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3823号 2024年8月13日

「ファシリテーションをデザインする」ための4つの観点

(本日のお話 4565字/読了時間5分)

■こんにちは。紀藤です。

先日、ファシリテーションについて、『研修ファシリテーションハンドブック(中村 文子, ボブパイク著)からの学びを記事として書かせていただきました。本日も続けてまいります。

今日のテーマは、「ファシリテーションをデザインする」です。

「ファシリテーションをデザインする」とは、研修中のアクティビティ、オープニングやクロージング、問いかけなどを研修の目的に沿って効果的に機能させることです。これらのポイントについて、今日はお伝えしたいと思います。

それでは早速参りましょう!

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目次
「ファシリテーションをデザインする」とは
(1)「アクティビティ」をデザインする
(2)「問いかけ」をデザインする
(3)「学習効果を高める場」をデザインする
(4)「安心して学べる関係性」をデザインする
まとめ
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■「ファシリテーションをデザインする」とは

ファシリテーションとはなにか。このことについて『研修ファシリテーションガイドブック』では以下のように定義されていました。

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<ファシリテーションとは?>
・ファシリテーションの目的は、ビジネス上の成果に繋げる行動変容を促すこと。
・ファシリテーションとは、「知識」の理解を確実にし、行動に落とし込んだり、スキル習得の練習をして自信をつける時間を研修中に組み込んだり、実行したりすること。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

つまり、研修を講師から参加者への一方通行の時間にせず、参加者の行動変容を促すために、「問いかけ」や「ディスカッション」「アクティビティ」などを効果的に組み込み、活用することです。

そして、そのためには多くの工夫があるわけですが、これらを細かく見ると、一体どのような工夫ができるのでしょうか?

そこで、本書の第2章で語られている「ファシリテーションのデザイン」がたいへん参考になりました。アクティビティ」「問いかけ」「学びの場」「関係性」の4つの観点です。以下、1つずつ見ていきましょう。

■(1)「アクティビティ」をデザインする

1つ目の観点が「アクティビティ」のデザインです。

”アクティビティとは、参加者が課題に取り組んだり、何かを体験したりするなど、「主体的な学びを促進する具体的な方法」(P64,中村,2020)”と本書では書かれています。

アクティビティを組み込むことで、「参加者が主体的に関わること」を促したり、「感情を伴う経験をすることで記憶に残りやすくなる」、また「記憶に残ることで実践に繋げやすくなる」という効果があります。

では、どのようなアクティビティがあるのでしょうか?

5つの場面でのアクティビティがポイントであると述べられています。以下、私の例も含めてまとめてみます。

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<5つの場面でのアクティビティのポイント>
●「オープニング」(研修への興味・集中を高めるアクティビティ)
(例:研修内容に関わるミニゲーム、クイズなど)
●「クロージング」(研修内容を振り返り、アクションプランを立てるアクティビティ)
(例:Start/Continue/Stop=始める/続ける/やめることを決める、など)
●「リビジット」(学びを記憶に留めるアクティビティ)
(例:重要なポイントを繰り返す、確認クイズを出す など)
●「エナジャイザー」(脳の活性化を促すアクティビティ)
(例:体を動かす・立ち上がる、席を変える、クイズをするなど)
●「経験」(講義の代わりに経験をさせるアクティビティ)
(例:講義前のケーススタディ、ロールプレイなど)

参考『研修ファシリテーションハンドブック(中村 文子, ボブパイク著)、P65
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確かに、上記のポイントで「アクティビティ」をデザインすると、研修の場がイキイキと活性化するように感じますね。

■(2)「問いかけ」をデザインする

2つ目の観点は、「問いかけ」のデザインです。

ファシリテーションで参加者を巻き込む、と言った時に、真っ先に浮かぶアクションの一つが「参加者に問いかける」可と思います。

しかし、「問い」というのも非常に深いもの。

あるあるのなのが、何の意図も持たず、「皆さん、ここまでどうですか?」とフワッと投げかけても、「・・・」と妙な空気が流れ、結果その問いは、”効果的な学びに繋がっていない”ということもよくあります(汗)。
ゆえに、「問いかけ」についても、意図を持ってデザインする必要があるわけです。

