「強みは変わるのか?」論文の答え ー3年半×1600人の追跡調査でわかったことー
(本日のお話 4458文字/読了時間5分)
■こんにちは。紀藤です。
昨日は、出版に関する打ち合わせ3件でした。
出版ゼミでのプレゼンを週末に行いましたが、
その中で、企画に興味を持っていただいた、出版社の編集者の3名の方とお会いし、
打ち合わせをさせていただきました。
皆さま、本当にありがたいフィードバックや意見をいただき、
「企画は通せると思います」と、前向きに捉えていただいた方もいらっしゃって、
一気にテンションが上がってしまいました。
役に立てる「強み」の本、形にできるよう、一歩ずつ、
でも急ぎながら進めていきたいと思います。
また夜は10キロのランニングでした。
*
さて、本日のお話です。
本日も「強み」に関する論文のご紹介です。
本日は「強みは、経年で変化するのか?」という、大変よくいただく質問に対して、一つの回答を示した論文です。
具体的には、強み診断のVIA-ISと、簡易版のCSRF(Character Strengths Rating Form)を、最大3年半にわたって1600人以上に回答してもらいました。
そして、その結果わかったことは、「強みは大きくは変わらない。しかし、個別で変わるものもある」という結論となりました。
ということで、詳しく見てまいりましょう!
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<目次>
今回の論文
1分でわかる本論文の概要
研究の方法
対象者
調査尺度
結果わかったこと
(1)「順位」は大きくは変わらなかった(順位の安定性が高い)
(2)全体の「強みの平均値は」、少しだけ変わった
(3)個人内では、特定の「強み」において、変化があった
(4)強みの変化は、幸福度や抑うつ症状に関連していた
まとめと感想
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<今回の論文>
Character Strengths – Stability, Change, and Relationships with Well-Being Changes(性格の強みの安定性、変化、そしてウェルビーイングとの関係性)
Fabian Gander, Willibald Ruch
Applied Research in Quality of Life, 2020年
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■1分でわかる本論文の概要
・「性格の強み」は、一般的にば、時間と状況を通じて安定している特性(変わりづらいもの)とされています。
・その一方、育成や介入によっても変化し得るもの、とも言われます。
・これまでの研究で、「性格の強み」が幸福度と強い関係があることが示されてきました。
・しかし、「性格の強みの長期的な安定性」、そして「幸福度との関係の変化」については十分に解明されていませんでした。
・本研究は、異なる2つのサンプル(n1 = 601, n2 = 1162)において、性格の強みと幸福度を最大3.5年間にわたり評価し、「性格の強みの安定性」、「性格の強みの変容の可能性」、および「幸福度との関係」について調査しました。
・結果は、「性格の強みは長期的に安定している」ことがわかりました。一方で「ユーモア、スピリチュアリティ、慎重さなど一部の強みは他の強みと比べて変化しやすい」こともわかりました。かつ、これらの変化しやすい強みが幸福度と関連していることが示されました。
■研究の方法
では、どのような方法で、どんな研究を実施したのでしょうか。
今回、2つのサンプルでの研究をしているので、それぞれで見ていきたいと思います。
以下、詳細について見ていきたいと思います。
○対象者
●サンプル1(VIA-ISを用いた3.5年間の評価)
・19歳以上の成人(平均年齢:約44歳)
・参加者数:601名(96.7%が女性)
・国籍:主にドイツ(89.4%)、スイス(5.0%)、オーストリア(2.3%)
●サンプル2(CSRFを用いた2年間の評価)
・27歳以上の成人(平均年齢:約44歳)
・参加者数:1162名(51.2%が女性)
・国籍:主にスイス(73.8%)
○調査尺度
調査を行った尺度は、「強み」に関しての尺度と、「幸福度や抑うつ」に関する尺度を測定しています。以下の通りとなります。
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<「強み」に関する尺度>
(1) Values in Action Inventory of Strengths (VIA-IS){Peterson et al. (2005)} ※サンプル1で利用
・ペーターソンとセリグマンによる性格の強みを測定するための240項目の尺度。各強みについて10項目で評価され、性格の強みを詳細に評価する標準的な方法。
(2) Character Strengths Rating Form (CSRF){Ruch et al. (2014)} ※サンプル2で利用
・VIA分類に基づく24の性格の強みを測定する24項目の尺度。各性格の強みを簡易的に評価し、研究目的でのグループ単位の比較に適している。
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<「幸福度や抑うつ」など関する尺度>
(3) Satisfaction with Life Scale (SWLS){Diener et al. (1985)}
・人生満足度尺度、生活全般の満足度を測定する5項目。
(4) Authentic Happiness Inventory (AHI){Seligman et al. (2005)}
・全体的なウェルビーイングを測定するための自己報告式質問票。複数の指標に基づき、主観的および心理的ウェルビーイングを評価する33項目(研究では19項目を使用)。
(5) Center for Epidemiologic Studies Depression Scale (CES-D){Radloff (1977)}
・抑うつ症状のスクリーニングを目的とした20項目の尺度。一般集団を対象に抑うつの程度を測定。
(6) General Health Questionnaire-12 (GHQ-12){Goldberg (1978)}
・一般的な精神的健康状態を測定する12項目のスクリーニング尺度。抑うつや不安の問題を評価。
(7) Self-Rated Health (SRH){Idler and Benyamini (1997)}
・全体的な健康状態を主観的に評価する1項目の尺度。簡便ながら予測妥当性が高い指標。
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上記尺度について、サンプル1では、1回実施し、その後3.5年後に2回目を実施しました。サンプル2では、1回実施をし、その後2年後に実施されました。
■結果わかったこと
それでは、具体的にどのような結果になったのでしょうか?
