スピリチュアリティは遺伝する?! 双生児336人に調査をした結果わかったこと
(本日のお話 3634字/読了時間4分)
■こんにちは。紀藤です。
引き続き、沖縄にてワーケーションに来ております。
ずっと曇り(というか嵐のような強風)でしたが
初めて晴れ間が見えました。
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さて、本日のお話です。
さて、本日ご紹介する論文は、
「人生の意味、宗教性、スピリチュアリティにおける遺伝的・環境的影響」というタイトルのものです。
宗教性やスピリチュアリティに馴染みがないと、なんだか怪しい・・・、と思われるかもしれませんが、「スピリチュアリティ」は、VIAの性格的強みの24分類の一つに数えられています。また「人生の意味」は人生の目的意識にも繋がり、働くことや挑戦課題の意味付けにもつながることが先行研究で示されています。
では「人生の意味、宗教性、スピリチュアリティは、遺伝するものなのか!」を調べてみようじゃないか、というのが今回の研究のテーマとなります。
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<今回ご紹介の論文>
『人生の意味、宗教性、スピリチュアリティにおける遺伝的・環境的影響と共分散』
Steger, Michael F., Brian M. Hicks, Robert F. Krueger, and Thomas J. Bouchard. 2011.
“Genetic and Environmental Influences and Covariance among Meaning in Life, Religiousness, and Spirituality.” The Journal of Positive Psychology 6 (3): 181–91.
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■30秒でわかる本論文のポイント
・心理学者たちは、「自分の存在」の意味に関する個人の信念と、それらがもたらす成果の相関を研究をしてきた。
こうした個人の信念は、「個人の人生が重要か」「宇宙全体・あらゆるものの根底に特別な意味があるかどうか」や、特定の宗教的実践など、様々な行動・態度に影響を与えると考えられる。
・本研究では、こうした信念に影響すると考えられる「人生の意味」「スピリチュアリティ」「宗教性」の相互関係を理解することを目的とした。
・研究は、中年双生児343人に上記質問を行った。遺伝的影響をその結果、「人生の意味」「スピリチュアリティ」「宗教性」は、遺伝的・環境的影響を受けていることが明らかになった。
というお話です。
後ほどで出てきますが、「遺伝的な影響」を調べるために、「一卵性双生児」と「二卵性双生児」のグループを比較する研究方法を用いています。
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■スピリチュアリティと成果の関係
スピリチュアリティの定義も多岐にわたり、職場スピリチュアリティの学術的な定義は70以上にもあり、統一された定義はない(Markow & Klenke, 2005)とされています。
一方、多くの定義には、「仕事が天職であるとの感覚」「自己調節の感覚」「他者との連帯感やメンバーシップ」の3つの要素が含まれる(Benefiel, Fly, & Geigle, 2014)とのこと。
また、天職に関する実証的な研究結果は少ないものの、仕事が天職であると認識した場合、人々は自分の仕事をより意味のあるものと考える傾向があることが示唆されている(Rosso, Dekas, Wrzesniewski, 2010)と述べている論文もあったり、あるいは「強みと天職」についての研究論文で強みの活用が仕事を天職と感じさせ、人生満足度も高まるともあります。
つまり、「スピリチュアリティ」→「天職と感じさせる」→「仕事の意味感、人生満足度」というようなモデルが(雑ですが)想定されるとも言えそうです。(こちらは私の推測です)
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■本研究の全体像
さて、本研究ではそんなスピリチュアリティや人生の意味などを遺伝的・環境的要因から解き明かすことにチャレンジしているわけですが、この研究の目的や調査の進め方はどのようなものなのでしょうか? 以下、論文からまとめていきたいと思います。
<研究の目的>
1,「スピリチュアリティ」と「人生の意味」に対する遺伝的・環境的影響を探求するための出発点を提供すること。
2,「スピリチュアリティ」「人生の意味」「宗教性」の間の相互関係と、それぞれがどの程度、遺伝的な影響を受けているか調べること
曰く、「宗教的な変数を心理学の科学的な範囲に組み込むことができたとすると、スピリチュアリティと幸福の関係をより詳しく説明できる可能性が高まる」と研究者は述べています。
こうしたスピリチュアリティに対する信念も、遺伝要因、環境要因、その他の要因があることが想定されますが、それぞれ切り分けることができるとすると、たしかに今後の活用の幅も広がりそうです。
