「エンゲージメントとは何か」を紐解いてみる(4) ~ワーカホリズム VS エンゲージメント、その違いとは?~
(本日のお話 3755字/読了時間7分)
■こんにちは。紀藤です。
昨日は「1on1ミーティングにおけるコーチング実践研修」のDAY1でした。
共にロールプレイングを行いましたが、皆様が積極的に参加いただけたことが
大変嬉しい時間でありました。
コーチングの問いは、なかなか普段行わないものでもありますが、
使えるようにすることで、相手との対話を深め、理解し合うチャンスが増えると思っています。
これからのDAY2,3の皆様の成長が楽しみございます。
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さて、本日のお話です。
今日も注目のキーワードの「ワークエンゲージメント」について、より深く紐解いてみたいと思います。
今回は、エンゲージメントと類似した概念でもある「ワーカホリック」について、そして「ワーク・エンゲージメントとワーカホリックの違い」について、以下書籍より、学びと気付きを共有させていただきたいと思います。
タイトルは
【「エンゲージメントとは何か」を紐解いてみる(4)
~ワーカホリズム VS エンゲージメント、その違いとは?~】
それでは早速参りましょう!
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※参考書籍:『ワーク・エンゲイジメント -基本理論と研究のためのハンドブック(第4章)』
アーノルド・B・バッカー (編集), マイケル・P・ライター (編集), 井上 彰臣 (翻訳), 大塚 泰正 (翻訳), その他
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■ワーカホリズムとは何か
働きまくっている人のことを「あの人、ワーカホリックだよね~」という表現をすることがあります。
このワーカホリックの元となる「ワーカホリズム」という言葉は、1971年、宗教心理学の教授でもあり、作家でもあるWayne E. Oates牧師によって提唱されました。
曰く、「無理に働きすぎている仕事への態度は、アルコール依存(アルコホリズム)の状態によく似ているな」とのことで、ユーモラスに『ワーカホリズム』という言葉を作ったそうです。
この定義についても、次節で詳しく解説しますが、彼はワーカホリックの定義を「仕事への欲求があまりに過度となり、健康、幸福、人間関係に著しい障害を来している人」としました。
しかし、実はワーカホリックに関する研究はまだ十分で内容で、概念定義が不明瞭であったりして、研究者間の意見は、基本的に一致していないようす。では、どのような定義が提唱されているのでしょうか。
◯様々な研究者の語るワーカホリズム
たとえば、ワーカホリズムについて、以下のように説明する研究者がいます。実に、さまざまです。
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●Kaichel(1989)は、ワーカホリズムを「幸福なワーカホリズム」と「機能不全のワーカホリズム」に区別した。
●Naughton(1987)は、ワーカホリズムを仕事へのコミットメントと強迫性の観点から、「良いワーカホリック(コミットメントの程度は高いが、強迫性は低い)」と「悪いワーカホリック(コミットメントの程度も強迫性もどちらも高い」として比較した。
●Scottoら(1997)は、「強迫-依存的なワーカホリック」「完璧主義的なワーカホリック」「達成志向性のあるワーカホリック」に分類した。達成志向性のあるワーカホリックはハイパフォーマーとよく似ているとした。
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なるほど、幸福ー機能不全、良いー悪いなど、ワーカホリックの中にも種類があることを各研究者は示しているようです。
◯最も幅広く使用される「ワーカホリズムの3要素」
さて、その中で、最も現在幅広く使用されているワーカホリズムの分類が、
・「仕事への関与」(仕事に強くコミットし、仕事に多大な時間を捧げる)
・「仕事への内的衝動性」(衝動に駆られて、懸命に働かねばならないと感じる
・「仕事への楽しみ」(仕事を好ましく達成感のあるものと感じる)
の3次元の組み合わせによる3タイプのワーカホリックが示されています。
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<3タイプのワーカホリック>
(1)熱狂的でないワーカホリック(関与、衝動性は強いが、楽しみは弱い)
(2)熱狂的なワーカホリック(関与、衝動性、楽しみのいずれも強い)
(3)仕事熱狂者(関与と楽しみは強いが、衝動性は弱い)
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ちなみに、(3)の仕事熱狂者を「幸せなハードワーカー」とし、ポジティブな態度や社会的知性を持っているからである、と述べています。
なるほど、いずれにしても「仕事にのめり込む」という意味では、これらを見ても「ワーク・エンゲージメント」に類似した概念であるというのも頷ける気がします。
■ワーカホリズムとエンゲージメントの違い
それでは、ワーカホリズムとワーク・エンゲージメントはどのように違うのでしょうか。これを見ていくために、まず改めてですが、ワーカホリズムとワーク・エンゲージメントについて整理したいと思います。
◯ワーカホリズムの定義
さて、先述の通り、ワーカホリズムには明確に合意された定義があるわけではないのですが、それでもほとんどの定義で触れられる「2つの特徴」があります。また、その2つの特徴に関連する「ワーカホリックな人の5つの注目すべき特徴」というのも整理されていました。以下のような内容です。
