過去・現在・未来をつなげるスキル「時間的展望」とは何か? ー読書レビュー『非認知能力』#8
(本日のお話 2154字/読了時間3分)
■こんにちは。紀藤です。
昨日は、午前中ピアノのレッスン。
また午後からは息子4歳と葛西臨海公園で観覧車に乗ってきました。
曇り空で何も見えない&揺れてコワイ(私だけ怖がっていた)体験でした。
(観覧車は、絶叫系だと思っている一人です)
*
さて、本日のお話です。
先日より「非認知能力」について学べる専門書をご紹介しています。
引き続き、本日も読み解いてまいります。
本日取り上げる非認知能力は、過去・現在・未来を関連づけて捉えるスキルである『時間的展望』(Time Perspective)です。
ちなみに、VIAの「性格の強み」でも「大局観」という時間的展望に関わる特性が強みとして定義されていたり、クリフトン・ストレングスでも「原点思考・適応性・未来志向」などの関連する資質が表現されているなど、”時間を見通したり関連付けたりする力”は、成果を生み出す上で、重要な概念と言えそうです。
ということで、「時間的展望」とは一体なんなのか?
それらは成果にどのような影響があるのかなど、詳しくみてまいりましょう。
それでは、どうぞ!
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<目次>
時間的展望とは何か
時間的展望の「定義」
時間的展望の「5つの領域」
時間的展望の「指向の傾向」
時間的展望の「年齢による違い」
時間的展望の「成果」
時間的展望を高めるための「介入方法」
(1)展望地図法
(2)メンタルコントラスティング
(3)ロールレンダリング(役割交換書簡法)
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■時間的展望とは何か
私たちは、過去の経験や出来事が、現在の自分の認識や考え方に影響を与えています。同時に、未来をイメージすることで現在どうすべきなのかを決める、ということを日常的に行っています。
もっと言えば、現在の捉え方次第でも、過去の経験の意味が変わってくることもあるため、過去・現在・未来は相互に影響を与えながら形を変えていくようです。こうした相互作用のことを「時間的展望」と呼びます。
では、時間的展望にはどのような研究があり、何がわかっているのでしょうか。項目ごとに見ていきたいと思います。
◎時間的展望の「定義」
まず、時間的展望の定義です。
最も有名で広く使われているものは「ある一定時点における個人の心理学的過去、および未来についての見解の総体」(レヴィン)というもの。
本章ではその定義をさらに深めて、より具体的に「個人の心理的な過去・現在・未来の相互連関過程から生み出されてくる、将来目標・計画への欲求、および、過去・現在・未来に対する感情」としています。
◎時間的展望の「5つの領域」
さて、そんな時間的展望の概念は、5つの領域に整理されています。
以下の5つです。
<時間的展望の5つの領域>
1.「態度」:過去・現在・未来への肯定的・否定的感情や評価
2.「指向性」:過去・現在・未来への重要度の認識
3.「関連」:過去・現在・未来がお互いに関連している程度の認識
4.「頻度」:個人が過去・現在・未来について考える頻度
5.「意味」:個人が過去・現在・未来をどのように定義づけているか
Mello&Worrell(2015)
上記の5つの領域についても尺度集が作成されていたり、また「態度」に対する側面では、別の尺度(Zimbardo Time Perspective Scale:ZTPI)が作成されているなど、探求が進められています。
◎時間的展望の「指向の傾向」
現在に注目する人もいれば、未来に注目する人もいる。
そんな、「時間的指向」(重要度の認識)についても傾向があるようです。
まず、日常的には「現在のみ」を考える人が53%、次に「未来のみ」が19%、そして、「現在と未来」が13%、「過去のみ」が5%、「現在と過去」が3%となっていることがわかったそう(Baumeister et al., 2020)。
ちなみに、過去に焦点を当てることと、過去否定には正の相関があるそうで、過去を見るとやや否定的になるようです。
加えて、余談ですが、上記の「現在→未来→過去の順で想起される」という傾向は、クリフトン・ストレングスの34の資質の出現率が「適応性(今)→未来志向(未来)→原点思考(過去))となっている結果とも整合しており、面白いなと思いました。
◎時間的展望の「年齢による違い」
時間的展望の研究をまとめた「メタ分析」もいくつか出ているのですが、その中で「年齢と態度」の関連について、72の研究、合計29,815名を分析した結果、以下のことがわかっています。
「過去否定」と「現在快楽」ことが、年齢と負の関連を示した。
(=過去を否定することや、現在の快楽を重視する傾向は、年齢を重ねるたびに小さくなる。逆に言えば、若者は「現在の快楽を重視する傾向」がある、といえる)
Laureiro-Martinez et al., 2017
◎時間的展望の「成果」
他にも、バードらによる、378の研究のメタ分析によると、時間的展望の「未来展望の”態度”」がポジティブな影響をもたらすことを示しました。
「未来展望」は、目標設定、目標モニタリング、目標達成行動、自己制御行動、成果との正の相関を示した。
(=未来を考える態度を持つと、目標設定が促され、目標モニタリングや自己制御能力が高まり、成果につながる)
Barid et al. 2020
■時間的展望を高めるための「介入方法」
では、時間的展望を高めるために、どのような介入ができるのでしょうか?
本章では、青年期における人格形成、キャリア形成、学業行動などに影響を与える教育についての介入が紹介されていましたが、いずれも興味深いものでした。以下、一部紹介いたします。
(1)展望地図法
{概要}:自分自身の特徴を、視覚化・外在化しながら、過去・現在・未来にわたる自分のストーリーを作成するもの。
{目的}:時間的展望を再構成し、可能自己(なりたい自分、なりたくない自分など)を創出すること
{手順}:(STEP1)付箋に「現在の私は・・・」に続く短文、または単語を5つ以上思いつく限り記述する。「過去」「未来」についても同様に、違う色の付箋を用いて記述する。
(STEP2) 私はどこから来て(過去)、今どこにいて(現在)、どこへ行くのか(未来)という時間の流れを重視しながら、書いた付箋を台紙に貼っていく。それらを線で結び、必要な説明を書き込む。
(STEP3)完成したら、お互いの人と自分の展望地図について説明し合う。
{得られる成果}:首尾一貫性の感覚や、過去・現在・未来へのポジティブな態度が高まることが報告されている(園田, 2011)
(2)メンタルコントラスティング
「空想的な未来」と「現実」を対比させ、未来を現実的なものにし、そこへ至る道筋をつくる方法。このことによって、未来を現実と対比させることで、一つの連続したもの捉えることができ、実現のための行動に繋がることがわかっている。(”つなげる”という行為が重要)(Oettingen et al. 2001)
(3)ロールレンダリング(役割交換書簡法)
「3年後の自分」に手紙を書き、また「3年後の自分から手紙を返信する」という現在と未来を思考の上で往復させる介入方法。「3年後の自分に向けた手紙”だけ”」では介入効果は得られなかったが、「3年後の自分からの返信」があった場合、未来の自己連続性が高まり、キャリア計画の向上、学業的満足遅延の上昇が見られた。(Chishima&Wilson,2020)
■まとめと感想
これまで私が関わってきた「ストレングス・ファインダー研修」などでも、上述した「原点思考」「適応性」「未来志向」などで、時間的指向の違い等があることを感じてはいました。
ただ、それが別の切り口からこうして研究されることで、よりその解像度が高まったこと、また偶然の一致かもしれませんが、各指向の出現率や、またそこから得られるメリット・デメリットも、共通する物が多く感じ、改めて「時間的展望」の奥深さを感じた次第です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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