<研究の手順>
では、具体的にどのように研究を進めていったのでしょうか。以下、整理していきたいと思います。
◯参加者合計336名・遺伝的に100%同一である一卵性双生児(MZ) ペア51組・遺伝的に1同一でない二卵性双生児(DZ) ペア40組・非対称の群としての 154人・平均年齢は49歳
◯調査方法・アメリカミネソタ州の双子登録から、研究を呼びかけるレターを送り、参加を促した。そして、以下尺度について質問に回答するように促した。
●「宗教性と精神性」(Espressions of Spirituality Inventory:ESI)(Macdonald, 2000)
(合計30項目、5つ下位尺度)
・スピリチュアリティに対する認知的志向性(例:私の人生はスピリチュアリティから恩恵を受けている)
・スピリチュアリティに対する体験的側面(例:すべてのものと深く繋がっている体験をしたことがある)
・実存的幸福感(例:自分は不幸な人間だ(R))
・超常的信念(例:死者と交信することは可能だ)
・宗教性(例:自分は宗教的志向の強い人間だと思う)
●「人生の意味」(Meaning of Life Questionnaire:MLQ)
(2つの下位尺度で構成)
・意味の存在:人生に意味があると感じる程度を評価(例:自分の人生に意味を理解している)
・意味の探索:人生の意味を積極的に求めている程度を評価(例:人生の目的や使命を求めている)
◯分析方法
古典的な双子の研究によると、表現型の変動は、以下の3つの因子に影響されるそうです。
・相加的遺伝因子(A):遺伝的な要因
・共有環境因子(C):親の養育スタイルなど兄弟が共有する環境
・非共有環境因子(E):個々の兄弟に固有な因子
そしてこれらの因子を、一卵性双生児(MZ)と、二卵性双生児(DZ)で比較をするという調査を行いました。
もし、質問紙調査の結果、一卵性双生児のほうが、二卵性双生児よりも「人生の意味」「スピリチュアリティ」等の相関が高かったとしたら、「遺伝的要因による影響があるといえる」となるわけです。
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■研究の結果(わかったこと)
◯わかったこと1:人生の意味・宗教性・スピリチュリティは相互に関連している
まず「人生の意味」「宗教性」「スピリチュアリティ」については、いくつかの例外を除いて、中程度から大きい影響レベルで相互に関連していることがわかりました。
◯わかったこと2:スピリチュアリティに対する遺伝的影響はあった
一卵性双生児(MZ)と、二卵性双生児(DZ)で、それぞれ質問紙の比較をしたところ、一卵性双生児に遺伝的要因のほうが高いことがわかりました(二卵性双生児の二倍程度だった)。
この結果は、遺伝的影響を示しています。(色々とモデルの調整を行っていることを論文では説明していましたが、説明が難しくて、詳しくはわかりませんでした)
◯わかったこと3:遺伝的影響が大きいのは「超常的信仰」「実存的幸福」だった
遺伝的な影響が多いのは、「超常的信仰」と「実存的幸福」、また「意味の探索」であったようです。実存的幸福(Existential Well Being)と、意味の探索(Search for Meaning)の半分は、遺伝的要因に起因していることがわかりました。
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■まとめ(個人的感想)
何かの記事で、「幸福と感じやすいかどうかは、半分程度は、遺伝的要素で決まっている」という話を聞いたことがあります。この論文がその内容に相当するのかはわかりませんが、とても近しい話だと思いました。(ちなみに、私は遺伝子検査によると「幸福を感じづらい遺伝子」だそう(残念))
ただ、こうした「人生の意味」や「スピリチュアリティ」などについても、ある程度(というかけっこうな割合で)遺伝的要因が信念の形成に影響を与えていることがわかると、こうした信念を修正する上でも、どの程度の介入が適切なのかを考える参考になるのだろう、と思います。
あんまり幸福を感じづらい人に「もっと幸福を感じましょうよ!」といっても難しいし、人生の意味を見つけることに意味を見いだせない遺伝子型の人に、「人生の意味が大事だからね!」と鼻息荒く言っても、伝わりづらいということもあるのかもしれません。
とても面白い研究でございました。
最後までお読み頂き、ありがとうございました!
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<本日の名言>
中でも教育は大切である。
学校で学問を修めて社会に出ることは、武術において基本的な「型」を学ぶことに等しいのだから、貴賤・貧富・男女にかかわらず、子供には金を惜しまずに教育を施すべきだ。
ただし、人の能力はある程度遺伝で決まるのだから、生まれ持った能力を全て正しく開花させるのが教育であると心得るのが正しいだろう。
福沢諭吉
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