「ストレングス・ジム」 ~強み介入を通じて、若者の人生満足度と自尊心を引き出すプログラムの実証研究~
(本日のお話 3568字/読了時間5分)
■こんにちは。紀藤です。
昨日は2件のアポイント。
また10kmのランニングでした。
*
さて、本日は、思春期の若者に対する強みの介入結果を調査した「ストレングス・ジム」なる論文をご紹介いたします。
元々は大人を対象とした強みの研究は、徐々に「子ども」にも対象を広げていきました。
そんな歴史の中で2011年、子ども(12~14歳)を対象に強みの介入を行い、また実験群と対照群に分けてその効果を定量的に測定した、先駆け的な論文のようです。
ということで早速みてまいりましょう!
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<今日ご紹介の論文>
『ストレングス・ジム 性格の強みに基づく介入が青少年の生活満足度と幸福感に与える影響』
Proctor, Carmel, Eli Tsukayama, Alex M. Wood, John Maltby, Jennifer Fox Eades, and P. Alex Linley. (2011)
.“Strengths Gym: The Impact of a Character Strengths-Based Intervention on the Life Satisfaction and Well-Being of Adolescents.”
The Journal of Positive Psychology 6 (5): 377–88.
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■30秒でわかる論文のポイント
・ストレングス・ジムとは、性格的強みに基づくポジティブ心理学の介入プログラムである。
・本研究では、ストレングス・ジムが、思春期の生徒(12~14歳、319名)の人生満足度、ポジティブ感情・ネガティブ感情、自尊心に与える影響を調べたものである。
・その結果、強みに基づく演習に参加した子どもは、参加しなかった子どもに比べて、人生満足度が有意に増加したこと明らかになった。
とのこと。なるほど、ストレングス・ジムなるものがどんなものかが気になりますね。。。ということで早速みてまいりましょう!
■「ストレングス・ジム」とは何か
さて、本論文のタイトルでもある「ストレングス・ジム」ですが、どのようなプログラムなのでしょうか。
大人向けに強み介入のプログラムは開発されています。一番代表的なものは、「VIA」なる強みアセスメントを通じて強みの特定をすることでしょう。しかし、240問あり30-40分かかります。またVIA-Youth版でも198問あることに加え、13歳未満は保護者の登録も必要であるため、VIAをそのまま活用するのも少し難しそう。
強み介入プログラムについても、「子どもができる内容である」「学校内で適用できる」を考慮した内容が必要になります。この内容は大きく2つの項目があるようです。「ストレングス・ビルダー」と「ストレングス・チャレンジ」(Peterson, 2006)です。一部紹介すると以下のような内容です。
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●「ストレングス・ビルダー」
(1)ストレングス・アクション・ストーリー:
・自分自身や知り合いが「美しい愛を示したストーリー」を思い出してください。どのようなストーリーだったか描いたり、話しみてください。
(2)動物の美しさコンテスト:
・どんな動物を「美しい」と感じますか?それはなぜですか?友だちと協力して動物の様々な例を集め、美しいと感じる順番に並べてみましょう。そして他のグループと比べてみましょう。
●「ストレングス・チャレンジ」
・学校で「あなたの美しさ」を探求してみましょう。友だちや家族に、あなたが発見したことを伝えてみましょう。
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内容を見てみると、子どもが「強みに注目する」「強みの多様性に目を向ける」ことを促すワークになっています。そして学年など、レベルごとに冊子になっており、VIAの24の強みを学び、自己評価するワークが含まれています。
ストレングス・ジムは生徒の意欲や関心に応じて、数分で終わるものも荒れれば、1時間かかるものもあり、教師はそれらを含めてプログラムを設計するとのこと。(今回の研究では、合計24のレッスン(練習問題)を行い、そのうちの50%を完成させると予測されたようです)
■研究の全体像
