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4031号 2025年3月9日

おすすめの一冊『Z世代化する社会: お客様になっていく若者たち』

(本日のお話 3443字/読了時間5分)

■こんにちは。紀藤です。

昨日は、午前中は、仲間の経営者との「戦略合宿」の2日目。
その後、茨城の妻の実家への移動でした。



さて、本日のお話です。

本日は、最近読んだ本の中からご紹介する「おすすめの一冊」のコーナーです。今回の本はこちらです。

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『Z世代化する社会: お客様になっていく若者たち』
舟津 昌平 (著)
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東大の経済学部で講師を務める30代の著者が、大学教員として大学生に関わる中で、実際のインタビューや調査を含めて、現在の若者が一体どのような生態なのかを、就活市場、ガクチカ、友人関係などの具体的事実や、大学生の生声を含めて、リアルに描いている著書です。

「最近の若者」とか「Z世代」などというと、ある時代の人をひとまとめにするような乱暴さがあることも踏まえつつ、実はそれは「若者だけではなく、私達も同じようなことが言えるのではないか?」と、我々にも矢印を向けられているように感じられる本でした。

ということで、早速本書のポイントを見ていきたいと思います。

■本書の概要

本書のスタンスについて、著者はこのように述べています。

”Z世代と呼ばれる若者たちを観察することで、われわれが生きる社会の在り方と変化を展望しよう”というのが本書の狙いである。P4

そして、本書の独自性について、以下の2点を挙げています。

1,企業やビジネスといった視点が中心であること(学校や受験などの教育をテーマとした若者論ではない)
2.若者を「他人」にしないこと(若者をイメージで捉えることなく、若者との実際の対話と聞き取りから導き出した論であること)

とのこと。実際に読んでみても、そのような具体的な事例が豊富にあり、「へー、そうなんだ・・・」と実に興味深いものばかりでした。たとえば、

連絡先の交換は、インスタ→LINEの順番であること(LINEは”重い”)。友達候補には重要な連絡先は教えない。

「インスタは、イケてるグループにいるけど、イタくない、みたいなのがめっちゃ大事である(よって、自分のアカウントでキラキラしたものを投稿しつつも、誰かに後ろ指さされるのはイヤであるため、事前に「自己満アカです」と書いておく)

加工が当たり前の文化で、生の状態を投稿するSNSを面白がる「Be Real(2分以内に”今”の投稿をしなければいけないSNS)」。「監視社会文化」が当たり前であり、それも楽しむような雰囲気がある。

などです。

以下、本書の目次です。

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はじめに──Z世代を語る意味
第1章 Z世代の住処──SNS、学校、友達、若者世界のリアリティ
第2章 消費の主役・Z世代──経営者化する社会
第3章 唯言が駆動する非倫理的ビジネス──開かれたネットワークの閉じられたコミュニティ
第4章 劇的な成長神話──モバイルプランナーのアナザーストーリー
第5章 消えるブラック、消えない不安──当たりガチャを求めて
第6章 不安と唯言のはてに──われわれに何ができるのか
おわりに
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Z世代のSNS、消費、唯言(言葉で社会を作る)、成長、若者の不安など、「若者」✕「企業・ビジネス」という観点で、ユーモラスに描かれていくので、読み物として面白く、スイスイ読むことができます。

■特に印象的だった点

さて、本書を読んで面白かった点はいくつもあるのですが、個人的に、特に以下の2点は印象に残りました。

(1)「モバイルプランナー」という仕事
Z世代が非倫理ビジネスに手を出してしまうというニュースが、しばしば聞かれます。スポットバイトで「ラクして稼げるから」と違法的な仕事に手を出してしまう・・・というような例です。

その中で一時期、報道番組にも取り上げられた「モバイルプランナー」という仕事があり、そこに関わる学生の考えや、ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)の関連が興味深いものでした。

「モバイルプランナー」とは、要は携帯のプランの契約変更によって、手数料を稼ぐというビジネスです。要は、”営業”という仕事なのですが、人とのつながりがない中で、その契約をとるためには、友人や親族という人間関係を使うことになります。あるいはビジネス交流会や、飛び込みなど。

