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3579号 2023年12月12日

組織における「強み活用の8大テーマ」を考察した論文 ー『組織における強みの活用: 産業保健のポジティブ・アプローチ』

(本日のお話 3567字/読了時間5分)

■こんにちは。紀藤です。

さて、本日ご紹介する論文は、2018年にオランダの研究者から発表された「組織における強み活用のレビュー論文」です。

2017年までの組織における強み活用に関連する各種研究を概観し、その歴史や理論を整理した上で、検討が必要であることはなにかを整理した論文。そしてそこから、これから探求が必要なテーマについて解説がされており、強み活用の全体地図を見渡すことを可能にしてくれる内容でした。ということで、早速みてまいりましょう!

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<ご紹介の論文>
『組織における強みの活用: 産業保健のポジティブ・アプローチ』
Bakker, A. B., and M. van Woerkom. 2018. “Strengths Use in Organizations: A Positive Approach of Occupational Health.” Canadian Psychology/psychologie. https://psycnet.apa.org/record/2017-29276-001.
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■産業保健の世界と強みの活用
本論文のタイトルには『産業保健(Occupational Health)』とあります。
産業保健とは、かつて危険因子や疾病、機能障害に焦点を当てたアプローチが伝統的でした(つまりマイナスを埋めるという考えですね)。

しかし、「産業保健」の目的は、職業上の健康と繁栄を目指しています。ゆえに、マイナスを埋めるだけが目的ではなく、「イキイキした労働力を確保することが大事である」わけであり、そのためにはポジティブなアプローチも役立つのではないか、と考えたのでした。

そんな前提を元に、本論文のタイトルは『組織における強みの活用: 産業保健のポジティブ・アプローチ』とされているようです。

■強み活用の全体像をたどる
本論文は、強み活用の全体像を、順を追って辿っています。以下、歴史→理論→測定方法→活用の前兆という流れで見ていきましょう。

◯強み活用の歴史
強みを活用することを大きく「強みに基づく実践(Strength Based Practice:SBP)」といいます。有名になってきたのは2000年頃、ポジティブ心理学と繋がってからと思われますが、歴史を遡るとソーシャルワークやメンタルヘルスの文脈ではもっと前、1980年代から登場していたようです。
SBPは、精神疾病の病理学的な治療に変わるものとして登場し、2000年になるとセリグマンを始めとしたVIA、ギャラップ社のストレングスファインダーなど、強みを特定するアセスメントが開発されたり、強みを活用することが幸福に繋がるという研究が進んでいきました。

◯強みの活用の理論
次に、「強みを活用するメリット」について、これまでの理論や研究の整理です。たとえば、強みを活用することで自己効力感が高まる、強みを活用することで自己実現の傾向が高まる、強みの活用によって有機的な価値づけ(自分が大切にしていることを大切にしている感覚)と誇りが高まる etcです。
そして強観の活用に関連する理論として「幸福で生産的な労働者のテーゼ」や「ポジティブ感情の拡大構築理論」などの土台となる考えと、より職場での成果に繋がる理論・概念である「職務要求-資源モデル」「ジョブ・クラフティング」などを紹介しています。

◯強みを測定する方法
また、”強みの概念”を測定する方法は、VIA、ストレングス・ファインダーなどですが、もっと幅広く「強みを理解しているか」「強みを活用しているか」を尋ねる質問もあるわけです。
それらを「強みの知識/強みの活用の測定尺度」の開発のされた論文や、「知覚された強み活用の組織的支援」という組織からの強み活用のサポート感を測定する尺度が開発されている研究を紹介しています。

◯強みの活用の前兆
強みを活用するにあたって、「自分の強みを知っている(強みの知識)」などはその前兆となるようです。また人は、無意識にネガティブな側面にフォーカスしがちなので、こうした強みを活用する意義を理解しているかも、強みの活用の前兆となります。
では、その「前兆」なるものをどう高めることができるのか。そのための手法として、「リフレクテッド・ベストセルフエクササイズ」「フィードフォワードインタビュー」などが活用できると述べています。

