今週の一冊 『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』
(本日のお話 2443字/読了時間分)
■こんにちは。紀藤です。
昨日土曜日は、今通っている「英語塾」にて,私がファシリテーターとして、
”英語でリベラルアーツを伝える(=歴史の大局観をお伝えする)”
という機会をいただき、約2時間半にわたって実施しました。
、、、とは言っても、英語が得意なわけではありませんので、
英語でできるはずもなく、英語で伝えたのは最初の30分だけ。
その後は日本語での共有になったので、
結局、ただのリベラルアーツ講座となってしまいましたが、
とても良い経験になりました。
こういう経験をする度、どこかで集中して英語を勉強しないといかんなあ、と思います。
これから気合入れて勉強したいと思います
(と、前から言っている気がします…)
*
さて、本日の話です。
毎週日曜日は、オススメの一冊をご紹介する「今週の1冊」のコーナー。
今週の一冊は、
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『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』
(ヤニス・バルファキス (著), 関 美和 (翻訳))
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です。
■この本、ギリシャで財務大臣を務めたヤニス・バルファキス氏が、
10代半ばの娘にむけて、「経済についてきちんと話すことが出来るように」という思いで記した著書です。
10代に向けた経済の話ですので、専門用語を使わず、平易な言葉で、
時に映画や小説や、神話の話などをたとえに盛り込みながら、
「経済」と言う身近にあるけれどもよくわからないものを、ひとつなぎのストーリーとして、
大変わかりやすく、小説のように伝えてくれる実に面白い本です。
■実際、私達も普段、働き、お金を稼ぎ、貯金をしたり、投資をしたりと、
「経済活動」を中心に生きているわけです。
1929年の世界恐慌や、2008年のリーマンショックなど、
経済が崩壊するようなときなどは、なお顕著です。
私達の生活も脅かされ給与が下がる、町に失業者が溢れるなど、
私達の生き死ににすらつながっているといえる経済。
しかし、その実態を明確に語る事ができる大人は、
どれほどいるのでしょうか?
お金とは?、労働とは?
銀行とは?、格差とは?
誰が経済を動かしているのか?
膨張するマネーはどこへ向かっていくのか?
そして、その中で私達には、何ができるのか?
以前から話題の、
・ブロックチェーンや仮想通貨、それがもたらす可能性とデメリット
・政府と銀行の関係
・権力とマネーの関係
・相場と人間心理の関係
・機械が人に取って代わる中で、人間が持つ役割とは
、、、
そんな旬な話についても、
秀逸な例えと、端的な語り口によって、軽快に理解を深めてくれるのです。
著書全体のイメージは、
ちょっとファンキーで無鉄砲で、
でもとっても博識で、知的で、詩的なお父さんが、
未来の事を考えて世の中の真理を伝えてくれている、
そんな雰囲気を感じた本でした。
■印象的だったエピソードの一つをご紹介すると、
こんなお話が紹介されていました。
経済が膨張したり、縮小したりする。
お金を使わないと経済が回らない。
溜めずに使ったほうが、景気が良くなる。
そんなこと解っているのに溜め込んでしまうと言う、
よくある経済の議論があります。
その一つで、2008年にリーマンショックに始まる、
連鎖的に世界経済に危機をもたらした究極の理由「人間心理」についても、
古代ギリシャのある話を例に出して語ったりします。
例えばこんな話。
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『予言は自己成就する』
「オイディプス王」と言う有名な、
古代ギリシャ時代のソポクレスの戯曲があります。
オイディプスは、テーバイという国の王様であるライオスを、
自分の父親と知らずに殺し、王妃(つまり母)と結婚する。
父親を殺し、母親と結婚するのです。
普通に考えて、これは悲劇といえるでしょう。
そして、それは実は予言で伝えられていたことで、
その予言通りになってしまった、言う話です。
事の発端は、もともと、オイディプス王のライオスが、
「息子に殺される」と預言者に告げられたことから始まりました。
それを恐れて、ライオスは召使いに赤ん坊(オイディプス)が生まれたときに、
「赤ん坊を殺すように」と依頼したのです。
しかしながら、召使いはそれをすることができず山頂に放置しました。
しかし、誰かがそれを拾い、育ったオイディプスが、ある事件で偶然、
ライオス(つまり父)を殺してしまうことになる、、、
そして諸々あり、知らずに王妃とも結婚することになる。
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と、ざっくりそんなエピソードです。
ここで考えたいのは、
”「息子に殺される」と言う予言を信じて、
恐れて山に捨てなければ、息子に殺される事はなかった”
のに、
”予言者の言葉を信じ従ったゆえに、予言通りになってしまった”、
ということです。
『予言は自己成就する』。
この言葉に、古代ギリシャから続く、深い意味を感じるわけです。
■そしてこの話と、「経済」との共通点を見出すことができる、
著者のヤニス氏はそう語ります。
例えば、経済。
お金は、皆が同じもの信じるという「共通幻想」です。
「もっと良くなるだろう」と信じれば、相場は上がっていきます。
逆に皆が「このままだとまずいんじゃないか」と思い始めると、
どんどんその方向が加速し、不況に突入していくのです。
”最初の一言”が、国のトップか、企業の偉い人か、何かの予兆かはわかりませんが、
何かが膨張を始める、あるいは一撃で転がり落ちるときは、
「予言者の一言を皆が信じ、雪だるま式にそうなってしまう」
ということに非常に近いわけです。
そういう意味で、『オイディプス王』の話は、
経済を考えた上でも、実に深い示唆があるといえる。
そのような切り口で伝えてくれるのです。
■その他、映画『マトリックス』の話や、
神話イカロスの伝説の話、映画『スタートレック』『ブレードランナー』など、
私たちにとってもなじみがある名作を例に挙げながら、
あるいはルソーや、ソクラテス、ソロー、ホップス、マルクス等々の
過去の偉人の理論を解説しつつ、例に出しながら、
「経済」をわかりやすく伝えてくれるそんな本です。
全部完璧に理解しなくとも、流し読みしているだけでも
「経済」と言うものがどのような生命体なのかを感覚的に伝えてくれる、
そんな気持ちになる著作です。
■何かを深く理解するためには、
”全体をひとつながりのストーリー”として認識することが重要です。
それをイメージとして捉えることができれば、
細かい部分は、より理解しやすくなるものです。
そんな全体像をとらまえるという意味でも、
「経済」というものについてなじみがない方にも、
またある程度勉強されてきた、という方にもお勧めの一冊かと。
よろしければ、ぜひ。
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<今週の一冊>
『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』
(ヤニス・バルファキス (著), 関 美和 (翻訳))
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