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3896号 2024年10月25日

強みコーチングで変革型リーダーシップを育成できる! ー管理職37名を対象とした実証研究ー

(本日のお話 6324文字/読了時間8分)

■こんにちは。紀藤です。

昨日は、終日リモートワーク。
ずっと家に引きこもって仕事をしていましたが、家のそばに
内緒にしておきたいくらい質の高い区民センターがあり、
そこが、無料でオフィス化できることがわかりました。
(なんと足湯や、ピアノのレッスンルームまであるのです)

なんともありがたい限り。使い倒そうと思います(笑)
また夕方からは15kmのランニングでした。



さて、本日のお話です。

今回は、「強み」に関する論文のご紹介です。

コーチングは、組織内でも、個人的な成長のプロセスとしても、多くの方に知られるようになりました。その中で、「強みベースのコーチング」とされるものがあります。すなわち、「自分の強みを認識し、その強みを活用する」ことに焦点を当てたコーチングです。

今回の論文では、その「強みベースのコーチング」をエグゼクティブに実施した際に、リーダーシップ開発に役立つのか?を検証した内容となります。

それでは、どんな内容なのか、早速みてまいりましょう。

今日のお話は、相当長いのですが、、、よろしければお付き合い下さい。

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<目次>
今回の論文
30秒でわかる本論文の概要
「強みベースのコーチング」とは
研究のデザイン
測定尺度
(1) MLQ(Multifactor Leadership Questionnaire)
(2)Realise2 強みインベントリ
(3)強みベースのコーチングプロトコル遵守度チェックリスト
(4)マニュアル遵守チェックリスト
研究の結果
わかったこと1:強みベースのコーチングは、「変革型リーダーシップ」の要素を向上させた
わかったこと2:強みベースのコーチングは「取引型・回避型・放任型リーダーシップ」にポジティブな影響を与えた
わかったこと3:強みベースのコーチングに遵守することが、変革型リーダーシップスコアを高める
まとめと個人的感想
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<今回の論文>
The Effectiveness of Strength-Based Executive Coaching in Enhancing Full Range Leadership Development: A Controlled Study(強みベースのエグゼクティブ・コーチングの効果:全範囲リーダーシップ開発の向上に関するコントロール研究)
Doug MacKie
Consulting Psychology Journal: Practice and Research, 2014年
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■30秒でわかる本論文の概要

この研究は、強みベースのコーチングが、変革型リーダーシップに与える影響を調査したものです。

約30名の幹部・管理職が対象となり、コーチンググループ(14名)と待機リスト(17名)に分けられました。

コーチンググループは、90分×全6回(3ヶ月)の強みベースのリーダーシップ・コーチングを受講しました。

コーチングプロセスは、ばらつきが出ないようにマニュアル化されました。強みの診断方法は、『Realize2』(現 Strengths Profile)を利用し、各セッションで扱うテーマを揃えて、目標設定とフィードバック、アクションプランの策定を行いました。

セッションの最初と最後で、リーダーシップ行動を測定する「MLQ360°フィードバック」を、上司・同僚・部下など複数の視点から行いました

その結果、コーチンググループのリーダーシップ行動が、大幅に向上していることがわかりました。

という内容です。

なるほど、「強みベースのエグゼクティブ・コーチングを実施すると、リーダーシップ行動が大幅に向上する」とのこと、実際の内容が気になりますね。より詳しく見ていきたいと思います。

■「強みベースのコーチング」とは

個人的に最も気になったのが、「強みベースのコーチング」とはどのようなものか、という点です。
通常のコーチングでは、「GROWモデル」(Goal:目標、Reality:現状、Oppotuity:機会、選択肢、Will:意思)などで、目標と現状の認識、アクションプラン策定など行うことがあります。
では、それらのコーチングと、強みコーチングは、どのように違っているのでしょうか。以下、論文より内容をまとめます。

(ここから)
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<「強みベースのコーチング・セッション」のプロセス>

