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3568号 2023年12月1日

「ポジティブな感情」がもたらす3つのメリットとは? ー『ポジティブ感情の拡大構築理論』ー

(本日のお話 4093字/読了時間5分)

■こんにちは。紀藤です。

昨日は、某企業の皆様への、
ストレングス・ファインダー研修の実施。

手挙げ式で合計400名もの方が
エントリーいただいた研修の中の、
「個別セッション」という形で実施をさせていただきましたが、
皆様、前向きかつ大変積極的に取り組んでいただき、
ありがたいな、と感じた時間でした。

強みに注目する組織風土づくりのため、
引き続き尽力してまいります。
(ご参加いただいた皆様、ありがとうございました!)



さて、本日のお話です。

今日も引き続き「強み」に関連する論文をご紹介いたします。

とはいいつつ、今回の論文は
直接は「強み」を取り上げているわけではありません。

ただ強みについてわかっていることは、「強みを扱うとポジティブ感情が高まり、それが様々な成果に繋がる」ということです。
しかし、「なぜ、ポジティブな感情が望ましい成果につながるのか?」については、曖昧なところが多く、本論文はその「ポジティブ感情がもたらす影響」について理論とした論文なのです。

ということで、早速中身をみてまいりましょう!

タイトルは、

【「ポジティブな感情」がもたらす3つのメリットとは? ー『ポジティブ感情の拡大構築理論』ー】

それでは、どうぞ。

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<今回の論文>
『ポジティブ感情の拡大構築理論』
Fredrickson, Barbara L. (2004). “The Broaden-and-Build Theory of Positive Emotions.”
Philosophical Transactions of the Royal Society of London. Series B, Biological Sciences 359 (1449): 1367–78.
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■論文のざっくりポイント
・本論文で確かめたいことは2つである。

・1つ目が、「ポジティブな感情は、個人の思考と行動のレパートリーを拡げる」ということである。
例えば、”喜び”は遊びたい、”興味”は探検したい、”満足”は味わい尽くしたい、”愛”は安全で親密な人間関係を築きたいというように。これらの証拠を見つけていきたい。

・2つ目が、「ポジティブな感情がもたらす結果」である。
これらは創造的行動やアイデア、社会的な絆を生み出し、個人的資源を増やすと考えられる。
そしてそれらの資源は、対処能力やサバイブ力を高める。

・そして、今回の論文ではそれらの「ポジティブ感情の拡げて築く(ブロード&ビルド)」理論を裏付ける経験的な証拠を検討する。

とのことでした。
どういうことか、まずはポジティブ感情の歴史から紐解いていきましょう。



■ポジティブ感情の研究の歴史
<「ネガティブ感情」に比べ、「ポジティブ感情」は軽視されている>

伝統的な心理学では「問題」に焦点を当ててきました。
つまり、恐怖症、不安障害、うつ病、摂食障害etc…。
ポジティブ心理学が生まれるまで、ネガティブな感情の方が注目度が高く、かつネガティブ感情については対処の方法なども開発されてきたようです。
しかし、論文当時は、まだポジティブな側面に焦点を当てることへは抵抗感もあり、かつどういった効果があるかも示されていませんでした。
ゆえに、”軽視されてきた”傾向があるようです。(この論文は2004年なので、特にそうなのでしょうね)

<ポジティブ感情は、関連する感情状態と混同されがち>

ポジティブな感情は、その他の感情・感覚と曖昧になりやすいようです。
たとえば、「感覚的快楽(空腹感の充足、性的満足など)」との違いも曖昧にされやすく、また「ポジティブな気分」という”気分”と”感情”の違いも、ごっちゃにされがちのようです。
(ちなみに『感覚』の特徴は、意味ある状況(対象がある)・一時的(短い)・意識の前景にある」。『気分』の特徴は、
「意味ある状況でない(対象がない)・継続的(長続き)・意識の背景にある」という違いがあります)

<ポジティブ感情は「近づきたい・続けたい」という衝動を促す>
ポジティブな感情の特徴は、”物事への接近行動・継続行動”を促します。
つまり、ネガティブ感情には、思考と行動を拡大するような効果はありません。
一方、ポジティブ感情は、対象物に対して興味が湧いて、やってみたい、もっと知りたいと思う感情を生み出します。
ポジティブ感情を構成する概念の「喜び・興味・満足・愛」などもそう。例えば、
・喜び=遊びたいという衝動
・興味=探索したいという衝動
・満足=味わい尽くしたいという衝動
・愛=安全で親密な人間関係をつくりたい
という衝動につながるのです。



■ポジティブ感情のブロード&ビルド理論
ポジティブ感情は、”人々の瞬間的な思考と行動のレパートリーを拡げ、永続的な個人的資源を構築する”ため、
これを「ポジティブ感情の拡大構築理論(ブロード&ビルド理論)」と呼んでいます(Fredrickson, 1998, 2001)

ネガティブ感情は、生命を脅かす状態で、リスクや不安を察知し、生命を救う上で機能していました。
しかし、そのような状況でポジティブ感情が起こることはほぼありません。
一方、ポジティブな感情には、思考や行動のレパートリーを拡げる機能があります。
つまり、頭に思い浮かぶ思考、また行動しようと思う選択肢の幅を広げてくれて、限界に挑戦したり、創造的であることを促してくれます。
そして、選択肢が広がり行動して獲得したことは、その人の個人的資源を築きます。

