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4060号 2025年4月7日

遺伝子は、時間のなかで目を覚ます ―読書レビュー『遺伝マインド』#6

(本日のお話 2001字/読了時間 4分)

■こんにちは、紀藤です。

昨日日曜日は、終日、立教大学ビジネスリーダーシッププログラムの、
「ウェルカムキャンプ」という合宿型のキックオフイベントの1日目でした。

ビックサイトの会場を借りて、500名以上もの大規模で行われるイベントで
圧巻かつ、エネルギーの塊のような時間でした。
これからいよいよ授業が始まりますが、とても楽しみです!

*

さて、本日のお話です。

先日からお届けしている「行動遺伝学」にまつわる学びを、今日も続けます。
本日は「第4章 遺伝のはなしのつづき」より、とりわけ“時間の中で動き出す遺伝子”という視点に焦点を当てて、考えを深めていきたいと思います。

学びのベースとなっている一冊はこちらです。

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『遺伝マインド --遺伝子が織り成す行動と文化』
著者:安藤 寿康
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■遺伝子は「動き」の中にあらわれる

遺伝子というと、「生まれながらに決まっているもの」「静的なもの」としてイメージしがちかもしれません。しかし、本章を読み進めていくと、むしろその逆であることに気づかされます。

遺伝子は、静止画のように“切り取られる”ものではなく、時間の流れとともに“現れてくる”ものです。「スナップショットではなく、動画として」遺伝子の動きを見ていくことがポイント、とのこと。

はて、どういうことか?という話ですが、こんな実験があります。

たとえば、一卵性双生児と二卵性双生児の体重を、出生から成人に至るまで追跡した研究。出生時にはほとんど差がなかった体重が、年齢を重ねるごとに、一卵性の双子では非常に似通っていくのに対し、二卵性では差が大きく広がっていくことが観察されています。

つまり、時間をかけて「遺伝の影響」が顕在化していくことがわかります。遺伝は“その場で発揮される”というより、“時間のなかで発動する”性質を持っている、と言えそうです。

■認知能力にも現れる「タイミング」

同様の傾向は、身体的特徴だけではなく、認知能力においても現れます。

一卵性双子の間では、知能の相関が約80%と非常に高い一方で、二卵性では約50%にとどまります。これは、遺伝が認知能力にも大きく関わっていることを示していますが、注目すべきはその“タイミング”です。

研究によれば、3歳・7歳・12歳という年齢で、新たな遺伝子の発現が確認されています。これはちょうど、発達心理学でも大きな節目とされる時期と重なります。

・3歳:乳歯が生えそろい、食習慣に変化が訪れる ・7歳:永久歯が生え始め、生活の中で自立が進む ・12歳:第二次性徴が始まり、心身ともに大きな変化が起きる

こうした成長の転機に合わせるように、遺伝子もまた“目覚め”を迎える、というのが非常に興味深いです。

「あの子は思春期に入ってから変わった」とか「小学校高学年あたりから個性がはっきりしてきた」といった話をしますが、その背後では、まさに遺伝子が静かに、しかし確実に動き出しているように思いました。

(たしかに、我が息子も3→4歳になるにつれて、急に人間らしく(?)なってきた感じがします。何かの遺伝子がスイッチがオンになったのかもしれません…)

■遺伝子は環境に応じて働く

さらに深めていくと、遺伝子は“固定された性質”ではなく、“環境に応じて働く”という動的な側面も持っています。

有名な実験として、ノコギリソウ(植物)の研究があります。同じ7種類の株を、標高の異なる複数の土地で育てたところ、育った環境によって植物の背丈が大きく異なったというのです。同じ遺伝子を持っていても、環境によって形や性質が変わる――これは、「可塑性(プラスティシティ)」の代表的な例です。

また、ネズミを使った実験でも、興味深い知見があります。 生まれつき学習能力の高い系統と低い系統のネズミを、それぞれ「普通」「刺激的」「劣悪」な環境で育てたところ、刺激的な環境下では両者ともに成績が向上し、逆に劣悪な環境ではどちらも低下した、という結果が出ました。

■まとめと感想

本日の遺伝子と環境の話をまとめると、以下の2点です。

―――――――――――――――――――――――――――
<遺伝子と環境の相互作用のポイント>
1.環境の自由度が高いほど、遺伝の影響が大きく現れる。
2.環境が厳しいほど、遺伝の影響が大きく表れる。
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自由にしていると、もともと持っていた遺伝的特性が自然と現れる。逆に、特殊な環境に身を置いたとき、これまで眠っていた遺伝子が目覚め、働き出す。

こうしたことは、教育の現場や、子どもの成長過程にも、大きなヒントとなる視点だと感じました。

たとえば、精神疾患のリスクを持っているとしても、それがすぐに発症するとは限りません。適切な環境が整っていれば、スイッチが入らないまま人生を全うできることだってあるわけです。逆もまた、然り。

つまり、「遺伝=宿命」ではないということ。
むしろ、「環境との出会い」こそが鍵になることを改めて感じさせられました。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

※本日のメルマガは「note」にも、図表付きでより詳しく掲載しています。よろしければぜひご覧ください。

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