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<「ワーカホリズムの定義」に共通する2つの特徴>
(1)一生懸命に働きすぎること(異常なまでに多くの時間を仕事に費やす傾向がある)
(2)強力かつ強迫的な内的衝動があること(働いていないときでさえも頻繁に仕事について考えていて、”仕事に支配されている”状態である)
<「ワーカホリックな人」の注目すべき5つの特徴>
(a)周りから見て明らかなほどに情熱を持って働く
(b)他のほとんどの人が「心理的なスイッチをオフにした」後でも、ワーカホリックな人たちは、そうでない人たちと比べ、仕事について頻繁に考える
(c)仕事以外の状況でも、仕事の事をよく話す
(d)職場では、目に見える成果に向かって努力する
(e)他の人達よりも長い時間働く
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◯ワーク・エンゲージメントの定義
ワーク・エンゲージメント(仕事にエンゲージしている)というのは、”ポジティブで、達成感を伴う仕事上の心理状態を意味する”としています。これは以下の3次元で表すことができます。
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●「活力」:エネルギッシュで、精神的なレジリエンスが強く自分の仕事に進んで努力する意欲を持ち、困難に直面した場合にも粘り強く対応している状態。
●「熱意」:自分の仕事に深く関わり、仕事において意義、熱中、インスピレーション、誇り、挑戦などを経験している状態。
●「没頭」:自分の仕事に完全に集中し、幸せで夢中になっているため、時間が速く過ぎ、仕事から自分自身を切り離すのが難しい状態。
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◯ワーカホリズム vs エンゲージメント:実証的なエビデンス
さて、ワーカホリズムとエンゲージメント、このように並べてみても、やはり似ている側面が多いように思われます。
エンゲージメントの「活力(エネルギッシュに働く)」と、ワーカホリズムの「一生懸命に働く」、どのように違うかと言われても何ともその差を言葉に表しづらそう。
あるいは、エンゲージメントの「没頭(仕事に完全に集中する)」とワーカホリズムの「仕事が終わった後も仕事の事を考えている」も、なんとなく似通った雰囲気を感じます。
この違いについて、実証研究においてその違いを確かめた研究がありました。以下2つ紹介いたします。
◯その1:ワーカホリズムとエンゲージメントの関連
まず1つ目の研究、Schaufeli(2006b)において、ワーカホリズムを2つの尺度{強迫性傾向尺度(Robinson, 2002)、強迫的な働き方(Spence&Robbins, 1992)}と、エンゲージメントを1つの尺度(ユトレヒトワークエンゲージメント尺度)で調べました。
そして、上記のワーカホリズムとエンゲージメントの設問について確認的因子分析を行ったところ、3因子モデルとなりました。3因子とは「強迫的な働き方」「働きすぎ」「ワーク・エンゲージメント」です。
そしてそれぞれの相関を見たところ、「強迫的な働き方」と「働きすぎ」は .75と強い有意な相関が見られましたが、「ワーク・エンゲージメント」と「強迫的な働き方」は有意な相関は見られず、「働きすぎ」には弱い有意な相関が見られたにとどまりました。
このことから「ワークエンゲージメントとワーカホリズムは実証的に異なる概念である」ことが示されました。
◯その2:ワーカホリズムとワーク・エンゲージメントと各指標間の関連
また、ワーカホリズムとワーク・エンゲージメント、それぞれに対して、労働時間、仕事の要求度、健康などとの関連を整理しました。
その結果、ワーカホリズムもワーク・エンゲージメントも仕事に長い時間を費やしていることは等しく見られました。
しかし、ワーカホリズムは、仕事の要求度と強い正の相関があり、ワーク・エンゲージメントは仕事の要求度との相関はありませんでした(一方、同僚からの社会的な支援などの仕事の資源との間には相関がありました)。
これはワーカホリズムが「強迫的な働き方」(仕事のコントロール度の低さ、上司からの支援の低さなど)があり、一方エンゲージメントは同僚からの支援などの仕事の資源が多い傾向があるを示しています。
また、ワーカホリズムは健康上の不調が多く、仕事満足度も低い傾向がありました。ですがワーク・エンゲージメントは健康状態はよく、仕事満足度も高い傾向が見られました。
よって似ているような概念がありますが、「何によって仕事に一生懸命になっているか」が強迫的・衝動的なものかどうか、「仕事に対して上司や同僚の支援などがあるか」という仕事資源の違いなどが、両者を分かつ要因の一つと考えられるようです。
■まとめと個人的感想
この章で印象に残った言葉が「今後の研究を始めようとするときには、まず、その言葉の起源に立ち返りなさい」(Porter, 1996)というものです。
ワーク・エンゲージメントも、ワーカホリックも、「強み論文」を調べる中で数多く登場してくるキーワードでした。しかし、その源流をどれほど知っていたかというと、あまり理解はしていなかった、ということを、本書を通じて感じています。
「強み」についても探求する上で、その元となっている概念も、丁寧に読み解いていきたい、そんなことを思った次第です。
最後までお読み頂き、ありがとうございました!
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