以下、上記の4つの分析内容について、わかったことをまとめます。
○(1)「順位」は大きくは変わらなかった(順位の安定性が高い)
<結果>
・「順位の安定性(Rank-Order Stability)」について、VIA-ISのテスト・再テスト信頼性は、rtt = .60 から .83 で、高い安定性を示しました。特にスピリチュアリティや創造性、ユーモアで最も高い安定性が確認されました。
・CSRFでは、2年間の測定でrtt = .37 から .69 となり、VIA-ISに比べてやや低いものの、中程度の安定性を示しました。
※「順位の安定性(Rank-Order Stability)」について
・テスト・再テスト信頼性を計算し、性格の強みが時間の経過に伴ってどの程度一貫しているかを評価しました。
○(2)全体の「強みの平均値は」、少しだけ変わった
<結果>
・「平均レベルの安定性」について、VIA-ISを用いた評価では、全体としては比較的小さい平均レベルの変化でした。一方、6つの性格の強み(忍耐力、熱意、慎重さ、希望、ユーモア、スピリチュアリティ)が平均以上の変化を示しました。(増減あり)
・CSRFでは、個々の性格の強みの評価で同様の変動が観察されましたが、VIA-ISほどの詳細な分析は行われていません。
※「平均レベルの安定性(Mean-Level Stability)」について
平均値の変化を評価するため、参加者全体の平均スコアの変動を測定しました。
○(3)個人内では、特定の「強み」において、変化があった
<結果>
・VIA-ISでは、参加者の一定割合で「性格の強みの変化」を示しました。特に「ユーモア、スピリチュアリティ、慎重さ」で有意な個人レベルの変化が見られました。
・CSRFでも一部の性格の強みで同様のパターンが見られましたが、VIA-ISほどの詳細な結果は得られませんでした。
※「個人レベルでの変化(Reliable Change Index)」について
Reliable Change Index (RCI) を用いて、参加者が実際に変化を経験したかを信頼性を考慮して分析しました。
○(4)強みの変化は、幸福度や抑うつ症状に関連していた
<結果>
・VIA-ISの測定では、「性格の強み」の変化が「幸福度」や「抑うつ症状」の改善に関連していることが確認されました。
・「幸福度」の向上は、熱意、希望、好奇心、ユーモア、感謝が強い相関を持っていました。「抑うつ症状の低下」は、希望、熱意、好奇心の変化と関連していました。
・性格の強みの変化が複数のウェルビーイング関連指標にどの程度の変動を説明できるかを、共分散構造分析によって調べました。結果、「性格の強み」の変化が、ウェルビーイング、抑うつ症状、健康指標に対して4%から18%の分散を説明できることが示されました。
(特に、幸福度の変化に対する説明力が最も高く、変化する性格の強みが幸福度に寄与していることが示されました)
※「ウェルビーイング、抑うつ症状、健康との関連分析」について
性格の強みの変化と、ウェルビーイング(AHI、SWLS)、抑うつ症状(CES-D)、および健康(GHQ-12、SRH)との相関を調べるために、変化スコアを用いた相関分析を行いました。これにより、性格の強みの変化がこれらの心理的および健康的指標にどの程度関係するかを評価しています。
■まとめと個人的感想
研修でめちゃくちゃ良く質問される「強みって経験で変わるんですか?」に、一つの答え、【基本的には安定している(あまり変わらない)】が示さたと感じました。
もちろん個人によって差はあるでしょう。しかし、サンプルを2つに分けて1600人に調査をした統計データがあると、説得力がぐっと高まります。
先述の繰り返しですが、VIA-ISのしっかりしたテストの場合、3.5年の間を明けた場合は、テスト・再テスト信頼性で、rtt = .60 から .83 で、高い安定性を示すこと。
CSRFと1問1答の簡易のテストで、2年間を開けた場合でも、2年間の測定でrtt = .37 から .69と、中程度の安定性を示すこと。
なるほど、と思いました。
また、【「性格の強み」も変わりやすいものと変わりづらいものがある】ということも興味深かったです。変わりやすいものは、「ユーモア、スピリチュアリティ、慎重さ」などであるそうです。
ある知人の「強み」の専門家の方が、東北の震災の前後で、関わった人の「運命思考(スピリチュアリティ)の出現率が変わったように感じる」という話もありました。
また、他の論文で、アメリカの9.11の前後で4800人の「性格の強み」の変化を調べた「Character Strengths Before and After September 11」(Peterson, Seligman, 2003)でも、「感謝」「希望」「親切」「リーダーシップ」「愛情」「スピリチュアリティ」「チームワーク」が顕著に増加をしたことが見えられた話もありましたが、これも、共通しているようにも思いました。
色んな論文もつながるように思えて、非常に興味深い内容でした。
最後までお読み頂き、ありがとうございました!
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