今週の一冊『リスキリングは経営課題~日本企業の「学びとキャリア」考~』
(本日のお話 2219字/読了時間3分)
■こんにちは。紀藤です。
引き続き、宮崎にて。
さて早速ですが、本日のお話です。
毎週日曜日は、お勧めの一冊をご紹介する
「今週の一冊」のコーナー。
今週の一冊は
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『リスキリングは経営課題~日本企業の「学びとキャリア」考~』
小林 祐児 (著) /パーソル総合研究所
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です。
■最近、私がお付き合いをしている
クライアント企業でも、
「リスキリング」
というキーワードに注目し
施策として取り上げているところも
少なくありません。
■その文脈には、昨今の
・人的資本経営
・DX(デジタルトランスフォーメーション)
・従業員のキャリア自律
などの概念が絡みます。
■そんな中で、本著書は
「リスキリング」という流行語が、
ただそれだけで終わらせないために、
・そもそも日本人の「学び」の現状は
どのようになっているのか?
・リスキリングを日本の文脈で
定着させるためには、どのような問いが必要で
何を行えばよいのか?
などの根本の問題を
丁寧に探っていきます。
■具体的には何が書かれているのか?
まず本著書では、
「世界各国でリスキリングが進む中で、
日本のリスキリングは圧倒的に遅れている」
という事実から始めます。
その中で、リスキリングが
叫ばれているのにも関わらず、
そして政府も5兆円をリスキリングに投じる、
と岸田首相が述べているにも関わらず
著者はそれらの未来が明るくない、、、
と述べています。
そしてその理由を
”「リスキリング」のそもそもの問題を
スルーしてしまっている”
というような話を述べています。
■例えば、
「リスキリングの概念が
「工場モデル」を前提としているが
それは現実的ではない」
という話。
・リスキリングは、DX戦略とも紐付いているような文脈で語られる。
・企業のDXに関するあるべき姿を描き、
そこに対して欠如している人物の質と数を明確にする。
そこにはまる人を教育して当てはめる、という考え方が工場モデル。
・しかし、殆どの企業は、DXに関わる戦略を、
具体的な必要な人の数と質を明確にできるほどにできていないし、
変化が激しいDXの市場についてはそもそも難しい。
・加えて、日本企業は職能主義であり、
スキルの専門性や幅だけで、その人の能力を決めることはできず
社会人基礎力など「うまくやる力」を重視する。
・そんな状況で「リスキリングする先の人材の鋳型」を決めて、
その通りに教育する(=工場モデル)は現実的ではない。
あるいは
「リスキリングの学びは
「個人の学び」を前提としていることの問題」
も語られます。
具体的には
・現在(残念なことに)
日本人は「世界一学ばない」&「なんとなく学ばない」状態である。
・学ばないことが空気のようになっており
そこに対する問題意識が共有化されているとははいえない。
・としたときに「学びの遍在性(学ぶ人は学ぶ、学ばない人は学ばない)」を
解消する流れを作ることは難しいだろう。
・それは、日本のキャリアが中動態的(会社主導のキャリアではあるが、
組織の異動などを含めて、会社主導のキャリアでもそこそこ楽しくやれる。
受け身(受動的)と主体的(能動的)の間くらいである)という特徴も影響している。
・学ばないことが「なんとなく&皆の当たり前」である状態で
「リスキリング」を伝えるのは難しい難題である
などの内容が書かれています。
加えて、
日本のムラ社会的な文化が
横のつながりが強いがゆえに起こる副作用として働き、
「このやり方を提案すると
職場で反対されそうだ。
色々と面倒くさいことがありそうだ」
(=変化抑制のメカニズム)
「それに、みんな今のままでいいと、思っているに違いない」
(=多元的無知のメカニズム)
などが働き、
ますます変化に対して
抑制するような意識と行動に繋がっていく、ともしています。
■そうした、
「リスキリング」
という言葉に紐づく
・個人に紐づく感覚
・DXとつなげる非現実さ
・日本特有の文化的な変化起こしづらい風土
「学ばないこと」に対して
空気のようになんとなく学ばないが
蔓延しているこの状況に対して
リスキリング研修などで
「職場でそれぞれ学んでください」
というメッセージ”のみ”届けたとしても、
政府が5兆円をリスキリングに投資したとしても、
日本の労働市場を転職しやすいように整えたとしても、
根本の仕組みを考えなければ、
それらを変えることは極めて難しいだろう、、、
と論じるのでした。
■そのような
「リスキリングの概念」への疑義、
「変わらなさ」の根本にあるものを
丁寧に紐解いた上で、
本書では、
リスキリングを支える「3つの学び」として
以下の話を提唱しています。
1)アンラーニング(捨てる学び)
2)ソーシャル・ラーニング(人を巻き込む学び)
3)ラーニング・ブリッジング(社会ネットワークでつながる知)
の3つです。
■そしてこれらが、
日本人の特徴である、
地縁、血縁、宗教縁が希薄で、
学びに大きな影響を与えうる社会的な関係が
「社縁」をリソースとしたものであることを活用した
『リスキリングは経営課題』
という本書のテーマに紐づくことになります。
日本において
「リスキリング」を推進するプレイヤーは
やはり「企業」になると後半へ続けていきます。
■本書全体を通して、
パーソル総合研究所の豊富なデータと
心理学、社会学、組織論、経済学など
豊富な理論が紹介されており、
一つ一つに説得力があり、
腹落ち感がある内容となっています。
”「リスキリング」というけど、
ブームで終わっちゃうんだろうな感”
の背景にあるものを
言語化してくれた書籍と思いますし
この書籍で提案しているようなことを
丁寧に土台として積み上げることができたら、
きっと学びに対してのインパクトも
もたらされるような気もしました。
■日本人は良くも悪くも、
”日和見主義”
(形成を見て、有利な方に追従する)
のきらいがあるように感じます。
小学生時代の学びによる
PISAのスコアの高さも然り、
大人になってから
皆が一斉に学ばなくなることも然り。
その中で、
日本の未来の方向を決めることは
”学び続ける国”
として子供も大人も、
皆が当たり前に思える国になれたら、
もっともっと未来に向けて明るい国になれるのでは
とも思いました。
まずは「大人がなんとなく学んでいない」、
この事実を受け止め、
本当にそれで良いのかを含めて、
(これが難しそうですが)
皆で学び合うことを当たり前にする、
そんな状態に近づいていきたいものだ、
自分自身を含めて、
そんなことを思った次第です。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
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<今週の一冊>
『リスキリングは経営課題~日本企業の「学びとキャリア」考~』
小林 祐児 (著) /パーソル総合研究所
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