「仕事は人間性を磨くことである」は本当か?ー”働くことの意味”の研究より
(本日のお話 3988字/読了時間5分)
■おはようございます。紀藤です。
昨日は3件のコーチング。
ならびに2件のアポイント。
また夕方は、人事関連で
お世話になっている方とのお食事会でした。
(Mさん、ありがとうございました!)
その他5キロのランニング。
*
さて、本日のお話です。
最近「仕事の意味づけ」について
ふと考えていました。
つまり、
”自分は何のために働くのか?”
という問いです。
今日は、「仕事の意味づけ」の先行研究も参考にしつつ、
思うところを皆様にご共有させていただければと思います。
それでは早速まいりましょう!
タイトルは
【「仕事は人間性を磨くことである」は本当か? ー”働くことの意味”の研究より】
それでは、どうぞ。
■先月の4月上旬の話。
大手企業の新入社員の方に
「仕事の進め方」をテーマに、
新入社員研修を実施する機会がありました。
その研修の冒頭に、
「何のために働くのか?」
について、
個人個人が思う答えをチャットに書き込む、
というワークがありました。
■当然、働くとは
1つではなくいくつかの意味があるもの。
ただ、チャットに記入するものとしては、
「その人が特に強く思っているもの」が反映されることが
想定されます。
さて結果ですが、
1番多かった回答は
「お金(のために働く)」
でした。
■ふむふむ、なるほど。
実に現実的です。
自分も振り返れば、新入社員のときは、
・まずは自分でお金を稼ぐという意識を持つ
・欲しい物を自分で変えるようになるという喜び
は大きいものでしたし、
そもそも一人暮らしで生活をするためにも
とにもかくにもお金が必要ですから、
「お金が大事」というのは、実に納得できる話です。
(ちなみに、その他の回答では、
「成長すること」「価値を提供する」
などもありました)
■さて、このワークをしているとき
私(紀藤)の脳裏によぎったのが、
就活の際に出会った
とある社長がいっていたある言葉でした。
それは
「人生の目的は、人間性を磨くことである。
そして、人間性を磨くには、仕事しかない」
という強めの言葉です。
もちろん、人によりその意味は曖昧かつ、
時代を反映させる考えでもあった気がしますので
正解とは思いません。
ただ、私にとっては
生まれたての雛が親鳥に対して覚える
刷り込みよろしく、
「仕事=人間性を磨くもの」
という、なんだかマインドが刻まれており、
個人的に手放すことができない
考え方となっています。
ゆえに、私は
「仕事=人間性を磨く」
という考えが基盤にあるように感じます。
■さて、ここで皆さんとも
一緒に考えてみたいのが、
『自分は、「働くことの意味」を何に求めるか?』
です。
こうした問いを考えられること自体、
ある意味恵まれているのでしょうが
・働くことについて
自分がどんな意味を見出しているのか?
・自分はなぜ何のために働くのか?
を自覚することは、
自らのモチベーションを
上手に調整する上でも重要な問いだと
私は感じます。
社会と関わっていく上で、
仕事をすることは一つの役割ですので、
その「働く」中で、
自分自身が仕事に何を求めているのかを理解したほうが
日々ごきげんかつ快適で、納得感も高いと思うのです。
■例えば、
「仕事とはお金を稼ぐもの」
というのはよくいわれること。
お金は貰えて困るものではないから、
そこを追求をしていきたいというのは
誰もがそうだと思います。
ただ、”それだけ”かというと
そういうわけでもないかもしれません。
例えば、他にも「働くことの意味」とは
・自分自身の「価値観や信念」のため
(人間性を成長させるもの、挑戦を楽しむためのもの、
昇進して地位を高くし自尊心を高めるもの 等)
とか
・他者の存在のため
(信頼する同僚・部下・先輩のため、
あるいは家族のため、など)
とか、
・もっと大きな社会的貢献のため
(自分の命をより全体のために使う)
などなど、
様々なものが含まれているはず。
それを「お金のために働く」と
ステレオタイプ的に思考停止をして、
10年、20年、30年働き続けるのは
実際の心の奥底で思っている
自分の仕事の意味付けに蓋をしている、
あるいは、あるかもしれない
自分自身の意義の源にアクセスしないまま、
仕事に取り組むことになるかもしれず、
もったいないことのようにも感じたのでした。
■さて、ここで
「働くことの意味と意義」について
先行研究を調査した論文があります。
Rosso, Dekas, Wrzesniewski(2010)
”On the meaning of work: A theoretical integration and review”
[日本語訳]働くことの意味について:理論的統合とレビュー
この論文では以下の4つの要因が
「働くことの意味と意義」を規定すると述べています。
簡単にまとめると、
このような形になります。
(ここから)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【「働くことの意味と意義」に関わる4つの要因】
<自己>
◯価値観:
・仕事を通じて「人々が望む最終状態(価値観)を、
働くことによってそれを実現できるはずだ」と感じること
◯動機
・「仕事を意味あるもの(意義があり、やりがいがある)」と思うと
動機が生まれることがわかっている
◯信念
1,仕事への関与と仕事の中心性(関与の度合い)=現在の仕事が生活の中心である度合い
2,仕事への志向性(※)=人生の中での仕事への捉え方
3,天職 {1}仕事におけるもっとも深い自己の表現としての天職 {2}宗教的な意味の天職