ポイントは「ポジティブ感情によって獲得された個人的資源は永続的である」という点です。
すなわち、ポジティブな感情を起点に「やってみよう!」と行動し獲得したことは、その人の「生涯の武器」になるということです。


■研究結果に基づくメリット
以下、ポジティブ感情に関連する研究結果です。
論文ではその他2つ紹介されていましたが、似ているものもあると感じたので、そのうち3つだけ紹介いたします。

【(1)ポジティブ感情は「思考と行動のレパートリーを拡げる」】
ある研究ではこんなことが行われました。

1,参加者に「感情を喚起する映像」を見せて、喜び・満足・恐れ・怒りといった特定の感情を誘発させた。
2,映像の内容から離れ、同じような感情が起こる状況を想像してもらい、その感情を呼び起こし、参加者にその場で何をしたいと思うか?について考えてもらった。「~したい」というフレーズで始まる文章を書いてもらうように依頼した
3,結果、ポジティブ感情条件(喜び(joy)・満足(content))の参加者は、ネガティブ感情条件(恐怖(fear)・怒り(anger))の参加者に比べて、やりたいことをより多く挙げていることがわかった。

これらの実験から、ポジティブ感情のブロード&ビルド理論の仮説が支持されると考えることができます。

【(2)ポジティブ感情は「レジリエンスを高める」】

こちらについても、ある研究が紹介されています。以下のような研究です。

1,参加者全員に対して、「ネガティブ感情を誘発し、元に戻す」ということを行った。
具体的には、時間的制約があるスピーチ課題を参加者に与えた(1分の準備時間&ビデオに撮られる&評価もされる)。
このスピーチによって、心拍数・血圧の上昇などが起こった。
2,次に、参加者に映像を見せた。
2本はポジティブな感情(喜び・満足感)を誘発するもの、1本はニュートラルなもの、1本はネガティブな感情(悲しみ)を誘発するものとした。
3,その結果、ポジティブ感情条件(喜び・満足)の参加者が、ニュートラル、ネガティブ感情(悲しみ)に比べてストレスによる心拍数・血圧の上昇からの回復が早いことがわかった。

以上のことから、ポジティブ感情は、レジリエンス(心理的回復力)を高める、という仮説を支持すると考えられます。



【(3)ポジティブ感情は、「個人的資源を築く」】
ここでは大学生に対してのある実験が紹介されています。

1,1ヶ月間、毎日の様々な経験(最高な経験・最悪な経験・一見平穏な経験)の中に、ポジティブな意味と長期的な利益を見出すように求め、ポジティブな感情を覚えるように促したした。
2,1ヶ月後、ポジティブな感情を見出す努力を促した学生と、何もしなかった学生を比較した。
3,その結果、何もしなかった学生と比較して、ポジティブな感情を見出す努力をした学生は、心理的回復力(レジリエンス)が向上していた。

という実験です。つまり、ポジティブな感情を見出すことは「個人の心理的資本の一つであるレジリエンス」を向上させることに繋がることを支持しています。



■ポジティブな感情が集団に与える影響
<ロサダの研究>
ロサダ(1999)は、60組の経営チームを調べた研究を行いました。
具体的には、以下のような研究です。

1,60の経営チームが年次戦略計画策定ミーティングを行う様子を観察した。それを鏡の向こうで、全ての対話を記録した。
2,対話の内容を3つのカテゴリ「ポジティブ-ネガティブ」「質問-主張」「自己-他者」で評価をした。
3、結果、最も成果が出ている経営チームは、「ポジティブ」の比率が最も高いことがわかった(ポジティブ:ネガティブ=3:1)

<ゴッドマンの研究>
またゴッドマン(1994)では、79組の夫婦を観察した研究を行いました。
以下のような研究です。

1、平均結婚5年の夫婦79組を観察し、彼らの間で対立が続いていることについて話し合ってもらった。
2,対話の様子から、「ポジティブorネガティブな言動」「ポジティブorネガティブな感情」に焦点を肯定的な言動に焦点を当てて調査した。
3,その結果、長続きし、パートナー双方が満足している結婚は、ポジティブな対話の比率が高かった。



■まとめと個人的感想
本論文では、「ポジティブ感情の拡大構築理論(ブロード&ビルド理論)」として、ポジティブ感情が、思考や行動のレパートリーを拡げることを支持する経験的な証拠を集めて紹介しています。

なんとなくポジティブな感情は大事だよね、ではなく、ポジティブ感情のほうが「~したい」と思うリストが増えるとか、血圧や心拍数の上昇からの回復が早いなど、関連するエビデンスを示されると、なるほどなあ・・・と説得力が生まれます。

そして、このポジティブ感情の拡大構築理論が、「強みによるポジティブ感情の誘発」へと繋がり、この後の強み研究にも引き継がれていきます。
ポジティブというと、自己啓発チックだね、ワクテカだね、と片付けられそうですが、こうして意味を探求すると深みも感じられます。

ポジティブ感情に注目した理論の先駆けとして、大変参考になる論文でございました。

最後までお読み頂き、ありがとうございました。

※本日のメルマガは「note」にも、図表付きでより詳しく掲載しています。
よろしければぜひご覧ください。
「note」の記事はこちら

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<本日の名言>

ようやく喜びを信じることができ、喜びを抱きしめるとき、
あなたはすべてのものと踊っている自分に気がつくでしょう。

エマニュエル
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