ってくる”
なるお題が出されました。
正直、それなりに重たい宿題でした。
■締切後のクラス会で、黒板にずらっと
A4で書かれた40枚のイラストが並びました。
「じゃあ、多数決で取りましょう」
と学級委員か先生が発言し、
一人一票ずつ投票をしていきました。
その場に流れていた、
人気投票的な空気が印象的でした。
その時クラスの人気者だった人が書いた
何かのアニメキャラクターに決まりました。
、、、未だに脳裏に焼き付いているのが
特に話し合いもないまま、
「全く投票されなかった自分の絵と、
敗れ去った数々の絵たち」
でございました。
■子供心ながら、その背景にあった様々な思いを想像し、
なんだか虚しい思いを感じました。
(ああ、自分のアイデアは全く聞かれることなく
こうして人気者に決まっていくのだ)
そう思った記憶があります。
■「もしも」ではありますが、その時に、
・なぜその絵を書いたのか?
・何が良くてその絵にしたのか?
という思いや背景などの
「話し合い」がなされていたら、
そのような”虚しさ”は
感じなかったのかもしれません。
一言で言えば、
そこに足りなかったものとは
まさに今回の書籍でテーマとして挙げられている
『話し合い』
であったのではないか、、、、
約30年の時を経て、
そのことを思い出させられました。
■、、、と前置きが
ものすごく長くなってしまいましたが、
きっと私と親しい体験をした人
(意見が封殺される、取り入れられない切ない思いをした人)
は少なくないのでは、と思います。
あるいは今まさに、
職場でも体験をしている人も
いるのではないでしょうか。
■職場では、生産性や効率という声のもと、
様々な意思決定が行われます。
その中には、
・「小さな声」を封殺して進める
・権力の大きさに依存し合意をとって
とりあえず決定をして進める
・効率や生産性というお題目の元に、
話し合いを割愛して、納得がないままに進める
・あるいは話し合いはされるけど
特に決定はされずグタグタで終わる
などなど、様々な事象が起こります。
■そして、悪気なく
そういったことが起こってしまうことが積もることで、
誰もが意見を言わなくなる、
同調をして、アイデアが広がらなくなる。
そして当事者意識もなくなり、
結局、望まない結果になっていく、、、。
そんなことがどこそこで起こっているようです。
■そしてこれは「個人の課題」ではなく
「社会が抱える課題」とも言えます。
なぜならば、
まさに著書で語られているように、
私たちは「話し合いの作法」を
学んだことがないから。
話すことは誰でもできるし、
ファシリっぽいこともできたりするので、
そんなものだ、と思ってしまうのかもしれません。
■そんな中に必要とされているのが、
今回ご紹介させていただいている書籍、
『「対話と決断」で成果を生む 話し合いの作法』
でございます。
*
忙しく、慌ただしい日々の中では
「そもそも、なぜ私たちは
”話し合い”を行わなければいけないのか?」
などを考えることは少ないのかもしれません。
しかし、皆で一歩立ち止まって
「話し合いが、私たちに
どのような成果と未来をもたらしてくれるのか?」
を考えることは、短期でなく、
中長期的な私達の将来を考えるために、
必要なことだと感じます。
■本書から引用させていただくと、
「話し合いが必要とされている背景」について
以下3点述べられています。
1、我々は「不確実な世界」を生きる事になること
(答えがない中で知恵を絞る必要がある)
2,我々は「多様性」を乗り越える必要があること、
(増え続ける多様性の中、話し合いを通じて、共生・協調する必要がある)
3,我々は「民主主義」を守っていかなければならないこと
(言葉で伝え合い、わかり合える部分を探していかなければいけない)
こう見てみると、立ち止まり、
時間軸を未来に移して考えてみると
「話し合い」を学んでいく必然性が
否応なく腹落ちさせられるように感じます。
(特に「民主主義」のくだりなどは
本当にそのとおりだな、、、と考えさせられました。
下手をすると、本当に最悪の望まないことになる可能性もある、
とも感じます。このあたりは、ぜひ著書にて)
■そしてその上で、私たちは
「”話し合い”について学んできていないし、
深く考える機会もない」
という事実に気づき、
”「よい話し合い」とは何か?”を
定義を含めて考えること、
そして、それを実現するために
理論だけでははなく、
実践知を知ることが必要になります。
■本書においては
「話し合い」の構成要素を
”「対話」と「決断」”
という2つの軸に分けて
・対話とは何か、
・何を目指して行われるのか、
・議論や雑談と何が違うのか、
・対話によって得られる成果とは何か、
を明確にし、お互いの意見を存分に出し尽くし、
そして共有するための理論と技術を整理するとともに、
「陥りがちな落とし穴」や、
「あるあるケーススタディ」、
「良き対話を促す技術」などを
実践に移すためのヒントが存分に描かれています。
■そしてありがちな「対話だけ終わる」
(そして成果につながらない)を避けるために、
対話した内容を合意し、
行動に促すための『決断』についても示されています。
例えば、「決断の5つのルール」として
1,メリット・デメリットを明らかにする
2、多数決に安易に逃げない
3,「誰が決めるか」を決める
4,「いつ決めるか」を決める
5,「どのように決めるか」を決める
などなど。
■私が率直に思ったのは、
”ものすごく実践的である本”
という感想でした。
様々な場面で、
「対話が大切」
「お互いの合意が大切」
という意見や話はたくさん聞きます。
しかし、その話の多くは
・抽象的すぎて、
具体的にどうすればいいのかわからない
・対話だけでフォーカスされており
現場での成果を繋げるのに十分でない(ぬるい感じがする)
・つまづきポイントや、
具体的なアクションの選択肢がない
などで結局、何をしたらよいのかわからない、、、
という印象を持つものも少なくありませんでした。
■ただ、今回ご紹介の著書では
”「話し合い」=「対話」+「決断」”
と定義し、
理論と科学に基づきつつも、
実際に現場で活用されることを目指し、
そしてその先に、
日本社会が対話できる
未来が待っているように、
という大いなる願いが込められた、
一冊のように感じます。
■そして、この本で書かれていることが、
社会の中心、つまり政治や
あるいは職場の中枢で行われるようになり、
それが共通の「お作法」として
一般的な考え方になったとしたら、
今なんとなく世の中を覆っている、
「話して無駄だから、もう言わないでおこう」
という諦念が少しずつ晴れるのかもしれません。
それには時間がかかるかもしれませんが、
乱暴な力で意見を封殺せず
それぞれの意見と、それを表現しようとする努力の必要性を
皆が認識をすることが当たり前になったとしたら、
きっとより良い未来が待っていると思います。
そしてそのための指針を与えてくれる一冊、
と感じた次第でございます。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
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<今週の一冊>
『「対話と決断」で成果を生む 話し合いの作法』
中原 淳 (著)
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