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3837号 2024年8月27日

「称賛」をめぐる3つの研究 ~読書レビュー『感謝と称賛』#2~

(本日のお話 2208字/読了時間3分)

■こんにちは。紀藤です。

引き続き、沖縄に来ております。
昨日はお休みをいただき、5kmのランニングと友人家族と釣りにいってまいりました。
釣果は9匹。美味しくいただきました。



さて、本日のお話です。

先日は『感謝と称賛』(正木郁太郎 (著)) の著書より、以下の「感謝が持つ3つの効果」ということで、第一章より読書レビューを書かせていただきました。
https://note.com/courage_sapuri/n/n49a9791be28f

「感謝って大事だよね」「褒めるって大事だよね」となんとなく感じている中で、感謝と称賛が持つ機能を、実証研究で解き明かした著書。本日も続けてご紹介させていただければと思います。

本日は「称賛」について解説されているところから、いくつか抜粋をしながらお伝えさせていただければと思います。それでは早速まいりましょう!

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<目次>
「称賛」とはなにか
(1)「道徳的感情の研究」と「称賛」
(2)「フィードバックの研究」と「称賛」
(3)「学校におけるほめることの研究」と「称賛」
まとめと個人的感想
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■「称賛」とはなにか

まず「称賛」という言葉を体系的に論じるのは、なかなかに難しいことである、と著者は述べています。理由は「称賛の研究は明確なキーワードがない」ため(ちなみに感謝は「Gratitude」というキーワードがある)、様々な研究をまたがった先行研究のレビューが難しいとのこと。

よって、本著書では「称賛」、またそれに近しいテーマとして、以下の3つの研究に注目したと述べます。

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<「称賛」、それに近しい3つの研究>
(1)感謝を含む職場に関する道徳的感情の研究
(2)職場におけるフィードバックに関する研究
(3)学校(ないし教育領域)における「ほめる」ことの効果の研究

※正木(2024)『感謝と称賛 人と組織をつなぐ関係性の科学』,東京大学出版会, P31
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それぞれ一つずつ見ていきたいと思います。

◯(1)「道徳的感情の研究」と「称賛」

Alooe&Haidt(2009))は、”人が持つ様々な感情の中に「他者の模範的な行動」に反応する感情群がある(「他者称賛感情」とよぶ))”と述べました。そして、それには3つの感情があるとのこと。
1つ目が「感謝(gratitude)」です。他者の利他的な行動(例:自分や他者に利益を提供してくれたとき)に対して感じる感情です。
2つ目が「高揚(elevation)」です。他者の”道徳的に優れた特徴や行動”(例:人助けをしている)を目撃した時に、その対象者に感じる感情とされます。
3つ目が「称賛(admiration)」です。これは高揚で表される道徳的に優れた特徴”以外”の一般的な卓越した行動(例:営業で優秀な成績を収める)に対して感じる敬意のような感情です。

この考え方からすると「称賛」は何かしらの”道徳性が関わらない卓越に対して生じる感情である”という見方もすることができます。

◯(2)「フィードバックの研究」と「称賛」

次に、「称賛」に近しい研究として「フィードバック(feedback)」の研究があります。フィードバックも数々の研究がありますが、その中でも、「ポジティブ・フィードバック」という”良いところを指摘するフィードバック”(繁桝, 2017)が「称賛」の概念と近いと考えられそうです。

繁桝(2017)によると
・ポジティブフィードバックは部下に対して概ねポジティブな影響を与える
・ポジティブフィードバックの頻度は、上司の慈善性・誠実性・能力に対する信頼、自身の成長満足感や組織に対する愛着など、広範な要因に対してポジティブな効果を持っていた、
などの影響があったと述べています。概ねプラスの影響が見られるのですね。

◯(3)「学校におけるほめることの研究」と「称賛」

また、学校を対象とした研究でも「称賛」が学生に与える影響の研究が行われてきました。
特に「ほめられること」についての研究は多く、「子どもの能力や才能をほめる」よりも、「子どもの努力をほめる」ほうが、能力は動力によって伸ばすことができる(成長マインドセット)を強化し、ポジティブな成果を生み出しやすい、とされてきました。
こうした「ほめること(称賛)」の効果とは、ほめられることによって、ある特定の考えや価値観が強化される、とも述べています。
たとえば、「努力をほめられる→”努力”が重要という考えが強化」されるし、「能力を褒められる→”能力”が重要という考えが強化」されることになるということ。称賛にはこのような効果もありそうです。(Kakinuma et al, 2022)

■まとめと個人的感想

一つの概念を取り扱う上でも、どこをどのように切り取るかを定義するところから研究は始まる、という奥深さを感じました。そして、それらを明瞭な言葉で切り分けて定義されるそのプロセスを想像し、研究者の方ってすごいなあ・・・とため息が出る思いでした。

ちなみに、「強み」のVIAアセスメントでは、『審美眼』という強みの概念が存在します。この審美眼の強みとは、

1,見落としてしまいそうな日常の小さな美しさに気づくことができる
2,自然の美しさに驚嘆し、畏敬の念や高揚感を覚える
3,人の技術や才能の卓越した点を称え、人の善良さや思いやりなどの道徳的美徳に感動する

とありますが、本研究における「感謝」=道徳的な行いに感動する、と「称賛」=人の技術や才能の卓越した点を称える、という点が「3」の概念に近しく記述されています。

これも、どこでどのように切り分けるか、というのがポイントなので、研究を始めるときは、言葉が意味するものを明確にすることが重要だよな、と感じた次第です。

ということで、また次回に続けてまいりたいと思います。
最後までお読み頂き、ありがとうございました!

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