コーチングの4つのバリエーション ー論文『管理職のコーチング:経験的文献のレビューと今後の実践の指針となるモデルの開発』(前半)より
(本日のお話 3554字/読了時間4分)
■おはようございます。紀藤です。
昨日は1件のコーチング、
1件のアポイントでした。
また夜は8キロのランニング。
その他、論文の執筆でした。
*
さて、本日のお話です。
現在、私が論文でテーマにしているのが
「コーチング」です。
コーチングに関連するビジネスも
それに準ずる資格取得者も増加している印象ですが
一方、「コーチング」と
ざっくり捉えることに対する危惧を唱えている
研究者たちもいます。
本日は
”コーチングの全体像を俯瞰する”上で
役に立つ論文を見つけましたので
その内容からの学びと気づきを
皆様にご共有させていただければと思います。
それではまいりましょう!
タイトルは
【コーチングの4つのバリエーション
ー論文『管理職のコーチング:経験的文献のレビューと今後の実践の指針となるモデルの開発』(前半)より】
それでは、どうぞ。
■現在、私ある企業様にて
「コーチングスキルの導入」と
それに伴う変化について
実際に定義をしたり介入をしたりして
それらの成果を論文にまとめています。
■まとめる中で、
全体像がわかっていて
シナリオ通りに進めばよいのですが
進める中で新しい知識がわかったり
最初に描いていたストーリーと噛み合わなくなったりして、
進んだり戻ったりを繰り返すこの頃です。
■中でも、特に感じることがあります。
それが
「コーチングに関する話が
色々ありすぎてよくわからん問題」
です。
(コーチングに限らないことだと思いますが)
■コーチングは「学際的なもの」とよく言われます。
書籍『コーチング心理学』(西垣,2022)によれば
11種類のコーチング手法を説明しています。
37の定義がある、という話もあります。
いや、それだけにとどまらず
まだまだあるという話もあります。。。(汗)
わけわかめです。
■そんな中で、今回ご紹介の論文が
この「よくわからん問題」に向き合っています。
論文のタイトルは、
邦訳『管理職のコーチング:経験的文献のレビューと今後の実践の指針となるモデルの開発』
原題:Beattie, Rona S., Sewon Kim, Marcia S. Hagen, Toby M. Egan, Andrea D. Ellinger, and Robert G. Hamlin. 2014.
“Managerial Coaching: A Review of the Empirical Literature and Development of a Model to Guide Future Practice.”
Advances in Developing Human Resources 16 (2): 184–201.
です。
「コーチングありすぎてよくわからん問題」、
このことについて、
・何が証明されていて、
何が証明されていないのか、
・何がエビデンスのある話で
何が「それってあなたの感想ですよね」(byひろゆき)的な話なのかについて
実践的な示唆を与えられるよう、
コーチングの文献レビューと
エビデンスに基づく情報を提供しています。
■ということで、
以下論文のポイントについて
早速みてまいりましょう!
少し長いので、今日は前半まで
ご紹介いたします。
(ここから)
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論文まとめ『管理職のコーチング:経験的文献のレビューと今後の実践の指針となるモデルの開発』(前半)
<論文の背景と目的>
◯論文の背景
・管理者コーチングは、研究面でも実務面でもますます人気が高まっている。
しかし、個人/組織の学習とパフォーマンスに与える影響を実証する経験則が
欠如していることが課題である(Hagen,2012)
◯論文の目的
・管理者コーチングに関する文献の統合的なレビューを提供すること。
**
<コーチングの4つのバリエーション>
・コーチングについて包括的な文献調査を実施し、
37のコーチングの定義を明らかにした。
・そして「コーチング」「エグゼクティブコーチング」「ビジネスコーチング」「ライフコーチング」
と名付けた4つの大分類を特定した(Hamlin、Ellinger、Beattie,2008)
・全てのコーチングのバリエーションに共通するものは以下の通りである。
「個人が様々な領域でパフォーマンスを向上させ、個人の有効性、個人の開発、個人の成長を高めることを支援するという明示的・暗黙的な意図」
があること(Hamlin et al,2008、P291)
◯「コーチング」(管理者コーチングが含まれる)
・「スキル・能力・パフォーマンスを改善し、個人の有効性や自己開発、自己成長を高める」(Hamlin et al., 2008, p. 295)ことが焦点。
(マネジャーがコーチング活動を行う場合、「管理者コーチング(マネジリアルコーチング)」と呼ぶ。
その焦点は主にスキル、能力、パフォーマンスの向上に置かれる傾向がある)
◯「エグゼクティブコーチング」
・組織の パフォーマンスを高めることを意図して個人・仕事・組織関連の目標を
達成することに焦点が当てられる
◯「ビジネスコーチング」
・オーナー/マネジャー、従業員が
個人的な目標やビジネスに関連した目標を達成することを総合的に支援する共同プロセス
◯「ライフコーチング」
・個人的な成長の目的が意図 的に拡大され、人生を変えるような体験が含まれる
**
<管理職コーチングの4タイプ>
・コーチングにバリエーションがあるように、
管理職コーチングにもバリエーションがある。
