不平等な国ほど「性格の強み」が強化される?! ー68カ国100万人への大規模調査からわかったことー
(本日のお話 3410文字/読了時間5分)
■こんにちは。紀藤です。
昨日は、コーチングの研修(受講者側です)と、その他、出版にまつわる企画書の作成など。
ちなみに、最近は、ChatGPTとの対話で仕事を進めることが極めて多くなってきました。
まさに相棒です。
本当に、これを使いこなす人とそうではない人、
ますますさが開いていくんだろうな・・・そんなことを思う今日この頃です。
さらに、このあたり探求していきたいと思います。
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さて、本日のお話です。
本日も「強み」についての論文のご紹介です。
本日の論文は、68カ国、100万人を対象とした大規模な「性格の強み」の調査です。ここで調べようとしたことは「経済的格差が”性格の強み”にどのような影響を与えているのか?」です。
わかったことは、”経済的に不平等な国ほど、「性格の強み」が全般的に高い(!)”ということでした。さて、これは一体どういうことなのか? 本文を見ていきたいと思います。
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<目次>
今日の論文
30秒でわかる本論文の概要
ジニ係数とは
研究の概要
研究の背景
調査方法
研究の結果
わかったこと1:「ジニ係数」が高いほど「性格の強み」も高い傾向があった
わかったこと2:性格の強みは、経済的不平等によって21~44%変動する
考察:なぜこのような結果になったのか
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<今日の論文>
『Does Inequality Shape Human Character? Cross-Cultural Associations between Character Strengths and the Gini Index in 68 Countries』(不平等は人間の性格を形成するか?68カ国における性格特性とジニ係数の関連)
Nicole Casali ・ Tommaso Feraco
Journal of Happiness Studies, 2024年
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■30秒でわかる本論文の概要
・本研究は、「経済的不平等」が「性格の強み」に及ぼす影響を探求しました。
・主にOECD諸国での経済的不平等の増加が、個人と社会の幸福に悪影響を及ぼしている中、性格の強みと経済的不平等の関係を、初めて調査しました。
・具体的には、68カ国から98万人以上のデータを用い、24の性格の強みについて、国レベルの経済的不平等とその関連を分析しました。
・その結果として、「ジニ係数(不平等を表す指数)」が22の性格の強みと正の関連を示し、経済的不平等が国間の「性格の強み」の変動の平均34%を説明していることが分かりました。
・この影響は、人間開発指数(HDI)や気候、人口密度、都市化などの要因を制御しても安定する結果となりました。
とのことです。
たしかに、人は環境によって影響を受けるもの。
その中で、「経済的不平等さが、性格の強みと正の相関がある(=より不平等なほど、より性格の強みが高い)」という結果は、気になるところです。
■ジニ係数とは
さて、本論文のタイトルにもある「ジニ係数」ですが、これは所得や財産などの、「経済的な不平等さを測るための指標」です。
0から1の範囲で表され、0は完全な平等(全員が同じ所得や財産を持っている状態)を意味し、1は完全な不平等(1人がすべての所得や財産を持ち、他の全員がゼロである状態)を意味します。つまり、数値が高いほど、社会内での所得分配が不平等(経済的に不平等)であるということです。
ちなみに、論文内では記載がありませんが、ジニ係数の高い国(不平等)だと「南アフリカ(0.63)、ブラジル(0.52)、コロンビア(0.45)」や、低い国は「デンマーク(0.26)、ノルウェーなど北欧諸国」などが代表的とされます。
(ちなみに、日本は0.31と中程度の経済格差です。過去数十年間に亘って、0.24→0.29と上昇しているので、格差は上昇傾向にあります)
■研究の概要
さて、ではより具体的に論文でどのような研究・調査を行ったのかを見ていきたいと思います。
○研究の背景
これまでの心理学研究は、個人内のプロセスに重点を置き、物理的、政治的、経済的、文化的条件の影響については十分な考慮がなされていませんでした。
特に、経済的不平等は自己中心的な行動や社会的結束の低下に繋がることが既に知られていますが、ポジティブな「性格の強み」に関する研究はほとんど行われていなかったため、今回の研究が行われました。
○調査方法