(1)強みベースのインタビュー
最初のセッションでは、コーチが「強みベースのインタビュー」を実施しました。このインタビューは、参加者の過去の成功体験や、仕事においてエネルギーを得られる活動について探ることを目的としています。

(2)フィードバックの提供
・MLQ 360度フィードバック: 「Multifactor Leadership Questionnaire(MLQ)」に基づいて、360度フィードバックが行われました。これは、参加者のリーダーシップスタイル(変革型、取引型、回避型のリーダーシップ行動)について、上司、同僚、部下などの複数の視点から評価する手法です。
・Realise2(強み診断): 参加者の強み、弱み、学習された行動、未発見の強みを評価する「Realise2(現Strength Profile)」というツールを使用してフィードバックが行われました。この評価をもとに、強みの活用と改善点を探りました。

(3)目標設定
コーチングの最初の段階で、参加者は、「Realise2(現Strength Profile)」で示される、以下の3つの領域について目標を設定しました。
・実現されている強み(Realized Strengths): 既に使用されている強み。
・未実現の強み(Unrealized Strengths): 潜在的に強みであるが、まだ十分に活用されていない部分。
・学習された行動や弱み(Learned Behaviors and Weaknesses): エネルギーを感じないが、習得されたスキルや明らかな弱点。

(3)進捗の追跡
参加者は毎回のセッションで、自身の目標達成の進捗を振り返り、以下の4つの評価基準で進行状況を記録しました。
・強みの認識(Strength Awareness): 自分の強みをどれだけ認識しているか。
・強みの調整(Strength Alignment): 強みが組織や業務目標にどれだけ一致しているか。
・強みのペアリング(Strength Pairing): 他の能力と強みをどのように組み合わせているか。
・強みの活用(Strength Utilization): 日々の業務にどれだけ強みを活用しているか。

(4)アクションのコミットメント
各セッションの終了時には、参加者が次回までに実行する具体的なアクションを設定しました。これにより、セッション間の期間においてもコーチングの効果が持続されるようになっています。
――――――――――――――――――――――――――
(ここまで)

この強みコーチングのプロセスについて、同じプロトコル(ルールや手順)を用いました。
関わるコーチ合計11名に対して、セッションの内容と進め方が標準化され、コーチングの質にばらつきが出ないように工夫し、マニュアル化して対象者に実施しました。

■研究のデザイン

次に、本研究のデザインについても、お伝えします。

●対象者:
・37名のシニア・マネジャー(男性17人、女性20人)
・多国籍非営利組織のオーストラリア部門の上級管理職・リーダー
・平均年齢は45歳

●コホートの分け方
・コホート1(コーチング群)
・コホート2(待機リスト群)

●研究の進め方
・合計3回で調査を行った。(Time1,Time2,Time3)
・Time1ではどちらもコーチングを受けていない。
・Time1→2で、コホート1(コーチング群)のみコーチングを受ける(コホート2(待機リスト群)はコーチングを受けない)
・Time2→3で、コホート2(待機リスト群)はコーチングを受ける。

●コーチングについて
・コーチングは、1回90分×6回
・コーチング内容は、「強みの認識、調整、ペアリング、活用」である。
・コーチは、実務心理士であり、70%以上が修士以上の資格を持つ。

■測定尺度
本研究では、4つの尺度について測定をしています。

特に、その中心的な役割を果たしているものが、「MLQMultifactor Leadership Questionnaire)というものにあります。これは、360度調査になるため、自分・上司・同僚・部下を集計し、参加者1人あたり、約9.86人の回答を得ています。

以下、各測定尺度とその内容についてまとめます。

(ここから)
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(1) MLQ(Multifactor Leadership Questionnaire)

MLQ(多要因リーダーシップ質問票)は、変革型リーダーシップ、取引型リーダーシップ、回避型リーダーシップ行動(自由放任型)を測定するための質問票です。この尺度は、リーダーの行動を9つの要素で評価し、リーダーシップの効果に関する3つの結果指標を提供します。