「階層型」「ピア型」「チーム型」「組織横断型」とラベル付けされている
◯「階層型コーチング」
・マネジャーが部下をコーチングするもの。管理者コーチングとして最もよく知られた形式であり、最も広く研究されている。
・その効果は以下の5つとされている。(EFMD/ EMCC,2009)
「パフォーマンスの向上」「モチベーション」「チームの結束」「定着」「紛争の解決」
◯「ピアコーチング」
・部門を超えた個人学習と組織学習の関係のこと(McDougall,Beattie(1997, 1998))
・実用的なピアコーチングの関係の多くは、社内研修や経営会議など、組織の公式な場で有機的に知り合ったことがきっかけであることが多い
・相互作用の相対的な深さから3つのピアのパターンが存在する。
「情報ピア」「実用主義」「全体主義」とされる。
・自分の直属マネジャーには必ずしも言いたくないスタッフの問題を共有できること
問題を共有できることで、マネジャーは「安全弁」を手に入れ 、ストレスを軽減することができた。
◯「チームコーチング」
・比較的研究が進んでおらず、実践もされていない分野(EFMD/EMCC, 2009)
・チームコーチングは、マネジャーにとって最も困難なものである可能性がある。
目標やゴールを設定する/合意すること/メンバーがベストな役割を果たす/他者を補完する/定期的にフィードバックを行う
チームメンバー間のダイナミクスを管理する、など複雑な項目が多数含まれているためである。
◯「組織横断型コーチング」
・比較的新しく開発されたもの。2つ以上の組織間の協力によって生まれたコーチング活動のこと。
・組織横断的なコーチングの利点は「自分の所属する組織や部門以外の知識や学習を広げる機会を得ること」である。
・最も高い効果として順に、 (a)幅広い経験へのアクセス、(b)ベストプラクティスの共有、
(c)他の組織のアプローチに関する情報へのアクセス、(d)新しいアイデアへのアクセス、
(e)他の組織に関する知識を深める機会、の6つが挙げられた。
**
<職場におけるコーチングの課題と改善点>
◯コーチング導入の課題
・コーチングが組織的に浸透していると考えているのはわずか11%
・コーチングの浸透が戦略的であると答えたのは23%
・回答者の67%は、コーチング文化はまだ生まれたばかりか戦術的(つまり、その場しのぎで低レベル)であると答えている
・コーチングに関する問題の約75%は、
"サポートの欠如"、"不十分なコーチングスキル"、"理解の欠如"の3つとされている。
◯コーチング導入のための改善点
・以下の3点がポイントである。
(a)コーチングの体系的なアプローチの構築
(b)管理職コーチのコーチングスキルと行動向上のためのトレーニング、ピアコーチング、サポートの提供
(b)コストに対する価値を評価するためのコーチング活動の評価強化
※Beattie, Rona S., Sewon Kim, Marcia S. Hagen, Toby M. Egan, Andrea D. Ellinger, and Robert G. Hamlin. 2014.
“Managerial Coaching: A Review of the Empirical Literature and Development of a Model to Guide Future Practice.”
Advances in Developing Human Resources 16 (2): 184–201.
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(ここまで)
とのこと。
■なるほど、、、。
・「コーチングの4つのバリエーション」
→「コーチング」(管理者コーチングを含む)
「エグゼクティブコーチング」
「ビジネスコーチング」
「ライフコーチング」
・「管理者コーチングの4つのバリエーション」
→「階層型コーチング」
「ピアコーチング」
「チームコーチング」
「組織横断型コーチング」
と分けてみることで、
その目的と特徴が、
より明確になるような感覚を覚えます。
■確かに、そうなのです。
民間で「ライフコーチング」を学んで、
それを「管理者コーチング」に活かそうと思っても
”文脈の違いの理解”
をする必要をしなければ、
価値を提供することは難しい、、、
この分類分けを見て、
そんなことを私は感じました。
■もちろん大きくは「コーチング」です。
ゆえに共通している項目もあります。
「個人の成長を支援する」、そこは同じです。
しかし、文脈の違い、
すなわちそこに存在しているパワーの関係、
所属する社会における共通の目的などを
捉えた上で実施しなければ、
コーチ・クライアント双方が
望む結果に到達することが
難しくなる場合もあるのでしょう。
■「わかることはわけること」などと
言われることもありますが、
自分が依って立つ領域が
どのような定義のものなのか、
そしてどのようなスキルが必要とされているのかを
理解することは、自分の専門性を高めるためにも、
有用なことであろうと思います。
■論文の後半では
「コーチングプログラムを開発・実施する際に
考慮すべき4つの領域」
が書かれていましたので、
明日はそのお話に続けさせて
いただければと思います。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
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<本日の名言>
独創力とは、
思慮深い模倣以外の何物でもない。
ヴォルテール
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