さて、そんな「問いかけ」の目的は、本書では以下のように定義されていました。

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<問いかけの目的>
・効果的な問いかけにより、気づきや学びを深めたり、参加者同士の学び合いを促進したりすること
・答えを教えてもらうのではなく、自ら発見するプロセスを体験することで主体性を引き出すこと
・自らの発言を自分事と捉え、自己責任感を高めること
・重要ポイントや理解した内容を確認すること

参考『研修ファシリテーションハンドブック(中村 文子, ボブパイク著)、P97
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そして、上記の問いかけの目的に関連した、「問いかけの4つの種類」が紹介されていました。以下、まとめてみます(私の解釈を含みます)。

(ここから)
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<問いかけの4つの種類>
(1)気づきを深める(経験学習を深める)
・具体的経験・内省的観察・抽象的概念化・能動的実践を促す
(例:うまくいった点・うまくいかなかった点(GOOD・MOTTO)を考えてもらう)
(2)知識・経験を引き出す
・参加者が既に持っている知識や経験を引き出す
(例:これまでに自分に素晴らしい影響を与えてくれた上司はどんな人でしたか?何がそう思わせたのでしょうか?※経験を問う)
(3)参画を促す
・8分に1回は「講師が参加者に問いかけて、個人で考える」よう促す。
(例:「皆さんは、なぜこれが大事だと思いますか?」等投げかける)
(4)リビジットを促す
・人には「認知過程次元」が6つあり、「記憶→理解→活用→分析→評価→創造」とする。記憶したものを理解し、自分のモノとしていくためのプロセスが重要。何度も学んだことを「リビジット(再訪問)」し、学びを深めていく。

参考『研修ファシリテーションハンドブック(中村 文子, ボブパイク著)、P98
―――――――――――――――――――――――――
(ここまで)

「問いかけ」も、常に目的を意識し、意図を持って、どの種類の問いを使うかを考える事が重要、ということですね。

これ、言うは易く行うは難しなのですが、考えに考えて、「良質な問い」を練り上げることは実に重要だと感じています。

■(3)「学習効果を高める場」をデザインする

ファシリテーションの工夫の3つ目の観点は、「学習効果を高める場のデザイン」です。

私の経験談で恐縮ですが、前職の『7つの習慣』を提供している会社では、ある時期までは、目黒雅叙園やリッツ・カールトンなど一流ホテルの一室を借りて研修を行っていました。
これ、非常に効果が高く、ホテルのような非日常の”ハレ”の場に行くと、普段考えない「人生のミッション」みたいなことも考えやすくなったりするよるようです。同じ研修でもまた違った空気感になっていました。まさに「学習効果を高める場」となっていたように感じます。

もし、同じコンテンツでも、学習環境が「椅子が硬い・窓がない・暗い・暑い・狭い」ような会議室で、しかも工事を近くでやっていてうるさく、しかもなんか臭う・・・、みたいな環境だったとしたらどうでしょう。
おそらく、「人生のミッション」を考えるときに、参加者の思考は、上述の環境と比べて働きづらくなることは想像に難くありません。

繰り返しますが、「学習効果を高める場づくり」が大事ということになります。

では、学べる場作りのポイントはなんなのか?
ポイントとして、心理的側面と物理的側面から、以下の点が挙げられていました。

(ここから)
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<安心して学べる場作りのポイント>
●心理的側面
・「尊重されている」と感じる
・「自分の発言が受け入れられている」と感じる
・その場に自分の存在の必要性を感じられる
・「この場に存在していたい」と感じる
・「このメンバー(講師および他の参加者)と時間をすごしたい」と感じる
・自分で選んだり、決めたりする自由がある(すべてを講師や他の人から指示されると受け身になり、苦痛になる)