◯強み活用の結果 他
その他、強みの活用における結果(自尊心の向上、職務遂行能力との相関、病欠の減少)などが示唆されていること、また職務要求-資源モデルによる各種研究が紹介されていました。

■組織における強み活用の8大テーマ
さて、これらのことを踏まえて、今後、組織における強み活用で探求すべきのテーマとはなにか?を著者らは提唱しています。以下、ポイントを私なりにまとめてみました。

(1)「強みの定義」を終える
・強みの定義について意見が分かれているため、合意を取ることが必要。
・強みの活用とその結果の関連性を説明する理論的な枠組みが不足している。
・「強み活用支援」が新たな職務資源として、社員の幸福度を向上させる可能性があるが、まだ道半ばである。

(2)「強みの活用は成果に因果があるのか」を確かめる
・強みの活用と成果の間には相関関係はあるものの、因果関係が不明確である。
・エビデンスに基づく強みの活用を推進するための研究が遅れている

(3)「強みの使い方が分かりづらい問題」を考える
・強みの「使い過ぎ」または「不適切に使われた」際に、弱みに転化することへの対処はどうすればいいのか。
・自分の強みがわかっても、職場で求められたことに役立たないと無気力になる。(例:「好奇心」が高くても、それを職場で使いようがないと途方にくれる)

(4)「多様な個人(高齢者・障害者など)の強み」をもっと活かす
・例えば、高齢者は将来の時間的展望が限られているため、本物である(自分らしい)と感じたり、感情的に意味のある目標を優先する。その際に、「強みの活用」がそれらに役立つと思われる。
・また障害を持つ人の、ユニークな資質に注目することで障害者のステレオタイプ化を打ち消す手段になり得る。

(5)「強みをチームレベルでどう活用するか」問題
・特に組織においては、自分の強みは単独で活用する人はほとんどいない。個人の強みが他の人に気づかれ、利用され、評価されるかどうかは、チームの状況に影響される。
・トランザクティブ・メモリーシステムによる研究(グループ内で誰が何を知っているかの共有認識)などを展開して、チームの相互理解を成果に繋げる研究なども必要。

(6)「強みを活用✕リーダーシップ論」への展開
・変革型リーダーシップ理論では、「個人の配慮」が必要であるという。
・リーダーはフォロワーに対して、”自分の強みを使うように刺激し、仕事に活用する”ことを促すと、個人の職務資源が拡張し、エンゲージメントにプラスの影響がある可能性がある。ここも探求していきたい。

(7)「強みは不足を対処するために使えるのか」問題
・たとえば、「ユーモア」という強みがある。これは「仕事のストレス」という不足点を対処することや、創造性の欠如を補うことができる可能性がある。

(8)「強みの発動する条件を調べること」が大事
・「リーダーシップ、優しさ」のような外向性を持つ性格特性は職務遂行能力に正の影響があるとされている。
・しかし、厳しい現実の状況に対応するのは、「人前で話す」「会話を始める」など具体的な行動にかかっている。とすると、この強みを発揮するため予測因子はなにかも探求したい。

■まとめ
レビュー論文は、まさにその時点での「その研究テーマにおける全体地図」のようなものです。これを読むと、これまで自分がどんな論文を読んできて、そして何を読んでいないのかが明らかになりました。

こうした後半な研究論文を、読み続けてまとめていただける研究者のお陰で、知識が世界に広がり、皆でそのテーマの研究を進めていくことができるのだろうな、と研究と実践に繋がります。論文を読むほど、「先人からのバトン」の上に、研究は成り立っているんだな、と感じた次第です。

私は研究者ではないですが、実践に軸足を起きつつ、こうした論文を簡単に解説しつつ、皆様に粛々とお届けできればと思います。

最後までお読み頂き、ありがとうございました。
本日も皆さまにとって、素晴らしい1日となりますように。

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よろしければぜひご覧ください。

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