さて、そんなストレングス・ジムを利用して介入を行ったわけですが、具体的にどのような調査内容だったのでしょうか。以下、仮説・対象者・測定尺度について見てまいりましょう。
◯仮説
ポジティブ心理学カリキュラムに基づくプログラムである「ストレングス・ジム」に参加した子どもは、参加なかった子どもに比べて、ポジティブ感情と自尊心の得点が高く、ネガティブ感情の得点が低い。
◯参加者
イギリスの中等学校の8年生と9年生の319名、12~14歳
◯測定尺度
●フェイス項目(基本的属性)
●学校の生活満足度尺度(SLSS:Student Life Satisfation Scale)(7項目)
●ポジティブ感情(PA)(10項目)
●ネガティブ感情(NA)(10項目)
●自尊心(RSE)(10項目)※青少年の人生満足度と相関あり
◯調査方法
上記アンケートについて、対象者に依頼をし、分析をしました。実験群と対照群を分けて、実験群にはストレンスグス・ジムのカリキュラムを実施し、対照群には行いませんでした。そして介入前後で調査を行いました。
分析方法は、実験群・比較軍を分けて「階層線形モデリング(HLM)」という方法を利用して行いました。
■結果
◯実験群は「人生満足度」「自尊心」のスコアが高まった
結論は「ストレングス・ジムの演習に参加した生徒は、参加しなかった生徒に比べて『生活満足度』が有意に高まった」という仮説を支持する結果となりました。
また、同様に『自尊心』についても演習に参加した生徒は、参加しなかった生徒に比べて有意に高まったことがわかりました。
以下は記述統計量となりますが、何を持ってそう言えるのかは、階層線形モデリング(HLM)という分析手法で考察されています)
◯階層線形モデリングによる結果
そして「階層線形モデリング(HLM)」という、調査にもどついて各結果変数への考察により、より突っ込んで探求されています。ちなみに、以下、階層線形モデリングの説明です(by ChatGPT)
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階層線形モデリング(Hierarchical Linear Modeling、HLM)は統計学において、データが階層構造を持っている場合に用いられる分析手法です。データが複数レベルにまたがる階層を形成しているとき、例えば、学生の成績データがクラスと学校という二つのレベルを持っている状況など、それぞれの階層での影響を考慮しながらデータを分析することができます。
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この階層線形モデリングに基づいて、結果変数である「1:人生満足度(SLSS)、2:ポジティブ感情(PA)、3:ネガティブ感情(NA)、4:自尊心(RSE)」について、分析をしたところ、以下のことがわかりました。
●わかったこと1:性格的強みに基づく演習に参加しなかった生徒と比較して、 参加した生徒はベースラインの「生活満足度」が高かった( 性別、年齢、学校、学年をコントロールした場合)
●わかったこと2:性格的強みに基づく演習に参加しなかった生徒年と比較して、参加した生徒はポジティブ感情がわずかに有意であった。一方ネガティブ感情や自尊心に対する効果は認められなかった
・SLSS(人生満足度)(差 = 0.18, t(14) = 2.20, p = 0.045, reffect3 = 0.51)→効果あり
・PA(ポジティブ感情)(差 = 0.16, t(14) = 1.86, p = 0.084, reffect = 0.45)→わずか効果あり
・NA(ネガティブ感情)(差 = - 0.10, t(14) = -1.69, p = 0.11, reffect = 0.41)→効果なし
・RSE(自尊心) (差 = 0.07, t(14) = -1.69, p =0.11, reffect = 0.41)→効果なし
■まとめと個人的感想
本論文を見て、まずは「ストレングス・ジム」について、もっと詳しく知りたい!と思いました。24のモジュールが何かが気になります・・・!
同時に「階層線形モデリング」なるものの結果については、読み解くために修行が必要だな・・・と思いました。論文で、たとえばSLSSが「0.18の推定値で効果あり」というのも、何を持って効果ありなのか、どのあたりのスコアから「効果あり」といえて、どこからが「わずかに効果あり」なのかがよくわかりませんでした・・・(勉強が必要です)
分析手法についても、もう少し手触り感をもって読み解ける様になりたいな、と思った次第です。
最後までお読み頂き、ありがとうございました!
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