<9つのリーダーシップ要素>(サブスケール)
MLQでは、以下の9つのリーダーシップ要素を測定します。各項目は5段階評価(1 = 全く当てはまらない、5 = いつも当てはまる)で評価されます。

1)変革型リーダーシップ(Transformational Leadership)
●理想化された影響(特性)Idealized Influence (Attributes; IIA)
リーダーが尊敬され、信頼され、フォロワーに対して道徳的な模範を示す度合い。(例: 「私は自信と力を持っているように見られている」)
●理想化された影響(行動)Idealized Influence (Behaviors; IIB)
リーダーが自らの価値観や信念を明確に示し、フォロワーに対して倫理的な行動を取る度合い。(例: 「私は自分の最も重要な価値観や信念について話します」)
●インスピレーショナル・モチベーション Inspirational Motivation (IM)
リーダーが明確で魅力的なビジョンを提示し、フォロワーに対して高い目標を掲げてやる気を引き出す度合い。(例: 「私は未来のビジョンを明確に表現します」)
●知的刺激 Intellectual Stimulation (IS)
リーダーが新しい視点や問題解決方法を提案し、フォロワーの創造性を促す度合い。(例: 「私は問題解決において異なる視点を探します」)
●個別的配慮 Individualized Consideration (IC)
リーダーが個々のフォロワーのニーズに応じて成長を支援する度合い(例: 「私は他の人々が自分の強みを伸ばせるように支援します」)

2)取引型リーダーシップ(Transactional Leadership)
●条件付き強化 Contingent Reward (CR)
リーダーが明確な目標設定を行い、成果に対して報酬を提供する度合い。(例: 「私は他者の努力に対して支援を提供します」)
●能動的例外管理 Management by Exception Active (MBEA)
リーダーがフォロワーの行動を監視し、問題が発生する前に介入して修正する度合い。(例: 「私はすべての間違いを把握しています」)
●受動的例外管理 Management by Exception Passive (MBEP)
リーダーがフォロワーの行動に介入せず、問題が発生した後で初めて対処する度合い。(例: 「私は問題が深刻化するまで介入しません」)

3)自由放任型リーダーシップ(Laissez-Faire Leadership)
●自由放任型リーダーシップ Laissez-Faire (LF)
リーダーが意思決定や指導を避け、フォロワーに自主的に任せる度合い。(例: 「私は意思決定を避けます」)



<リーダーシップの効果の結果指標>
また、MLQはリーダーシップ行動だけでなく、その結果として得られる「リーダーシップの効果」も評価します。これらの指標も5段階で評価されます。

1)努力の追加(Extra Effort)
リーダーによって、フォロワーが通常以上の努力を払う度合い。(例: 「私は他の人がより大きな努力をするよう奨励します」)
2)効果性 (Effectiveness)
リーダーが組織やフォロワーにとって有効である度合い(例: 「私は効果的なチームを導きます」)
3)満足度 (Satisfaction)
リーダーシップに対するフォロワーの満足度。(例: 「私は他の人々が満足できるように働きかけます」)
――――――――――――――――――――――――――
(ここまで)



(2)Realise2 強みインベントリ
Realise2は、参加者の60種類の特性や強みを評価するオンラインツールです。以下の4つのカテゴリに分類されます。

●実現された強み(Realized Strengths): 知っており、よく活用されている強み。
●未実現の強み(Unrealized Strengths): 知っているが、十分に活用されていない強み。
●学習された行動(Learned Behaviors): 能力はあるが、エネルギーを与えない行動。
●弱み(Weaknesses): 能力もエネルギーも低い行動。



