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3838号 2024年8月28日

「感謝」がダイバーシティ推進に与える影響とは? ~読書レビュー『感謝と称賛』#3~

(本日のお話 2283字/読了時間4分)

■こんにちは。紀藤です。

現在、宮崎にきております。
祖父の法事のため移動しましたが、昨日は無事に飛行機が飛んで一安心でした。
今のところ、天候は落ち着いていますが、これからどうなるのかが気になるところです。



さて、本日のお話です。

先日より「感謝と称賛」の人と組織へ与える影響について研究した専門書『感謝と称賛』(正木郁太郎 (著)) を読んだまとめと感想を書かせていただいております。
本日も続けてまいりたいと思います!

(先日までのお話はこちら

―――――――――――――――――――――――――
<目次>
本書の研究テーマ
「ダイバーシティ」と「感謝」のつながり
研究の概要
研究の仮説と結果
まとめ
―――――――――――――――――――――――――

■本書の研究テーマ

本書における研究課題ですが、主に3つの観点で取り上げられています。

1つ目が、「感謝と称賛は職場でも有効か、または効果は同じなのか」という点です。
感謝と称賛は、先行研究からそれぞれポジティブな影響があることがわかっています(例えば、向社会行動、ウェルビーイング、良好な対人関係など)。その先行研究について実証的な研究をしてみよう、ということが1つです。

2つ目が、「集合レベルの効果(職場全体への効果)はあるのか」という点です。
感謝はされる側だけでなく、感謝する側にもポジティブな影響があります。またこうした文化があることで、職場全体にもポジティブな効果があることが想定されます。このあたりを検討しようとされています。

3つ目が、「質問紙調査や実験以外の手法でも効果は再現されるか」という点です。
つまり心理統計は主観のバイアスが入りますし、実験では統計データが取りやすい大学生の心理に寄ってしまう傾向があります。そうしたものをたとえば「センサーなどを利用したデータ」でも同じように効果が確認されるかを実証する、とのことでした。

■「ダイバーシティ」と「感謝」のつながり

さて、これまでの研究結果から「良好な人間関係への影響」が想定されています。では、「感謝が特に有効な職場とは?」を実証的な研究で解き明かしています。

そこで著者が注目したキーワードが「ダイバーシティ」です。

ダイバーシティとは、”特定の集団におけるメンバー間の属性のばらつきを指す概念”(van knippernberg & Schippers, 2007)とされていますが、日本では男女が均等に近い割合で働いているかという「性別ダイバーシティ」が課題とされてきました。

他にも、表面で見える性別や年齢、人種などのでもグラフィック情報でわけられる「表層のダイバーシティ」と、価値観や思想など見えづらい「深層のダイバーシティ」があります。

それぞれの集団に属していることでグループ意識が高まる作用もあり、逆に言えば、あちら側とこちら側をわける「フォルトライン(断層)」が生まれることも(いわゆる”派閥”みたいなもの)。

ダイバーシティにより、創造性が高まる、また雇用の柔軟性が高まるなどポジティブな影響も期待できますが、一方、対人葛藤・一体感を維持しづらい・パフォーマンスの低下にもつながる可能性もあります。長短それぞれあるのがダイバーシティとも言えそうです。

■研究の概要

そんな職場のダイバーシティに対して、「感謝」が「組織への愛着(情緒コミットメント)」を通じてどのように影響を与えるのかを検討しよう、とのことで実証的な研究をされました。研究の仮説、方法、結果について、以下ポイントをまとめます。

【調査対象】:日本の製造業の従業員2667人です。
【質問項目】:以下3つです。
・「情緒コミットメント」(愛着要素、内在化要素)
・「感謝」(仕事が済んだときに、上司や同僚からねぎらいや感謝の言葉をもらう)
・「職場の性別ダイバーシティ」(男・女・その他)
・「統制変数」(開放的コミュニケーションの充実度 ※感謝との違いを検討する)
【研究方法】:上記内容について、各指標の相関を調査し、「感謝」と「ダイバーシティ」「情緒コミットメント」の関連を調査しました。

■研究の仮説と結果
以下、上記の研究結果についての仮説とその結果が2点示されています。
少し言い回しが専門的ですが記載させていただきます。

●仮説1:感謝が集団レベルで充実している(メンバーが相互に感謝を受ける経験の多い)職場に属している個人ほど、職場に対する情緒的コミットメントが高い

→仮説1は支持された。
(説明)情緒的コミットメント(愛着要素)を従属変数に設定したところ、
・個人レベルの「感謝」の得点が高いほど愛着要素が高くなった。
・これは「開放的コミュニケーションの充実度」の影響を除外しても確認された。
・よって、感謝のコミュニケーションの効果を表していると考えられる。

●仮説2:感謝が集団レベルで充実していること(メンバーが相互に感謝をうける経験の多さ)と職場のダイバーシティの間に、情緒的コミットメントに対する正の交互作用が見られる。

→仮説2は支持された。

(説明)職場の性別ダイバーシティの得点が高い場合と低い場合で、「感謝の効果」が違うのかを調査するために、交互作用の分析を行った。
・結果、性別ダイバーシティが高い場合、感謝が高い方が低い方に比べて、愛着の影響が大きいことがわかった。

■まとめ

シンプルな調査でしたが、「性別ダイバーシティが高い職場で、感謝をするほど、組織コミットメント(情緒コミットメント)が高まる」という結果は、実践的な示唆が得られるものであると感じました。
(逆にいえば、ダイバーシティが低い職場だと、そんなに影響がないというのも興味深いところでした)

「ありがとう」という感謝が、明日からすぐにできるダイバーシティを推進する一手として、有用なんだなと勉強になった次第です。

最後までお読み頂き、ありがとうございました!

※本日のメルマガは「note」にも、図表付きでより詳しく掲載しています。よろしければぜひご覧ください。

<noteの記事はこちら>

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