※「仕事への志向性」は以下の3つがある。
・仕事:仕事は主として、仕事から離れた時間を楽しむための経済的な手段で ある
・キャリア:昇進や昇格に伴う給与の増加、名声、地位が、仕事の主要な焦点
・天職:仕事はそれ自体が目的であり、より大きな利益に貢献し、世界をより良い場所にするという信念と結びついている
*
<他者>
◯同僚:
・同僚との親密な対人関係が、従業員が職場で価値あるアイデンティティを表現し強化する
◯リーダー:
・リーダー、 そしてリーダーによる様々な仕事の出来事や状況に対する解釈、コミュニケーションは、
人々が仕事の意味づけをする上で重要な影響を持つ
◯グループ:
・職場コミュニティとの心理的同一性は、仕事の意味の重要な決定要因である。
・組織がメンバー間で緊密で家族のようなダイナミクスを生み出すほど、
従業員は自分の仕事をより意味のあるものとして経験する
◯家族:
・家族からの経済的要求が高まると、経済的報酬がより顕著になり、
仕事がより経済的な意味を持つようになる可能性が高い
*
<仕事の背景情報>
◯職務のデザイン:
・目的意識と他者へのポジティブな影響を促進するように設計された仕事が、より大きな仕事の意義を知覚させる
・自律性、技能の多様性、課題の同一性、課題の重要性が高い仕事)がその仕事の経験的な意味づけを決定する
◯組織の使命:
・従業員が自分の中核的な価値観と、組織の価値観との一致を知覚した場合、
組織のミッションは、仕事の意味の源として機能する
◯経済的状況:
・収入が不十分な人にとって、仕事の経済的価値はより顕著になる。
・経済的苦境に陥ると、個人は仕事の潜在的価値(自己実現、コミュニティ、社会的地位など)を軽視し、
仕事の顕在的価値(金銭的報酬など)を優先する傾向がある
◯仕事以外の領域:
・職場の外( 例えば、余暇活動)に大きな意味を見出す人ほど、
仕事以外の領域(例えば、趣味、社会活動、娯楽)に関連した活動を頻繁に仕事に取り入れる
人々は仕事を「仕事」ではなく、「遊び」 のように感じることで、仕事をより有意義なものにしようと努力する
◯国の文化:
・8つの文化圏における仕事の意味は似ている
・「仕事における個人の自由」「自己表現」「多様性」「興味深く満足のいく仕事」
「仕事の要求と個人の一致」といった内在的要因を評価し、
また仕事の重要な意味として「金銭的動機」を頻繁にあげていた。
<スピリチュアリティ>
◯全体的なスピリチュアリティ:
・スピリチュアルな従業員は、仕事上の活動を高い目的や意味に関連する、自分の外側にある、自分よりも大きな何かであるといった解釈をする傾向がある。
・従業員が仕事をスピリチュアルな観点から捉えた場合、その仕事は、従業員にとってより深い意味と目的を持つようになる可能性が高い
◯宗教的な天職:
天職を追求しているという感覚は、仕事における意義の経験に強い影響を与えること
※参考:Rosso, Dekas, Wrzesniewski(2010)
”On the meaning of work: A theoretical integration and review”
※立教大学大学院授業資料より一部抜粋
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(ここまで)
とのこと。
■なるほど、なかなか興味深いです。
こうみると、先程の例も合点がいきます。
たとえば、新入社員は
給与が一般的には高くない状況とすると
”「経済的状況」”
(収入が不十分な人にとって、
仕事の経済的価値はより顕著になる)
が働くことへの意味づけに
より大きな影響を与える、、
と見ることができるのかもしれません。
また、家族がいて
生活費&教育費が必要な場合、
”「家族」”
(家族からの経済的要求が高まると、経済的報酬がより顕著になり、
仕事がより経済的な意味を持つようになる可能性が高い)
が働くことの意味に
大きな影響を与えるとも思えます。
■そして、私(紀藤)が思っていた
「仕事=人間性を磨くもの」
という考えは、
”「信念」=人生の中での仕事の捉え方”
が反映されています。
上記の「仕事は人間性を磨くことである」が本当かと言われれば
”万人にとっての真実ではないが、
本人(紀藤)にとっては意味があること”を、
といえるのでしょう。
ただ、私にとってはそれが一つの信念となっているのであれば
そこから目を背けることは、どこか働く上でのもやもや感を
残してしまうことになると言えそうです。
■自分にとっての
”働くことの意味”とはなにか?
論文の項目も参考にしつつ、
自分が大事にする価値観、信念などを
見つめることも大事だと思いますし、
それを元に、キャリアの方向性を考えることも
長い仕事人生では、大切なことなのだろうな、、、
と思います。
またこうした観点があることで
もし組織のリーダーであれば、
”組織の使命”
(組織を一つの方向に定めるために、
組織の価値観と個人の価値観をすり合わせる)
なども活用できるので、
こうした観点を持つことも
日々の仕事のモチベーションを高める上でも
大切なことなのだろうな、、、
そんなことを思った次第です。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
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<本日の名言>
良心に照らして少しもやましいところがなければ、
何を悩むことがあろうか。
何を恐れることがあろうか。
孔子
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