●物理的側面
・温度や明るさが快適
・広さに余裕がある
・視界に入るもの、におい、音等が快適で明るい雰囲気である

引用:『研修ファシリテーションハンドブック(中村 文子, ボブパイク著)、P121
―――――――――――――――――――――――――
(ここまで)

また、学びやすい環境づくりのために、

・開始時の講師・事務局の動き(緊張せずWelcome感を出す)
・研修会場、レイアウト(会場設営のパターン、出入口の位置、リフレッシュメント(お菓子)の場所など)
・座席の決め方(ルールを伝えた上で、自分たちで決める等)

さらには、

・聴覚、嗅覚などの刺激(音楽、アロマ等)
・名札の工夫(参加者同士見やすいようにする、あだ名など使う)
・テーブルのツール(クッシュボール、付箋など)

も用意することで、更に効果を高めることができます。
(個人的にクッシュボールはおすすめです)

■(4)「安心して学べる関係性」をデザインする

4つ目の観点が「安心して学べる関係性」です。

研修講師に対して、距離の近さを感じると「自己効力感(自分にもできそう)」が高まることが知られています。いずれにせよ、「なんかよそよそしくて信頼しきれない研修講師」よりも、「専門性や親近感を覚えて信頼感を覚える研修講師」のほうが、学習効果が高そうです。

では、実際にどのように「関係性をデザイン」すればよいのでしょうか?

そのためのポイントとして、5つ述べられています。

(ここから)
―――――――――――――――――――――――――
<参加者との関係性を構築するポイント>

●1、研修前(事前案内)
・研修の案内について、講師のプロフィールやメッセージなどを伝えて安心感や期待を醸成する。
●2、研修当日/開始前・終了後
・開始直前の15分間と、終了直後の15分間は、講師は体をフリーにしておくこと(15分ルール)。講師が参加者に声をかけることで、参加者の講師に対する印象は変わり、研修全体に好影響を及ぼす可能性が高まる。
●3,研修当日/オープニング
・研修のオープニング時は特に気をつけるべし(印象に残りやすいため)。
・「✕:してはいけないこと」→マイナスの趣旨の発言、無表情、事務局や担当者とばかり話をしている、参加者に話しかけない、など
・「◯:したほうがいいこと」→笑顔で挨拶、研修参加のお礼、名前で呼ぶ、普段の仕事の質問、事前課題の感想を聞く、など
●4,研修当日/休憩時間
・できるだけ参加者一人ひとりと個別に、できるかぎり全員と関わる。休憩の半分の時間は、個別の対話に当てることがおすすめ。
(研修中に対話をすることがあるが、研修中関われないこともあるため)
●5,研修当日/研修中
・基本的動作:アイコンタクト、うなづき、発言への御礼、肯定する
・巻き込む工夫:話す前に個人で考える時間を取る、リーダーを決める、発言時間を制限する、など
・先入観を持たない:発言が少ない、メモをとらない=積極的でないとみなさないこと
・できないことでなく、良い行動・望ましい行動を褒める
・参加者同士の関係を構築する(自己紹介、リーダーを固定化しない、相手を固定しないなど)

参考・引用:『研修ファシリテーションハンドブック(中村 文子, ボブパイク著)、P140~156
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(ここまで)

■まとめ

このようにまとめてみると、自分がやっていること、やっていないことが明確になるように感じます。そして、すべてを真剣にやると「全精力を使う」ことになります。(なので連続登壇はかなりキツいのです汗)

なので、慣れてきた研修講師だと、「省エネモード」になっている人も、実は少なくありません。でも、こうした一つ一つの工夫を、研修設計に加えて丁寧に行うことで、効果的な場になるわけです。

「ウルトラC」はない。その代わりに小さな工夫を積み重ねて、ウルトラCを超える高得点を積み上げる。それが、学びの効果が高い研修を作り上げるためのポイントであることを、改めて感じた次第です。

私もまだまだできることがあるなあ、と感じました。
自戒を込めて、改めて帯を締め直して、参加者に向き合いたいと思った次第です。

最後までお読み頂き、ありがとうございました!

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