おすすめの一冊『会社という迷宮 ー経営者の眠れぬ夜のために』
(本日のお話 2839文字/読了時間5分)
■こんにちは、紀藤です。
先日土曜日は、子どもを連れての公園めぐりなど。
夜は、オンラインミーティングなどでした。
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さて、本日のお話です。
毎週日曜日は、おすすめの一冊をご紹介するコーナーです。
今週の一冊はこちらです。
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<今週の一冊>
『会社という迷宮 経営者の眠れぬ夜のために』
石井 光太郎 (著)/ダイヤモンド社
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■「会社」は競争するために生まれてきたのか
本書は「経営コンサルタントとして数多くの企業や経営者と対話を続けてきた著者が語る経営者論」と紹介されています。
著者は、現代の「会社」や「経営」に対して、根本的な疑義を投げかけています。
そもそも、世に問いたい想いがあってスタートした会社。そこには、創業者の中にあった目に見えない”志”のようなものを原動力とした原始の力強さがあり、信義を元にして、会社は歩みを始めたはず。そんな中で、規模も大きくなり、影響力を持った頃に、おもむろに「コンサルタント」という種族がやってくる、といいます。
コンサルタントは、「市場」「セグメンテーション」「競争戦略」「業務分析」「組織論」などのフレームワークを持ってきて、現在の組織をCTスキャンで測定するように「御社の強み・課題・成長領域」などと事細かに分析をしていきます。
そして、いつからか「会社」は「ビジネスというゲームに勝つための構造物」になり、経営者はそこに組み込まれた使用人になっていく。
何のために会社が生まれ、何のために事業をしているのか。。。こうした原点が語られることは少なくなり「勝てることをやるのがビジネスだ」「成長することが目的だ」と盲目的に唱えるようになってしまう。。。
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原点に立ち返れば会社は、競争に勝つために生まれたわけではないはず。
言うとしても「夢や志を体現するために、競争しなければならなくなった」という話なのが、いつからか主従が逆になってしまった。
本書では、このように「会社」から血が抜かれ、骨抜きにされただけになっている、その心に人間がいなくなった状態に「常識的感覚を取り戻す」と述べつつ、始まっていきます。
■「会社という迷宮」の経営辞典
いつからか、経営戦略としての当たり前、が広く浸透し、それを何のフィルターもかけずに受け取っている私達がいるようです。
本書の『会社という迷宮』のおける地図は、私たちが当たり前に使っている”言葉”を見返すことから始まります。
「戦略」「市場」「価値」「利益」「成長」「会社」「統治」「組織」「改革」「M&A」「開発」「人材」「コンサルタント」「信義」。
以上の”言葉”について、そもそもこれらの言葉は何を意味するのか?何を意味すべきなのか?を、著者の豊富な経験を元に、独自の視点で問いを投げかけられています。
そうした深い洞察を読む中で、これまで自分たちが当たり前として受け入れてきた——言い換えれば深く考えてこなかった——概念について改めて探求させられる感覚になるのです。
本書に対して、経営学者の楠木建さんが推薦文を寄せています。
“本質に次ぐ本質。議論が重く、大きく、そして深い。
あまりにも本質的であるがゆえ、経営者が見て見ぬふりをしてきた確信をストレートに衝く。“
そして、実際に読み進める中で、私もごく小さな会社を経営する上で、自分の考え方を問われているような感覚もしました。
■「価値」とはなにか
本質的な話が本書で語られるべき理由は、経営コンサルティングを進める中で、経営者と話が行き着くところは、結局のところ、根本的な部分のせめぎあいになるからである、と述べています。
「会社観」(会社とはそもそも何なのか?)
「経営観」(経営とは何のために・誰のためのものか?)
こうした部分の哲学のような部分に向き合うことが、著者がコンサルタントとして価値を提供される上で、ボトルネックとなっていたようです。
一つの例として、「価値」の章で語られている内容を、ご紹介いたします。たとえば、こんな話が書かれていました。
(ここから)
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経営者自身が「弊社の企業価値を上げたい」といっている時、まさか、神様が決める絶対的で普遍的な企業の価値などとは考えていないと思いたいが、しかし、「株式時価総額」や「株主価値」といった概念を通じて、次第に「企業価値」という存在が押しのけられていく巧妙な仕掛けは、まさにそうした惹起を生み出すのに十分なものであったと言える。(中略)
「自らが考える善い会社、善い経営」という「価値観」を宿す主観を手放して、「他者が示されたよい会社の尺度」に従ってひたすらよい点数を取るべく努力し、その結果を「計測」されて通信簿をつけられる存在になりさがった。
P53-54
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(ここまで)
現在は、たくさんの「ものさし」が社会に存在しています。
財務的な指標で言えば、時価総額、企業価値、株価収益率、自己資本比率、EBITDA、コーポレート・ガバナンス、株価資本比率など。非財務的な指標では、NPS、顧客満足度、市場シェア、離職率、人的資本、エンゲージメント、ウェルビーイングなどなど。
もちろん、「社会が共通した価値」と認めることにアンテナを立て、その想定基準を高めることは、一定程度必要な部分もあるかもしれません。しかし、そうして周りの声にゆらゆらする揺れ動く状況を、著者は以下のように喝破します。
(ここから)
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この会社にとっての「価値」とは、「外部の人がいいと言うこと、価値があると認めること」なのである。かくして、会社そのものが、ただ「計測」される存在となる。(中略)
右がいいと言われれば右に行き、左がいいと言われれば左に行く。世の中の潮に流されて浮遊する。潮流に乗ると言えば聞こえはいいが、要するに「私は誰である」というアンカーがないのである。その挙句の果てが「わが社の事業選別基準は、儲かるか儲からないかである」「わが社の使命は、成長するということである」と本気で(?)宣うことになる。
P56
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(ここまで)
もともと、会社とは、”自ら世に問うものがあるはずではないか”という起点があるはず。しかし、何が価値なのかを自ら問うことがなければ、それは当然できない、とのこと。
しかし、実際にこうしたことがコンサルティングの現場で起こり、そうして「会社観や経営観のせめぎ合い」が起こる・・・とのこと。
■読んでみた感想
他にも、一つ一つの章が考えさせられ、簡単には感想を言葉にできない感覚を覚えています。
「成長」の章では、「企業は成長しなければいけない、成長がすべてを癒してくれるという。それは本当か?」と問います。大きくなり、会社が成長することが全てか? 会社が成長することと、生きることは違うのでは。成長が全てではなく、老いて成熟することはあるのではないか?
では、成熟するとは何なのか?
・・・
本書には、長年コンサルタントとして関わってきた著者が感じる、現代の「会社」や「経営」の考えに対する、根本的な違和感を、円熟された考察と表現で見事に描かれています。そして、読者に問いかけます。
この本を読んで「成長が全てを解決する」と、確かにどこかで盲信していt(しようとしていた)自分にも気づき、ハッとさせられたのでした。
経営や組織に関わる皆さまにお薦めしたい考えさせられる良書でした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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