こうした仕事が「大学 インターン」などと探すと、Googleから上位に表示され、また99%がそうした学生を元にビジネスをしている会社もあり「成長できる」などの理由で、大学生でやっている人が増えていた、という話。

友人関係をビジネスに変えるというリスクをはらむ一方、このビジネス自体に違法性はあるわけではありません。しかし、これはマルチ商法のようであり、批判する大人が多数いることを含め、報道され、問題視されました。

一方、「コミュ力」「ガクチカ」「インターン」を求める学生にとって、その経験によって力をつけた人もいる、ということで、果たしてこれは一方的に否定されることなのだろうか、というような問いを投げています。

明確に「コレが答えだ」ということは述べていないのですが、こうした学生のニーズ(現代に始まったわけでもない気もしますが)を利用し、そして利用する企業があるという点はいただけない気はしましたが、社会が作り上げているとも言えるんだろうな、とも感じるのでした。



(2)「唯言」の猛威と支配
また、「唯言論(lingualism)」という認識論・存在論の紹介と、それを「暴力的な方法で使う若者たち」についても言及されているのが、共感・納得するものでした。

唯言論とは、”言葉のみの言葉、意味内容の存在しない言葉”のことです。

もう少し解説すると、”リンゴ”の場合、リンゴという「物」があり、そこに人間が名前をつけました。これを「物質主義(唯物論)」といいます。
一方、”約束”の場合、約束という「物」はなく、人が「明日15時に公園で会おう。約束ね」とすることで約束が生まれます。これは観念が先行しているので「観念主義(唯名論/唯言論)」と呼びます。

そして、モノの本質ではなく、”言葉”が優先される考え方を、唯言論といい、これが暴力的な使い方がされる、という話です。

たとえば、こんな感じです。

・人気がある女子を妬んだスクールカースト上位のクラスメイトが「実は、あの子って、よく見るとブサイクだよね」と流布した。それが広がると「あの子はブサイクだ」というクラスの認識になった。(※時代によって美醜の概念は代わり、それを”言葉”で事実を構成してしまえる=唯言の暴力的な使い方)

・年長者の講演で「みんなには、リスクを取ってほしい」という話をしたものを聞いた大学生。感想で「あーでも、なんだか聞いてる途中で”宗教”みたいだなって思った」と言った。(「宗教である」と言葉にした瞬間に、対象を矮小化し、笑いものにする言葉といえる)

他にも、熱心なその人を思ったアドバイスだったとしても、「説教かと思いましたよ」といった瞬間に、その発言者に対して「空気を読めない相手が悪い」という雰囲気を醸し出す言葉になります。

熱血や抽象的な努力目標を掲げたり、物語を共有して共通目標を目指すことを「宗教」と呼びたがるZ世代はいると著者は指摘もしていますが、こうした、唯言論のようなものも跋扈し、また大人も「好きにしたらいいんじゃない」という、自由を尊び、かつ冷たい言葉を伝えるようになるのでは、そんな考察をされていました。

■まとめと感想

本書の副題に「お客様化するZ世代」とありますが、学生は本来”お客様”ではなく、共に学校生活を作り上げる存在だったのが、「大学に満足させてもらうもの=テーマパーク化」するという事が起こっているのでは、と述べます。

そうしたスタンスで、学生に叱責をしたり、個別に踏み込むと、「お客様なのに不快な気持ちをさせられた」と思う学生が生まれ、そうした事例から色々と面倒なことが発生すると認識した大人たちが、「卒なく、踏み込まず、淡々と接する」ことで、「座って黙っている=いい子である」という学習をしてしまうことになるのでは、と続けます。

しかし、社会では「黙って座っている」がいい子のはずもなく、むしろ価値を提供する側に回ることが求められます。そうしたZ世代のスタンスを、共犯的に作ってしまっているのが、もしかすると社会であり、大人たちなのかもしれない、そんな疑問を提唱されているのが印象的でした。

もちろん、これがZ世代の全てではなく、一部を切り取ったものであることは認識の上ですが、それでも傾向として大変勉強になりました。4月から始まる大学のリーダーシップ授業の兼任講師においても、学生に実際どうなのか聞いてみたいな、などと思った次第です。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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