(3)強みベースのコーチングプロトコル遵守度チェックリスト
この尺度は、コーチングセッションにおいて参加者が強みベースのプロトコルにどの程度従っているかを測定します。
コーチは、参加者が強みの認識、強みの活用、強みの組み合わせ、強みの過剰利用の管理にどれだけ取り組んだかを評価し、5段階評価で記録します。



(4)マニュアル遵守チェックリスト
セッションごとに、コーチがマニュアルに従ってコーチングを実施したかどうかを評価するためのチェックリストです。各セッションで強みの識別、強みの開発計画、進捗追跡などが実施されたかどうかが確認されます。

■研究の結果

さて、ではこの強みベースのコーチングの介入の結果、どのようなことがわかったのでしょうか。以下、結果についてまとめます。

◯わかったこと1:強みベースのコーチングは、「変革型リーダーシップ」の要素を向上させた
Time1とTime2における、MLQ360°(変革型リーダーシップ)のスコアを確認したところ、コホート1(コーチング群)における、変革型リーダーシップの5つ要素すべてが、有意に向上していることがわかりました。(待機リスト群は変化なし)

なお、待機群がコーチングを開始する、Time2からTime3における、MLQ360°(変革型リーダーシップ)のスコアも確認しました。その結果、両群とも、変革型リーダーシップのスコアが有意に変化していました。
コーチングが開始されたコホート2の変革型リーダーシップのスコアが高まるのはわかりますが、コホート1ではTime2でコーチングが中止されたわけです。しかし、変革型リーダーシップのスコアは高まり続けたという結果になりました。

◯わかったこと2:強みベースのコーチングは「取引型・回避型・放任型リーダーシップ」にポジティブな影響を与えた

次に、Time1からTime2における、取引型・回避型・放任型リーダーシップと、リーダーシップの効果の結果を見ています。
強みベースのリーダーシップは、望ましいと考えられる、条件付き強化やリーダーシップの効果性、満足度、追加の努力のスコアを高めると予測されましたが、仮説通りの結果となりました。
修正的・消極的・回避的な尺度である、能動的例外管理・受動的例外管理・自由放任型リーダーシップのスコアは、低下をしていました。

◯わかったこと3:強みベースのコーチングに遵守することが、変革型リーダーシップスコアを高める

最後に検証したいことが「強みベースの方法論に忠実であることは、変革型リーダーシップのスコアに変化を与えるのか」という点です。

「別に、強みをベースにしなくても、リーダーシップ行動への変化があるんじゃない?」という疑問に対して、リーダーシップ・コーチングにおける有効成分に”強みに焦点を当てること”が含まれていることを立証しようとするものです。

このことを測定するために、MLQを最終スコアを成果変数、「コーチ遵守度 ※(3)強みベースのコーチングプロトコル遵守度チェックリスト」「マニュアル遵守度 ※(4)マニュアル遵守チェックリスト」を先行変数として、重回帰分析を行いました。

その結果、マニュアル遵守(Manual adherence)の標準化係数(β)は0.380、コーチ遵守(Coach adherence)のβは0.408と、P値も0.05未満であることがわかりました。

このことから、変革型リーダーシップのスコアに対して、強みベースのマニュアル遵守とコーチ遵守が、統計的有意な、重要な影響を与えていることがわかりました。

■まとめと個人的感想

変革型リーダーシップの要素ってなんだっけな・・・などと思い出しながら書いていたら、やたらと長くなってしまいました(汗)

なんとなく曖昧であった「強みベースのコーチング」のプロセスを明確にし、その結果を「リーダーシップ開発」の有名な尺度であるMLQと照らし合わせたことは、実務上大変有益な研究であると感じました

今回は対象者が合計30名程度と、少ないところが研究の限界となりますが、もっと大規模に行って追試研究を行って同様の結果が出たとしたら、大変インパクトがありそうだ、、、そんなことも感じた次第です。

でも、10年前にすでにこうした研究があったのですから、また発展させた研究もありそうで、更に探索して見てみたいな、と思った次第です。

最後までお読み頂き、ありがとうございました!

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