メールマガジン バックナンバー

3627号 2024年1月30日

「性格的な強み」は遺伝するのか?→結論:遺伝します

(本日のお話 2856字/読了時間5分)

■こんにちは。紀藤です。

昨日は、3件のアポイント。
妻の実家の茨城よりリモートワークでした。
沖縄から茨城の移動で、肌がパサパサになっております。。



さて本日のお話です。

さて、本日ご紹介の論文は、「性格的な強みは遺伝するのか?」についての研究論文となります。

336名の一卵性双生児と二卵性双生児のサンプルに、VIAの強みのアンケート調査を行い、強みは遺伝的・環境的要因がどれくらい影響しているのかを確かめました。
結論を言ってしまえば、「強みは遺伝する」という話なのですが、思った以上に影響があるようで、実に興味深い研究でした。

ということで、早速見てまいりましょう!

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<今回ご紹介の論文>
『VIA分類のポジティブ特性に対する遺伝的・環境的影響、および通常性格との生物測定学的共分散』
Steger, Michael F., Brian M. Hicks, Todd B. Kashdan, Robert F. Krueger, and Thomas J. Bouchard. (2007).
“Genetic and Environmental Influences on the Positive Traits of the Values in Action Classification, and Biometric Covariance with Normal Personality.” Journal of Research in Personality 41 (3): 524–39.
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

■30秒でわかる論文のポイント

・人間の個人差は、中程度の遺伝性があることが知られている。しかしポジティブな性格的特性が、どの程度の遺伝性を持つのかを調べた研究は少ない。

・本研究では、336名の中年双子のサンプルを用いて、性格的強みを診断する『VIA』のアンケート結果を用いて、性格的強みの遺伝の関係を調査した。

・その結果、24の性格的強みのうち、21について有意な遺伝的効果、ならびに非共有環境効果(個々の兄弟に固有な因子の影響)があることがわかった。

***

■性格的強みと遺伝のこれまでの研究

「性格的な強み」はどの程度、遺伝するのか? このことについては、これまでも様々な研究が行われてきました。たとえば、

<性格的強みに、遺伝子的影響が与える割合>
・宗教性(スピリチュアリティ):21~52%
・自己超越性:44%
・リーダーシップ:47~57%

他、、希望、創造性、利他主義などに、遺伝的影響があると示唆されています。

双子の研究では、

1)遺伝的な要因、
2)共有環境因子(親の養育スタイルなど兄弟が共有する環境)、
3)非共有環境因子(個々の兄弟に固有な因子)

の3つが、その表現型(行動パターンなど)に影響を与えるとしていますが、少なくとも上記は遺伝的な影響があるようです。

(余談ですが「ロマンチックな恋愛スタイル」は、共有環境因子だそうです(Waller & Shaver, 1994)。家族でロンバケを見ていると、ロマンチックな恋愛に憧れるとか、そうなるのでしょうか。よくわかりませんけど)

***

■研究の概要

さて、性格的な強みの遺伝的影響がどの程度あるのかを明らかにすることはどんなメリットがあるのか。
それは、「違いを違いとしてどの程度認めるのか」「どの程度が環境による影響とできるのか」などを判断し、今後の研究の手がかりにもなり得ます。

本研究は以前ご紹介した、『スピリチュアリティは遺伝する?!』のnote記事と同じサンプルを用いて調査をしています。
具体的にどのように研究を進めていったのでしょうか。以下、整理していきたいと思います。

◯研究の参加者
合計336名
・遺伝的に100%同一である一卵性双生児(MZ) ペア51組
・遺伝的に1同一でない二卵性双生児(DZ) ペア40組
・非対称の群としての 154人
・平均年齢は49歳

◯研究の調査尺度
・アメリカミネソタ州の双子登録から、研究を呼びかけるレターを送り、以下尺度について質問に回答するよう依頼しました。

●「性格的な強み(VIA-IS)」
・性格の強みは『VIA-IS』を用いて評価した。
・各強みについて1(自分らしい)~5(自分らしくない)で判断した。

●「通常性格(Nomal Personality)」
・多次元性格質問票(MPQ;Tellegen, 1982他)を用いて評価した。
・11の下位尺度、300項目から構成されている。
*ポジティブ感情の因子:幸福感(楽観性、熱意、明るさ)、社会的効力(支配性、注目行動、リーダーシップ)、達成感(達成意欲、完璧主義)、社会的親近感(社交性、愛情行動)。
*ネガティブ感情の因子:ストレス反応(不安、気分の不安定性、ストレス下で壊れやすい傾向)、疎外感(被害者感情、非難の外在化、悪意)、攻撃性(暴力の加害、他者を傷つける意思、対人敵意)

***

■研究の結果

研究の結果、以下のことがわかりました。

◯わかったこと1:性格的強みは遺伝的な影響がある
調査結果をまとめたところ、一卵性双生児間の性格的強みの一致率の相関は大きく、二卵性双生児間の性格的強みの一致率は小さいか中程度でした。よって、遺伝的効果がかなりあると予測されました。(遺伝因子の影響推定値の中央値は42%)

◯わかったこと2:性格的な強みは、非共有環境の影響もある
同時に、非共有環境因子(個々の兄弟に固有な因子)の影響があることを示す証拠も見つかりました。(非共有環境因子の推定値の影響は58%)

◯わかったこと3:VIAは、性格の「幸福度」と関連がある
また、今回の調査では、「通常性格(Normal Personality)」との関連がどの程度あるのか、相関分析、ならびに通常性格の下位尺度において、重回帰分析を行いました。
その結果わかったことは、通常性格の「幸福度、吸収性、社会的効力、達成感」について、VIAとの相関があることがわかりました。 つまり、遺伝的効果が、VIAの結果に影響を与え、それが性格の「幸福度」に影響をするという関連が予測される、ということかと思います。
(これも”幸福度は遺伝する”という話が有名ですが、類似する考えにも思えます)

***

■まとめ(個人的感想)

3歳になる息子を保育園に送り迎えする時に、友達の様子との違いを見ていて、「ああ、性格って生まれつきもあるよなあ」と、しばしば思うことがありました。
性格も遺伝する、そして性格的な強みも遺伝する。このことは感覚的にわかっていたことにも感じます。

一方見方を変えれば、遺伝的因子の推定値は41%、非共有環境因子の推定値の影響は58%などと論文にありましたが、環境によっても半分以上は変わるということです。

しかも、ポジティブな心理的資本(楽観性)は、遺伝的な影響もある一方、可変性が高いもの(変わりやすいもの)ともされてます。
遺伝の影響があるからといって、それが全てとは限りません。遺伝や環境、それぞれの影響を考える、興味深い論文でございました。

最後までお読み頂き、ありがとうございました!

※本日のメルマガは「note」にも、図表付きでより詳しく掲載しています。
よろしければぜひご覧ください。

<noteの記事はこちら>

=========================
<本日の名言>

人間の遺伝情報が解析され、持って生まれた能力がわかる時代になってきました。
これからの教育では、そのことを認めるかどうかが大切になってくる。
僕はアクセプト(受容)せざるを得ないと思う。

江崎玲於奈(物理学者)
==========================

365日日刊。学びと挑戦をするみなさまに、背中を押すメルマガお届け中。

  • 人材育成に関する情報
  • 参考になる本のご紹介
  • 人事交流会などのイベント案内

メルマガを登録する

キーワードから探す
カテゴリーから探す
配信月から探す