強みの活用を「組織と個人」でわけて考察した論文 ~強み活用とワークエンゲージメントの構造モデル~
(本日のお話 2958字/読了時間5分)
■こんにちは。紀藤です。
本日のご紹介の論文は、2014年に発表された南アフリカの401名に対する「強みの活用とワークエンゲージメントの関係」を探求をした論文です。それでは早速みてみましょう!
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<ご紹介の論文>
『職務資源、組織的・個人的な強みの活用とワーク・エンゲージメントの構造モデル』
Botha, Cheri, and Karina Mostert. 2014. “A Structural Model of Job Resources, Organisational and Individual Strengths Use and Work Engagement.” SA Journal of Industrial Psychology 40 (1). https://doi.org/10.4102/sajip.v40i1.1135.
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■10秒でわかる論文のポイント
・強みを活用し、職場のパフォーマンスを高めようとする行動を「ポジティブ組織行動」という。
・本研究では、ポジティブ組織行動の考え方に従い、強みの活用とワークエンゲージメントの関係を調べた。
・研究の結果、従業員が「強み活用のサポート感を感じること」と「強みを主体的に活用しようとすること」は、ワークエンゲージメントを高めることがわかった。
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■本論文で抑えておきたい理論と概念
本論文は、2014年のものです。その当時はまだ職場における強みの活用等について、多くの研究がされていなかったと思われる中で、いくつかの概念から、強み活用とワークエンゲージメントの関係を解き明かしました。以下、論文に関連する概念を整理してみます。
◯関連する概念1:「職務要求-資源モデル」
・「職務要求」(Job Demands):仕事の遂行に必要な労力やスキル、その結果として生じる物理的、心理的、社会的なコスト
・「職務資源」(Job Resources):仕事の目標達成を助け、仕事で必要とされる能力を育成し、仕事の要求やストレスと効果的に対処するための物理的、心理的、組織的な側面
この2つのバランスが、仕事のストレスや、ワークエンゲージメントに影響すると考えるモデルです。そして、「強みの活用のサポート」は「職務資源」の一つに入ると考えました。
◯関連する概念2:「知覚された強み活用の組織的支援(POSSU)」
いわゆる、従業員が「強み活用の組織からのサポート感」を感じることです。正式名称は、「知覚された強み活用の組織的支援(Perceived Organizational Support for Strengths Use)」(略してPOSSU)です。この尺度については、本論文の著者が1年前の2013年に、本概念の尺度を開発した論文を発表しています。
この概念を「組織による強みの活用」というカテゴリとして考えました。
◯関連する概念3:「強み活用に対する主体的行動(PBSU)」
一方、強みの活用は”個人”という観点もあります。それが「従業員による強み活用に対する主体的行動(employee's proactive behavior towards strengths use)」(略してPBSU)です。
この概念は「個人による強みの活用」というカテゴリとなります。
◯関連する概念4:「ポジティブ感情の拡大構築理論」
ポジティブ感情を持つと、思考や行動のレパートリーが拡大する、そして個人資源が増えるという理論です。前向きな気持ちを感じると、好奇心を持ったり、他者と繋がりたいと思ったり、選択肢が拡がるわけです。
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■研究の全体像をざっくりまとめ
さて本研究の全体像について、ざっくり見てみましょう。
以下研究の目的~調査方法、その結果について整理します。
◯研究の目的
強みの活用(組織と個人レベル)がワーク・エンゲージメントにどのように影響するかを実証的に検討すること
◯研究の対象者
南アフリカで働く様々な職種の従業員401名。
平均年齢36.8歳。白人43%、黒人38%、混血12%。
◯調査方法と結果
(1)以下の調査項目を測定し、それぞれの「相関を測定」した。
・「経歴的な特徴」(年齢、性別、母国語、人種、教育レベル、世帯状況、役職、勤務年数など)
・「職務資源」(自律性、同僚との関係、上司との関係、情報、参加)
・「知覚された強みの活用の組織的支援(POSSU)」(7項目)
・「強みの活用に対する主体的行動(PBSU)」(8項目)
・「ワーク・エンゲージメント」(4項目)
(2)ワーク・エンゲージメントを目的変数とし、他項目を独立変数として関係を調べた(重回帰分析)
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■研究の仮説
・仮説1:「職務資源」が高いと「ワーク・エンゲージメント」が高まる
・仮説2:「知覚された強み活用の組織的支援」が高いと「ワーク・エンゲージメント」が高まる
・仮説3:個人の「強み活用に対する主体的行動」が高いと「ワーク・エンゲージメント」が高まる
■研究の結果
まず、以下が相関分析の結果です。
◯わかったこと1:ワークエンゲージメントと各尺度は相関があった
ワークエンゲージメントとの各項目の相関を見ると、自律性、同僚との関係性、上司との関係性、情報、参加、POSSU、PBSU、すべてで正の相関があります。(すべてのp値は0.01以下と補足にありますので統計的に有意です)
ちなみに、効果量を上から並べると、「POSSU」(0.53)→「情報」(0.50)→「上司との関係性」(0.49)→「PBSU」(0.49)となっています。中程度~大程度の効果を持つと考えられます。
◯わかったこと2:ワークエンゲージメントに直接影響を与えているのは、POSSUとPBSUのみ
次に、ワークエンゲージメントを目的変数として、各項目の関係を調べました。そうしたところ、ワークエンゲージメントに有意に影響を与えているものは、POSSUとPBSUのみとなりました。(職務資源の中で上司との関係性がが有意となっていますが、全体としては有意とはならなかったようです)
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■まとめ
本論文の貢献は、強みの活用を「組織」と「個人」の2種類に分けて考察をしたことです。そう、幾度となく登場してきている、「知覚された強みの活用の組織的支援(POSSU)」(組織)、「強みの活用に対する主体的行動(PBSU)」(個人)ですね。
そして、それぞれがワークエンゲージメントに影響を与えていることがわかりました。そう考えると、組織と個人、それぞれが強み活用に尽力することがエンゲージメント向上施策としては有効と言えそうです。
途中、構造モデルの分析方法がいまいちわからなかったのですが(勉強不足です)、きちんと読み解こうとすると、もっと統計についても詳しくならないといけなんだなー。。。と考えさせられた論文でもありました。
卒啄同時ではないですが、環境からの支援する力と、自分で行動しようとする力が合わさってこそ、施策は有効となりえるものだ、という重要なメッセージを含んだ論文であると感じた次第です。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
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