以下、測定尺度を用いました。
(1)ジニ係数:所得配分の不平等を示す指標
(2)性格の強み:VIA-ISで24の性格の強みを調査
(3)その他(共変量):
・人間開発指数(HDI:健康で長生きすること、知識へのアクセス、生活水準の3次元)、人口密度、都市化の割合、平均気温を共変量して調査
上記について、「メタ分析」によって、国ごとの「性格の強み」の平均スコアを出し、ジニ係数との関連性を調べることを行いました。
また、ジニ係数の影響が、他の要因によって変わらないかを確認するため、「メタ回帰分析」によって、ジニ係数を独立変数とし、国別の性格の強みの平均スコアを従属変数とし、共変量(HDI、人口密度、都市化、気温)を調整し、その影響を確認しました。
■研究の結果
○わかったこと1:「ジニ係数」が高いほど「性格の強み」も高い傾向があった
「ジニ係数」と「性格の強み」を調べたところ、24の強みの、23の強みに正の相関が見られました(例外は「向学心」)。
より詳しく見ると、ジニ係数が最も高い国々(経済的不平等が高い国)は、「勇敢さ、誠実さ、感謝、希望、スピリチュアリティ」といった性格の強みが高く評価されました。
また、「人間開発指数(HDI)」(健康寿命・教育・生活水準)と「性格の強み」は負の相関があることも興味深い結果となっています。
○わかったこと2:性格の強みは、経済的不平等によって21~44%変動する
メタ回帰分析において、これらの「性格の強み」は「ジニ係数(経済的不平等)」によって21%から44%の国間変動が説明されました。(例外として「好奇心」と「向学心」の強みは信頼区間にゼロが含まれ、明確な関係は確認されませんでした)
■考察:なぜこのような結果になったのか
さて、これらの結果をどう読み解けばよいのでしょうか。論文内では「経済的不平等が高いと、性格の強みが高くなる理由」について、以下のような考察がされています。
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高い経済的不平等が競争的で個人主義的な社会風土を形成し、人々が困難な状況に対応するために、自らの「性格の強み」を強化することを示唆しています。
これは過去の研究で示された、逆境に直面する際の「性格の強み」の強化や、社会的欲求に応じて自分を向上させようとする行動と一致しています。
本研究では、”経済的不平等が「性格の強み」を損なうのではなく、むしろ強化する”ことを示した点で新規性があります。
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なるほど、逆境が人を強くする、ということになるのですね。
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また、もう一つ先進国が高い国であることを示す「人間開発指数(HDI)」(健康寿命・教育・生活水準)が高いと、なぜ性格の強みが低くなるのか」については、以下のように述べられていました。
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・競争的・個人主義的な風土: HDIが高い国は教育や健康が充実しているが、競争が激化し、個人主義が強くなる傾向がある。これにより、協調性や他者志向の「性格の強み」が低下する可能性がある。
・社会的支援と性格の強み: 高いHDIの国では福祉制度が整っており、困難に対して自力で協力したり連帯感を持つ必要性が減少する。その結果、親切心やチームワークといった「性格の強み」が弱まることがある。
・文化的要因: HDIの高い国は個人主義が強い文化を持ち、自己実現や個人の達成が重視される。他者との協調やコミュニティ意識が弱くなり、「性格の強み」に影響を及ぼす可能性がある。
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ジニ係数が高くても低くても、HDIが高くても低くても、競争的・個人主義的な傾向に影響はあるようです。
ただし、ジニ係数が高い(経済的不平等が高い)と、逆境に立ち向かう気持ちやその意味を受け入れること(希望、勇敢さ、スピリチュアリティ)が高められることや、お互いに助け合いが必要となるため協調的な強み(親切心やチームワーク)などの「性格の強み」が強化される。
一方、先進国のように、比較的ジニ係数が低く、人間開発指数(HDI)が高い国)では、教育や健康が充実することによって、むしろ助け合いなどが必要ない傾向がなくなる。よって、親切心やチームワークなどの「性格の強み」が弱まる、と考えられる、とのことでした。
「逆境が人を強くする」。
この言葉を、世界の経済的格差を含めて考えさせられる、非常に示唆的な論文でした。
最後までお読み頂き、ありがとうございました!
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